Essay 48

暴落局面で株式へ投資する方法

2016年1月19日
楽観から悲観へ

リーマン・ショック発生時に書いた エッセイ4「セリング・クライマックス」 に、当時の投資家の心理と市場のトレンドを書いた。金融・資本市場から経済にいたるまで、世界に大きな打撃を与えたリーマン・ショック。中国政府による大規模な景気刺激策、アメリカなどの金融緩和、さらには日本のアベノミクスによって、景気の回復がもたらされた。

市場が上昇トレンドにあるときの投資は容易だ。利益を簡単に上げられる。ところが、一転して、市場が下降トレンドに入ると、投資結果は悲惨になることが多い。 上海市場がバブル状態のときに、大儲けをしていた中国人学生を、CNNが紹介した。その学生は、まさに「ウハウハ」で、自分のボロ儲けを得意になってニュースキャスターに話した。
2~3日前に、CNNが再びその学生にインタビューした。学生は儲けのすべてを失っただけではなく、学費として取っておいた預金まで使い果たしてしまった。

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リーマン・ショックから6年目の2015年頃から、世界に再び暗雲が漂い始めた。

不動産や製造業へ、需要を無視した過剰な投資を行った中国。債務不履行などが原因になった、企業の破綻が進行中と思われる。けれども、中国政府が発表する統計資料の信ぴょう性は低い。中国発の危機の広がりを予想できないことが、市場をより一層不安定にしている。

資源をがぶ飲みしていた中国経済の低迷が始まり、過大な投資をした世界の資源商品市場が変調した。ドル単位での原油価格は、2014年のピークから6割も安くなったが、まだ下げ止まりが見えない。原油をはじめとする資源商品が暴落したために、資源でうるおっていた新興国の多くが、ダメージを受けている。

さらに、アメリカの金利引き上げを含めた金融引き締め策が、新興国からの資金流出を誘っている。新興国経済がどこまで落ち込むのか、先が見えない。新興国への輸出に大きく頼っている日本などの先進国の経済も、不安定になり始めた。

シリアとイラクで勢力をを誇っていたイスラム国。アメリカをはじめとする連合軍が、空爆で一定の成果を収めるに従い、戦線を拡大し始めた。リビアやナイジェリアなどのアフリカの国々で、イスラム国に連携するテロ組織の活動が目立っている。フランスなどの先進国へのテロの脅威が、先進国の社会や経済にマイナスの影響を及ぼし始めた。

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株式・債権・資源商品市場は、セリング・クライマックスの最初のステップにあるように見える。機関投資家や個人投資家の多くは、高リスクの積極的な投資に悲観的で、より安全と思われる資産に資金を振り向ける、リスクオフの状態になっている。 株式、商品、ハイイールド債などのリスクの高い資産から、資金が逃げ出している。株式市場のボラティリティが高まると同時に、トレンドが右肩下がりになった。

暴落への私の備え

けれども、世界の終末が来たわけではない。現状は、大きなサイクルの中の1つの局面に過ぎない。長期的な視点から対応することなく、感情に流されてパニックになったのでは、個人投資家は永久に負け組になってしまう。このエッセイ評論では、個人投資家である私が、市場が暴落するような事態に、どのように対応しているのかを具体的に述べる。

下降トレンドが大きくなれば大きくなるほど、多くの利益を上げられる、ベア(インバース)型ETFへも資金を振り向けている。ベア型ETFについては、このエッセイ評論の最後のほうで述べる。

未来は誰にも読めないという、簡単な真理を受け入れなければならない。先が見えない状態では、戦略は簡単であればあるほどいい。主観をできる限り捨てて、客観的な資料だけで判断することが大事になる。

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日本市場で投資をするだけでは、リスクが余りにも大きい。特に、政府債務の巨大さを考慮すると、財政破綻の可能性が大きく、10年単位の投資をする場合、資金の一部を海外へ移すことが大事になる。

ネットの発達のおかげで、日本にいながら、世界中に投資口座を開くことが可能になった。私の核心になる投資は、アメリカとオーストラリアの投資口座で実行している。日本での投資のリスクは両国よりも大きいので、結果としてそうなった。 皆さんも、少しでも安全な投資をし、利益を上げたいならば、日本以外にも口座を持つことをお勧めする。
海外での投資については、アメリカは エッセイ4「セリング・クライマックス」 エッセイ19「アメリカに口座を開いて世界へ投資する方法」 に、オーストラリアは エッセイ7「経済危機下でも年7%の利益を上げる投信」 に書いたので、参照していただきたい。

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投資は、常に未来を見つめて行う。現在の購入価格よりも、未来の売却価格が高ければ、利益が得られる。ところが、人間には未来を見通せない。 未来において、過去が繰り返されるわけではないが、過去を未来へ外挿することで、疑似未来を知ることは可能だ。この程度の哲学で投資を行うのは不安だが、この程度の哲学も持っていなければ、さらに不安だ。

セリング・クライマックスの到来を予感した昨年(2015年)、私は投資対象の入れ替えを行った。 市場が暴落すれば、損失が急拡大することが明らかな最もハイリスク・ハイリターンな株式、ETF、投信は、含み損が出ていても、まず最初に損切りした。

株式投資は一般にハイリスクだが、対象の株式によってはリスクを減らすことができる。資金をそんな株式へ移動させた。 長期的に株価が比較的安定している株式、ETF、投信を、過去5年、10年の価格チャートを見て選んだ。
どこの国の株式でも、長期的に右肩上がりのチャートを示す銘柄は、極端に少ない。特に、日本でそんな銘柄を見つけることは、ほとんど不可能だ。投資をギャンブルにしないために、海外投資を行うことの重要性はここにもある。

リーマン・ショックの影響は余りにも大きく、各国の株価が暴落した。 現在の株式選択で、私が注意していることの1つに、リーマン・ショック時の株価下落率がある。下落率が比較的小さく、かつリーマン・ショック以前の株価へ戻るまでの期間が短い株式を、選ぶ。 10年単位の投資では、次にセリング・クライマックスがあっても、このような株式を保有していれば安心できる。

暴落を想定して選んだ株式、ETF、投信

選択の過程での細かい検討は省略して、現在保有している株式、ETF、投信を示す。以下、配分投資金額の大きい順に並べる。

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アメリカ(FirsTrade Securities)

IGV
図1:North American Tech-Software (IGV)
(YAHOO! Finance USA)

IGVは、北米のソフトウエア企業の株式を対象にしたETF。上図では、10年株価チャートを示している。
リーマン・ショックで半値近くにまで暴落したが、2年後には、ショック前の株価に回復している。以後、現在までチャートはきれいな右肩上がりだ。

ITでは、アメリカがダントツで世界をリードしている。自動走行車などあらゆる設備・機器が、AIで制御されるので、ソフトウエア産業の未来は明るい。すなわち、このETFへの投資のリスクは低い。

Amazon
図2:Amazon (AMZN)
(YAHOO! Finance USA)

IT関連では、グーグル、アップル、アマゾンなどの巨大有名企業がアメリカにはあるが、私はチャートの安定性からアマゾンを選んだ。 アマゾンの株価へのリーマン・ショックの影響は、比較的軽度だった。小売業で圧倒的な地位を築いたので、将来的には安心だ。
グーグルは挑戦する企業で、現実的な収益の面からやや不安を感じる。アップルは一発勝負に賭けすぎる。

他に、バイオ、医薬・医療、IT関連のETFと株式を保有している。バイオはボラティリティが高く、現在は暴落状態だが、10年単位では確実な右肩上がりになっている。投資金額の調整はするが、手放すことはない。

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オーストラリア(Colonial First State Securities)

Magellan
図3:Magellan Wholesale Global Share
(Colonial First State)

世界の株式へ投資する投信。販売開始から5年しか経っていないので、5年価格チャートを示す。リーマン・ショックのようなセリング・クライマックス時での、パフォーマンスは分からない。

5年で価格が2.5倍になったのは驚きだが、素直な右肩上がりのチャートに、価格上昇以上にほれ込んでいる(感情を入れてはいけないと前述したが、こんなチャートを見るとやはりうれしい)。 世界の株式へ投資する投信で、ここまで素直な右肩上がりのチャートを示す投信を、他に見つけられなかった。

オーストラリアでは、この投信への資金配分が最も大きくなっている。Colonial Firstという、オーストラリア最大の証券会社に口座を持っていながら、オーストラリア国内へ投資する投信は、REITしかない。最大の輸出相手先国中国の変調で、資源関連の輸出が減り、オーストラリア国内への投資は危険な状態になっている。

Cash
図4:Wholesale Cash
(Colonial First State)

金融市場証券へ投資している投信。10年価格チャート。 エッセイ7「経済危機下でも年7%の利益を上げる投信」 で紹介した。10年で価格が1.6倍になっている。年割では約6%だ。
リーマン・ショックの影響はなく、資金の逃避先としては理想的だ。上記の比較的リスクが高いMagellanへ、オーストラリアでは最大の資金投入をしているので、全体的な安全性を考慮して、この投信を2番目に大きい資金投入先にした。

Infrastructure
図5:Global Listed Infrastructure Securities
(Colonial First State)

世界のインフラへ投資する投信の10年価格チャート。 リーマン・ショックで価格が40%下落したが、2年でショック前の価格を回復した。10年で価格が約2倍になったにもかかわらず、最近は下落気味だ。新興国の経済不調が、インフラ投資のネックになっている。

オーストラリアで保有している他の投信には、REIT、ヘッジファンド、バランスファンドなどがある。

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日本(SBI証券)

Nikkei
図6:日経平均株価
(YAHOO!ファイナンスJapan)

上述したように、 日本での投資はリスクが大きいので、振り向ける資金を少なくしている。 上の日経平均株価10年チャートを見れば、皆さんに私の判断を支持してもらえると思う。 リーマン・ショックで約6割下げた株価が、ショック前まで回復するのに、8年近くかかった。

IT
図7:情報通信サービス(1626)
(YAHOO!ファイナンスJapan)

リスクが高い日本の市場は、投資感覚を磨くのに適している(皮肉ではありません。実感です)。 そこで、SBI証券の口座で細かい売買を繰り返している。利益を得るためというよりも、勉強のためだ。

現在、持ち高が一番大きいのは、情報通信サービス(1626)のETFで、上に8年株価チャートを示している。 リーマン・ショックでの株価の落ち込みは4割程度。ショック前の株価に戻るのに5年半程度しかかからなかった。多くの日本株やETFよりも、このETFは低リスクであることが分かる。

日本にはIT関連のETFが少ない。IT分野のETFについては、SBI証券でも選択の余地がない。私が口座を持っている銀行に、IT関連の投信はない。IT技術では、日本はアメリカよりも遅れているので、アメリカ以上にIT分野が発展する可能性は大きい、とも考えられる。

下落局面で利益が出るETFとその投資先

市場が下降トレンドにあっても、利益を上げたいと考えるのが投資家だ。株式の売りから入る空売りで、株価下落時に利益を上げることができる。空売りの問題点は、ここでは書かない。
私は、FirsTradeで、ベア(インバース)型のETFへ資金を回すことによって、下降トレンドにある現在の市場で利益を確保している。ベア型ETFの株価は、通常の株価とは逆の値動きをするように、設定されている。すなわち、投資対象の株式が値下がりすれば、ベア型ETFの株価は上昇する。逆の場合は下降する。 以下に、その投資状況を書く。

Emerging
図8:Emerging Markets Bear 3X (EDZ)
(YAHOO! Finance USA)

上図は、新興国株価指数の3倍で値動きするベア型ETF、EDZの2年価格チャートだ。値動きが実際の株価変動の3倍になるので、利益が出れば3倍の儲けになるが、損失が出れば損が3倍になる。
下降トレンドでは、投資対象の株式の値下がりが、3倍に増幅された形で値上がりになる。上昇トレンドでは、株式の値上がりが、3倍に増幅された形で値下がりになる。
すなわち、極めてハイリスク・ハイリターンなETFだ。 このETFに、FirsTradeの口座では最大の資金配分をしている。配分自己資金が最大なだけではない。レバレッジが3倍になるので、実際の投資金額は自己資金の3倍になる。

このベア型ETFの株価は、当分右肩上がりを続けると思われる。そこで、投資での利益の確保は、通常の株式、ETF、投信ではなく、このETFで実行している。

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新興国ベア型ETFで、ハイリスク・ハイリターンの投資をするための裏づけになる、私の判断は以下のようになる。

  1. アメリカのさらなる利上げが、新興国からのさらなる資金逃避を促す。
  2. 中国経済の現状は分かりにくいが、需要を超えた過剰な投資が、製造業の根幹を揺さぶっている。中国の資源輸入の減少や、アメリカの安価なシェールオイルの増産が、資源輸出国の多い新興国経済に打撃を与えている。
  3. 通常は、オリンピック前に当事国の経済が活性化され、オリンピック後に落ち込む。ところが、ブラジルはオリンピック前の現在、すでに経済が苦境に陥っている。オリンピック後はさらに低迷すると思われる。
  4. ロシアは、原油安で打撃を受けているだけではなく、ウクライナ問題で苦境に陥っている。シリアへの介入は、ロシア経済にマイナスになる。
  5. トルコの地政学的な問題は、大きくなることはあっても、小さくなることはない。
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上図の右端の時点1月15日に、それまで保有していたEDZ株をすべて売却し、利益を確定した。 株価チャートの下に表示されている、各種指標のチャートは、もう少し保有していれば、株価がさらに上がる可能性を示している。けれども、無理をする必要はない。 売却で得た資金で、次にEDZの株価が下がったときに再度購入し、繰り返し利益を上げればいいのだ。市場がしばらく下降トレンドにある場合(ベア型ETFが上昇トレンドにある場合)は、こうやって利益を積み上げていく。

1月15日の売却は、各種指標チャートを参考にして判断した。もう1つ、とても簡単な根拠をもとにした。2年価格チャートの何か所かに、短期の天井が認められる。他の底~天井の上昇率との比較から、昨年11月に始まった今回の短期の上昇トレンドは、ほぼ天井を打ったと考えた。

China
図8:China Bear 3X (YANG)
(YAHOO! Finance USA)

上図は、中国の株価指数の3倍で値動きするベア型ETF、YANGの2年株価チャートだ。EDZと同じように、極めてハイリスク・ハイリターンなETF。中国経済については、信用のできる統計資料を得るのが困難なので、新興国全般よりも判断が難しくなる。ただし、 私は中国経済についてもかなり悲観的なので、しばらくの間、YANGで利益を上げることを考えている。従って、資金配分はEDZに次いで多い。3倍にレバレッジされたEDZとYANGへの実際の投資金の合計は、アメリカでの他の株式、ETF、投信への合計額を、はるかに超えている。
オーストラリアと日本では、空売りをせず、ベア型ETFの購入もしないので、アメリカでベア型ETFに資金を投入することは、投資全体のバランスを保つために大事だ。ベア型ETFは日本にもあるが、アメリカのほうが数がずっと多く、地域・業種などでの選択の余地が大きい。

EDZと同様に、1月15日に、それまで保有していたYANG株をすべて売却した。その売却の判断の根拠は、EDZと同じだ。

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以上、 エッセイ4「セリング・クライマックス」 で書いた総論を補完する意味のある、本エッセイ評論で、市場が低迷している時期における私の投資法を、具体的に書いた。皆さんの参考にしていただければ幸いだ。


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