宇宙の基本構造(第2部)

ループ量子重力理論を次元の彼方にまで投影した上で、量子コンピューターを動作させる量子もつれを考察すると、宇宙の存在原理が見えてきます。素粒子は、時空の壁を越え、異次元時空との間を常時行き来しています。私たちは、異次元時空の表象として存在しているのです。

Essay 54
時空を超える量子ネットワーク

2017年4月23日(修正2017年9月2日)
時間とは何か?

感覚的には存在するのが当り前に感じられる時間。物事の本質を見極めようとする物理学者にとっては、時間の問題は単純ではない。 時間に関する究極的な解は、まだ得られていない。

特殊相対性理論では、動いている物体を外から見ると、物体内で経過している時間が、外の時間の流れとは異なる。 宇宙船が速度を上げ、光速に近い速度になっても、宇宙船内の観測者にとって、船内の時間の流れには変化がない。ところが、宇宙船外の観測者には、宇宙船内の時間の流れが遅くなるように見える。重力場も時間の流れを変える。強重力場における時間の流れは、その場にいる観測者にとっては変化がないが、外から見ると限りなく遅くなる。

宇宙の全ての物体が、異なる速度で動き、異なる重力場に存在している。宇宙を外側から見れば、私たちの宇宙には、数限りない時間が存在している。 しかし、速く動く物体であれ、強重力場に存在する物体であれ、物体内部の時間経過は常に一定している。

量子力学の時間概念は、マクロの宇宙に適用される相対性理論とは異なる。量子世界の時間には、過去と未来を区別しないという特徴があり、時間の逆行は当り前だ。時間は、観測者や時計や座標系が定義するもので、系に固有の物理量ではない。

図4.時間要素を生み出す組み替え
recombination to produce time

ループ量子重力理論では、スピンネットワークに時間の要素が加わらなければ、宇宙空間でどのような物理現象も生じることがない。スピンネットワークは凍てついたままになる。 スピンネットワークに時間の要素を加えたものを、スピンフォームと呼ぶが、空間の3つの次元(縦、横、高さ)に相当する、独立した時間の次元を想定するのではない。
推移する現象を観察することによってのみ、森羅万象を認識できるとする、現象学という哲学理論に相通じる考え方を、ループ量子重力理論は採用する。 これによって時間を単純明快に説明できるが、時間の流れは錯覚と同じものになってしまい、物理学的な突き詰めとしては甘いと考えざるを得ない。

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ループ量子重力理論に時間の概念を取り込むために、スピンネットワークの組み替えが考えられた。 スピンネットワークは、1プランク時間毎に、幾何構造がやや変化した別のスピンネットワークに組み替わる。量子の移動は、組み替えのたびに、スピンネットワー幾何構造の中で、体積量子が1プランク長さだけ異なった位置に現れることで、実体化する。重力波の伝播も、このような幾何構造の連続的な組み替えによって説明される。

これらの組み替わったスピンネットワークが連綿と連なって、スピンフォームを形成する。現象の推移は、パラパラ漫画を見るのと同じように認識され、現象の推移が時間の流れのように感じられる。時間には確固とした実体がなく、時間は疑似的なものになる。 宇宙で生じる全ての物理現象が、独立した時間軸を設定しないこの組み替えによって、説明される。ところが、時間軸を無視しては、私たちが観測できる物理現象の説明ができなくなることを、以下で順次説明する。

光子の直進飛行から見える謎

量子の空間移動を、光子を例に取って、スピンネットワークの組み替えで説明する。

質量がゼロと説明される光子だが、エネルギーを吸収してエネルギー準位が高まれば、体積量子が大きくなる。 質量を有すると判断されることがあっても、理論的には不都合がない。 実験的に、「重い光子」の存在が示唆されている。エネルギー準位が高まって重くなった光子では、リンクの数も増すので、空間の移動速度がやや遅くなると思われる。

図5.組み替えによる光子飛び飛び直進飛行
jumping flight of photon

エネルギーである光子が、体積量子から放出されると、スピンネットワークが局所的に励起され、光子に相当する幾何構造が形成される。この構造が、スピンネットワークに現れるのは1プランク時間後だ。 誕生した光子の位置は、光子を放出した量子の位置から1プランク長さだけ離れている。1プランク時間毎に、スピンネットワークが連続して組み替わり、光子幾何構造が、1プランク長さだけ離れた箇所に順次現れる(図5)。これによって、パラパラ漫画を見るように、光子が宇宙空間を飛んでいく。

この光子の動きが、マクロでは秒速30万kmになる。光子はヒッグス粒子と反応しないので、空間を光速で直進する。大質量の物体から多数のリンクが周囲へ広がり、高密度のリンクが空間にゆがみをもたらす。 光子は、空間が大きくゆがんでいても、2点間の最短距離を飛ぶ。それは、幾何構造場のリンクが疎でも密でも、光子スピンの属性には変化が生じないことを意味する。

一般相対性理論によると、時空の一点は、座標値によってではなく、そこで物理的に起きている現象によって定義される。時空の座標系が変わると、光子の形や大きさが変わるが、スピンやループなどの属性は維持されるので、滑らかに座標変換しながら、同一の量子として光子は飛行し続ける。

他の量子も、スピンネットワークの組み替えによって、1プランク時間毎に1プランク長さだけ離れた箇所に現れる。質量を有する量子が、マクロで光速飛行しないのは、ヒッグス粒子との相互作用によって、量子レベルでジグザグ運動をするからだ。

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上記の幾何構造における現象を、もう少し深く考察してみたい。基本的な謎が浮かび上がり、宇宙空間を3次元孤立系と規定しては、その謎の解明が不可能になることが分かる。

図6.孤立系組み替えの矛盾
contradiction of isolated system

組み替わるスピンネットワークの各々が、独立した孤立系であるならば、組み替え後の光子の位置は、量子ゆらぎにもとづいた不確定性原理に支配される。光子が、空間の決まった位置に現れることはない。 光子の幾何構造が消失することも考えられる。

図4に示したように、光子が直進飛行するには、組み替えのたびに、直線的な軌跡を描くようなスピンネットワーク内の決まった位置に、光子幾何構造が現われなければならない。組み替えにおいて、特定の量子幾何構造が、スピンネットワーク内の決まった位置へ移動することを、不確定性原理に抵触することなく説明できるのだろうか?
組み替わるスピンネットワークの全てが、光子放出時点のスピンネットワークと連動していなければ、このような現象は起こらない。不確定性ではなく、予定調和が必要になる。

ヒッグス粒子と反応する量子も、ヒッグス粒子と遭遇したあとの組み替えで、それまでの飛行経路の延長線上に現れなければならない。そうでなければ、フェルミ粒子から成る質量を有する物体が、マクロの空間を直進飛行することがなくなる。

背景依存の超ひも理論では高次元時空が存在するので、4次元時空で直進飛行することの説明が、容易になる。けれども、ループ量子重力理論では話は簡単には済まない。
ここまで、光子が直進飛行するには、組み替え時に次々と現れるスピンネットワークの間で、予定調和が必要になることを述べた。予定調和をもたらすスピンネットワーク間の連動の機構は、単純ではない。注意深く考察すると、組み替え機構を、高次元時空にまで延伸する必要に迫られる。

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宇宙誕生以来、同じ時間間隔で、スピンネットワークが連続的に組み替わった。時間間隔を一定にする機構がどこかに存在しなければ、このような組み替えはあり得ない。
その機構は、高次元時空に存在するとしか考えられない。高次元時空に、高次元時間と高次元幾何構造が存在する。高次元幾何構造の次元の数が減少して、3次元的な空間表象になったものがスピンネットワークだ。高次元時間は、4次元時空の時間とは異なり、1方向へは流れていないと思われる。1次元的な時間が選ばれ、その時間軸に沿って、スピンネットワークの3次元幾何構造が連綿と並んだ状態が、私たちの宇宙のスピンフォームになる。

この仮説以外にも、時間次元と空間次元が互いに独立することなく、混然と一体化した状態を推察可能だ。 空間に時間的な要素が組み込まれているか、時間に空間的な要素が組み込まれていれば、1プランク時間毎のスピンネットワーク組み替えの説明が、容易になる。ループ量子重力理論には、この発想のほうが親和性が高そうだ。 ただし、時空を完全に融合させる理論の確立には、とても大きなチャレンジが必要になる。

高次元時空に、組み替えのタイミングと、組み替わるスピンネットワークを決定する機構があるならば、宇宙誕生以前に、星々や人間の運命が決まっていたと思われる。このような運命論を受け入れることは、心理的に抵抗があるが、ここまで述べたように、スピンフォームの起源にまで踏み込むと、この可能性を否定できなくなる。

超ひも理論の高次元時空は、ループ量子重力理論から導かれる高次元時空とは異なる。ループ量子重力理論が、時間を独立した1つの次元と考えないのに対して、超ひも理論には、次元として規定される流れる1次元の時間が存在するからだ。

無数の異質な宇宙が誕生

ループ量子重力理論も一般相対性理論も、3次元空間の中で理論の構築が図られている。しかし、組み替えによって次々と誕生する3次元スピンネットワークの供給源を、私たちの宇宙の物理法則が破たんする高次元時空に求めなければ、疑問の解明ができないことをここまでに述べた。 高次元時空の概念を取り込むと、無数の宇宙が誕生するマルチバースについて触れなければならない。

真空ゆらぎや量子ゆらぎは、量子力学の基本現象なので、組み替えもゆらぐと仮定することが可能になる。組み替えのゆらぎには、スピンネットワーク幾何構造に現れる空間的なものと、組み替えの時間的なタイミングに現れる時間的なものの、2つが考えられる。 量子世界の時間の流れは、未来ばかりか過去へも向かうので、時間ゆらぎを導入することに無理はない。

空間的なゆらぎには、局所の量子ゆらぎだけではなく、スピンネットワーク全体のゆらぎがある。局所のゆらぎは全体的なゆらぎに波及するので、質の異なる2つの空間的なゆらぎが混ぜ合わされ、スピンネットワーク全体のゆらぎは極めて複雑になる。すると、1回の組み替えで、多様な空間構造を持った宇宙が無数に誕生することを、予想できる。

これに時間のゆらぎが加わる。組み替え時に、正の時間だけではなく負の時間も発現する。また、組み替えの時間間隔は、1プランク時間だけとは限らない。100プランク時間や1億プランク時間など、無数の時間間隔を想定できる。このようにして、組み替えが生じるたびに、数限りない時間間隔のスピンフォームが誕生する。

誕生する宇宙スピンフォームの空間と時間における多様性は、全ての宇宙を外側から見たときにしか、直接には観測できない。微分同相変換不変性によると、ある特定の宇宙に存在する観測者は、無数の異なる時空が寄り集まった、宇宙全体に適用できる普遍的な物差しを持っていないからだ。

図7.理論別マルチバース宇宙
multi birth

一般的なマルチバース宇宙論では、並行宇宙が、初期宇宙として誕生する。これは、超ひも理論のブレーン誕生に相当する(図7下)。ループ量子重力理論では、既に述べたように、誕生後のあらゆるステージの宇宙から、いろいろなステージの宇宙が誕生することが、可能だ。 誕生最初期の宇宙からは、1プランク時間後の組み替えで、最初期の別の宇宙が誕生し、137億歳の私たちの宇宙からは、137億歳の別の宇宙が、この瞬間に誕生している。時間のゆらぎが負の方向へ向かえば、組み替えの時点よりも若い宇宙が、誕生する。
超ひも理論では、2つのブレーンの接触が新しい宇宙ブレーンを誕生させるので、接触したブレーンどうしに何らかの影響が及ぶ。場合によっては、親宇宙の壊滅的な破壊につながるかもしれない。ループ量子重力理論では、親宇宙の組み替えによって、親宇宙とは全く異なる宇宙が誕生する。親宇宙に何らかの影響を与えることは考えられない。

ループ量子重力理論の宇宙は背景独立性なので、マルチバースで生まれた各宇宙の間に、余剰な空間は存在しない。全ての宇宙が、隣どうしで密着している。 隣り合った体積量子どうしが、ループを介して影響し合うように、 隣り合った宇宙どうしの間で、相互作用を及ぼし合っている可能性を、否定できない。
これに対して、背景依存性の超ひも理論では、各宇宙の間に余剰な時空が存在する。4次元時空ブレーンよりも次元数が多い、余剰時空だ。2つのブレーンが接触して、新しいブレーンが誕生するような場合を除いて、ブレーンどうしの間に直接の相互作用はない。重力子のように、時空の壁を越えて飛び回る、量子レベルの相互作用は存在する。

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図8.サイクリック宇宙を動かす力
cyclic universe

次に、サイクリック宇宙論にループ量子重力理論を適用してみたい。

既述のように(「宇宙を構築する究極の量子」)、外殻面積量子を欠いたスピンとリンクは、限りなく拡大・伸長すると思われる。宇宙が膨張するとスピンネットワークが全体的に伸びるので、単位空間当たりの真空エネルギー量が減少する。すると、膨張速度が遅くなり、やがて膨張が停止する。 真空エネルギーにしろダークエネルギーにしろ、斥力を生み出すエネルギーの幾何構造がある程度伸びると、引力を生み出すダークマターに相当する幾何構造の影響力が大きくなり、力の及ぼし合いにおいて両エネルギーが平衡状態に達する。

次いでダークマターが優勢になり、宇宙は縮小に転じ、ビッグクランチによって、最後には1つの超巨大ブラックホールが形成される。 ブラックホールの表面に、宇宙の全情報が閉じ込められた事象の地平面が、存在する。 スピンネットワークが、極限にまで収縮すると、スピンネットワークに内在していた重力が、引力から斥力に変わる。ビッグバウンスによって宇宙が再び誕生する。
ビッグクランチで事象の地平面に宇宙の全情報が蓄えられ、ビッグバウンスでその情報が解放されるならば、同じ経過をたどって、同じ宇宙が、何度も死と誕生のサイクルを繰り返すことになる。同じ地球が繰り返し誕生し、同じ人々が繰り返し地球に住む。 眼に見える次元を越えると、科学的な思考だけでは済まなくなり、哲学的にも宗教的にもいろいろなことを考えざるを得ない。

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ループ量子重力理論と見事に調和するビッグバウンス理論は、一見美しく見える。けれども、 スピンネットワーク宇宙を孤立系とすると、解決が困難な問題が生じる。

孤立系宇宙では、宇宙の外との間でエネルギーのやり取りがない。その系に存在するエネルギーだけで、全ての物理現象が変遷する。 空間が膨張している間は、ダークマターよりもダークエネルギーが優勢だが、平衡状態に達し、クランチに転じた時点で、ダークマターが優勢にならなければならない。ビッグバウンスの時点では、それとは状況が間逆になる。特異点を形成したダークマターに対して、ダークエネルギーが優勢にならなければ、宇宙の再膨張はあり得ない。

上に紹介したビッグバウンス理論では、重力子が引力と斥力の両方の力を担うとされる。けれども、重力子が斥力を担うのは、スピンネットワークの特異点化という極限状況下だけだ。ビッグバン後の宇宙でも膨張を担うと考えることには、無理がある。ビッグバン後に宇宙を膨張させるのは、上述したような幾何構造を持つ真空エネルギーと考えられる。

ダークエネルギーを真空エネルギーとすることに矛盾はないが、ダークマターの由来は謎だ。そこで、1つの可能性として次のような考察を行った。
孤立系宇宙で膨張と縮小を起因させるには、ダークエネルギーとダークマターが、相互に転換されることが必要と思われる。 ビッグバウンス時の極微宇宙には、ダークエネルギーが満ちていた。宇宙の膨張とともにダークエネルギーがダークマターに転換される。ダークエネルギーとダークマターのバランスが取れた平衡状態で、膨張が停止する。ダークマターがさらに増え、ダークエネルギーが減少すると、宇宙は縮小を始める。ビッグクランチにおいて、ダークマターがダークエネルギーに転換され、宇宙が再び膨張する。

このような相互転換が可能だろうか?ダークエネルギーもダークマターも未知のエネルギーなので、相互転換をあり得ないと断定はできないが、理論化にはとても大きな挑戦が必要になる。

背景独立性の理論の基本概念に抵触するが、ここでも、宇宙を外に開いた解放散逸系と考えれば、理論展開が容易になる。ダークエネルギーとダークマターを、他の時空との間でやり取りできるからだ。

ループ量子重力理論を高次元へ展開
図9.組み替え階層構造から成る時空
hierarchial structure of spin network

私たちの宇宙に、孤立系という前提を与えることで生じる問題を指摘してきたので、ここでループ量子重力理論における時空の概念を発展させることを、試みる。 図9で、異なる3つの物理場(光速飛行、強重力場、量子世界)における、スピンネットワークの階層構造的な組み替えをまとめ、示している。ここで考慮すべき大事な原理は、第1部で触れた、階層構造の組織化がもたらす創発なので、この原理を頭に入れて読み進んでいただきたい。

光速で飛行する物体の幾何構造は、1回の組み替えにおいて、次のスピンネットワークの1プランク長さだけ離れたところに現れる。物体内の観測者にとっては、1プランク時間で1プランク長さだけ動いたことになる。 特殊相対性理論によると、光速飛行する物体を物体外から観測した場合、物体内の時間は停止している。 物体外の観測者にとっては、組み替えによって物体が移動したにもかかわらず、その物体は、まだ1プランク時間前のスピンネットワークに存在している。 光速飛行物体の内と外にいる観測者にとって、時間の流れが変わる理由を、ループ量子重力理論でこのように説明することが可能だ。

重力が限りなく大きいブラックホールの事象の地平面の近くに、物体がある。物体内の観測者にとっては、スピンネットワークが1プランク時間後に組み替わるので、時間は通常通りに流れる。 移動距離も通常通りだ。 外の正常な宇宙にいる観測者にとって、物体内では時間が経過しないので、物体は、1プランク時間前のスピンネットワークに存在している。また、物体は停止しているように見える。

量子レベルでは、組み替え時に、新しいスピンネットワークへ量子幾何構造が移動する場合がある。未来への移動だ。最初のスピンネットワークに留まる場合もある。直前のスピンネットワーク、即ち過去へ移動することもある。 物理現象として見れば、量子は現在に留まることも、未来へ移動することも、過去へ向かうこともある。量子の不確定性が、時間の要素との関連でスピンフォームに顕現するならば、このように説明できる。

以上の3種類の物理場における、スピンネットワークの階層的な組み替えが組み合わさって、宇宙に時間が流れ、物体が空間を移動しているように、私たちは感じる。

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この考察が正しいならば、独立した単一の宇宙スピンネットワークが、1つひとつ単純に組み替わるのではない。 スピンネットワーク内の局所的な量子幾何構造が、過去と未来のスピンネットワークに顕現し、その顕現した幾何構造が、現在のスピンネットワークの幾何構造に投影される、という複雑な現象が生じている。 組み替えにおいて、スピンネットワークの階層が融合すると考えなければ、時間の流れに沿った物理現象を説明するのは、不可能に近い。
微分同相変換不変性を援用することによって、この考察を正当化できるかもしれない。 微分同相変換不変性によると、時空に特別な座標系は存在しない。 時空の一点は、そこで物理的に起きる現象によって定義される。すると、独立した単一の新しいスピンネットワークが、組み替えによって次々と現れるのではなく、 個々の現象、即ち局所的な幾何構造の過去から未来に渡る変動が、現在のスピンネットワークに顕現することが可能になる。

時空を超えて発現する量子もつれ
図10.量子もつれで物理法則破たん
quantum entanglement

ここまで推論を進めてくると、「量子もつれ」が重要な役割を演じている、と考えたくなる。 アインシュタインは、量子の非局所性という概念で示された量子もつれに、拒否反応を示した。アインシュタインによると、「神はサイコロ遊びをしない」のだ。大御所アインシュタインの批判によって、非局所性の議論が物理学の表舞台から消えた。 量子もつれが真剣に議論されるようになったのは、特殊相対性理論が発表されてから、100年ほど経ってからだった。

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量子もつれを特徴づける非局所性とは、遠く離れたところに存在する2つの量子の物理的な特性が、何の媒介もなしに同期することだ。たとえば、銀河の両側に存在する2つの量子のスピンや運動量が、同期していることを予想できる。
同期とは、一方の量子のスピンが上向きならば、もう一方の量子のスピンが下向きになることだ。 もつれあった2つの量子のスピンの合計は、必ずゼロになる。この特性から、宇宙はゼロから量子もつれによって誕生した、と考える物理学者がいる。

2つの量子が5万光年離れていても、まるで距離が存在していないように、同期は瞬時に行われる。 SF用語のテレポテーションは、量子もつれと同義語だ。SFでは、テレポテーションで人間が空間を瞬間移動する。
相対性理論では、光速が宇宙で最速の速度になる。どのような物体も物理現象も、瞬時に5万光年の彼方へ移動することも、伝播することもない。 量子もつれは、眼に見えるマクロの世界の物理法則に完全に反する、とても奇妙な現象だ。

さらに奇妙な特徴がある。量子もつれは、半減期なしで突然に消えることがある。通常の物理現象では、エネルギー場のこのような突然死はあり得ない。 量子もつれが高次元時空を介した現象ならば、突然死を容易に理解できる。高次元時空へ消えた量子もつれは、私たちの宇宙に痕跡を残さない。逆に、量子もつれが、高次元時空から突然に出現する可能性がある。

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この量子の特性を利用して、次世代型の量子コンピューターが開発されている。 2つの量子が、波動関数で上記のようにもつれた状態が、量子もつれで、 1量子の場合は、状態の重ね合わせと呼ばれる。目に見える物体ではあり得ないが、重ね合わせは、1つの量子が、2つの量子状態で存在していることを、意味する。
量子もつれをやや単純にした、 重ね合わせを使った量子コンピューターの実用化が、進んでいるので、重ね合わせだけではなく、量子もつれも否定することができない。量子コンピューターでは、大量の情報を送信するための、大量の重ね合わせの制御が難しい。重ね合わせの集団が大きくなると、特定の量子状態が壊れやすくなるのだ。空間の壁を超える量子もつれの検証には、技術的にさらに大きな困難が伴う。

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量子もつれは、空間だけではなく、時間的に離れた量子間でも成立するという研究論文が、最近発表された。 時間的に離れて存在する量子の間で、物理的な属性の同期が認められるということは、 今ここに存在している量子の物理的特性が、過去あるいは未来に存在する量子と同期することを意味する。 物理現象が、空間ばかりか時間の壁も乗り越えてしまうのだ。

ここまで述べてきたように、 ループ量子重力理論の時間は、現在のスピンネットワーク幾何構造と、過去や未来のスピンネットワーク幾何構造が階層化し、それらの階層が融合することによって顕現すると思われる。空間と時間を超えて量子を同期化する量子もつれが、この階層の一体化が現に生じていることを示す、大事な証拠になる。 これはまた、閉鎖的な背景独立性の宇宙像の概念には、根本的な誤りがあることを示唆する。

誕生時と現在の宇宙の大きさ

ループ量子重力理論では、ノードから出たリンクの数で空間のゆがみを表現する。多数の体積量子が集合・合体すると、合体体積量子とその外殻の面積量子が増大する。体積量子に内在するノードどうしをつなぐリンクの数が増えると同時に、体積量子の外へ出ているリンクの数も増える。
宇宙空間が限りなく縮小すれば、全てのノードが密集・密着する。超大質量体積量子の中では、ノードから出るリンクが極限にまで折りたたまれるので、空間が極端にゆがむ。宇宙誕生時には、現在の宇宙に存在する全てのノードとリンクが、そのような凝縮塊の中に存在していた。

現在の宇宙には、合計で10 80 個程度の量子が存在している。最小の体積量子の体積は10 -99 立方cmなので、10 80 個の量子が隙間もなく密着すると、体積量子の凝縮塊は10 -19 立方cmになる。これが、宇宙の特異点の大きさとして計算される最小値だ。現在の宇宙の真空エネルギーも圧縮されるので、実際の特異点はこれよりも大きい。
10 -19 立方cmよりもある程度大きい立体でも、日常的な感覚では極微と判断される。けれども、量子レベルでは小さいとは言えない。 ループ量子重力理論が正しいならば、特異点は無限小どころか、量子世界の尺度からはかなり大きいことになる。

私たちの宇宙よりも空間次元が1つ多い、4次元空間宇宙の大きさについて、オスカー・クラインが1926年に述べた。 「4番目の空間次元は、3次元空間の中に小さく埋め込まれている」。 超ひも理論によると、私たちの宇宙に、6つの空間次元が小さく丸まった宇宙が、隠れている。隠れた高次元空間は余りにも小さく、観測は不可能だ。 無限小の4次元空間から4番目の空間次元が除かれて、私たちの3次元空間宇宙が誕生した。 宇宙誕生において、無限小空間からかなり大きい空間への転換があったことになる。

私たちの4次元時空は、誕生前だけ高次元時空と一体化していたのではない。今でも高次元時空と一体化していることを、量子もつれが示している。空間と時間を超えて量子が同期することは、物理法則を適用できる範囲内ではあり得ない。物理法則が破たんする時空の存在を想定する以外に、選択の余地はない。 その時空の表象が量子もつれに顕現している。

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スピンネットワークが宇宙空間そのものならば、宇宙の端はどうなっているのだろうか? 微分同相変換不変性は、宇宙の端を考えるときにも、重要な意味を持つ。宇宙の中にいる観測者が、宇宙の端を思い描けないことを、これによって証明できるからだ。
特殊相対性理論によると、観測者が存在する場所の時空は、宇宙の他の場所の時空とは異なる。 微分同相変換不変性があるために、観測者は、無数の異なる時空が寄り集まった、宇宙全体に適用できる普遍的な物差しを持っていない。観測者にとっては、端の観測が不可能な宇宙が、茫洋と広がっていることになる。

宇宙の現在の直径は、930億光年と計算される。これは、視点を宇宙の外側に置いたときにのみ、観測値として成り立つ値だ。宇宙の外側にある座標系から、私たちの宇宙の全体像を眺めれば、特定の座標系の中に宇宙を置くことになり、直径を求めることができる。
3次元空間宇宙に住んでいる私たちが、宇宙の端を認識できない理由を、高次元時空との関連で直感的に説明することを エッセイ41「外側から見た私たちの宇宙」 で試みたので、参照していただきたい。

ループ量子重力理論と超ひも理論の融合の難しさ

ここまで、ループ量子重力理論と超ひも理論を融合することによって、多くの疑問が解決される可能性があることを、述べてきた。けれども、 背景依存性の超ひも理論は、ブレーン空間の微小振動を量子の基本概念にしているので、量子幾何構造が空間を構成していると考える、背景独立性のループ量子重力理論と融合させるには、何らかのブレークスルーが必要になる。 両理論の統一は容易ではない。

両理論が述べる、ひもと体積量子の大きさに矛盾がないかを、比較してみる。ひもの大きさは10 -32 cmほどだ。ひもの太さはゼロと考えられるので、10 -32 cmはひもの長さになる。太さゼロでは、日常的な感覚からは3次元的な実体にはならない。けれども、この感覚は、ひもを、明確な境界面を有する粒子と仮定した上でしか、成り立たない。実際には、空間の励起場に過ぎないひもには、物理的に明確に表面と断定できる境界は存在しない。そのために、3次元的な構造を有することを、数学的にしか表現できない。

直径10 -32 cmの球体をひもと仮定すると、その体積は5x10 -97 立方cmになる。ひもは細長い振動体なので、実際の体積はこれよりもずっと小さい。数学的な概念である、幾何構造表面を有する最小の3角錐体積量子の体積は、10 -99 立方cmだ。 両量子力学理論とも、最小の単位を求めるにあたってプランク定数を用いているので、サイズでは両理論の間に決定的な違いがない。

超ひも理論では、重力子以外の量子の相互作用を、ひもの開いた両端が、他のひもに結合することで説明する。閉じたひもである重力子は、量子どうしの間で受け渡されることによって、重力場を形成する。相互作用の説明がループ量子重力理論とは異なるが、この違いは、両理論の発想の原点に横たわっている決定的なものだ。

ループ量子重力理論では、最も小さい3角錐体積量子から出るリンクの数は、4本になる。エネルギーの吸収によって質量が増えれば、体積量子も面積量子も増え、3角錐よりも大きい多面体になる。これによってリンクの数も増す。一方、開いたひもが、他のひもと相互作用する箇所はひもの両端なので、作用箇所は2箇所に限定される。 数多くのリンクを、ひもの2個所に集中させる理論的なアプローチがなければ、相互作用の観点からの両理論の融合は、不可能になる。

上のような問題を理解した上で両理論を統合し、新しい量子力学の概念を打ち出すのは、間違いなく難しい。けれども、科学は常に進歩を続ける。理論物理学者の努力によって、統一理論が完成する日が来ることを信じている。

<和戸川 純>

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