Essay 64

アマゾンビデオのクラッシュを止める

2018年12月27日
和戸川 純
プライム・ビデオが視聴不能

年3900円を払ってアマゾンのプライム会員になると、購入時にいろいろな特典を受けることができる。アメリカの年会費は119ドル(約1万3000円)で、他の多くの国に比べて、なぜか日本が特に安くなっている。プライム会員の特典の中に、約7万本あるビデオ(映画、動画)のうちの約3万本を、無料で視聴できることがある。パソコンだけではなくテレビでも、高画質なプライム・ビデオを視聴可能なので、映画好きには間違いなくお得だ。アマゾンは、会員獲得の宣伝において、プライム・ビデオを前面に押し出している。

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私は、ネット経由で配信されるビデオを、デスクトップ・パソコンで視聴する。ところが、YouTubeでは何の問題も生じないが、プライム・ビデオの場合は、ブラウザによっては深刻な問題が生じることを、経験した。

日常的に使っているブラウザは、Google ChromeとFirefox。何の対策も取っていなかったときに、Firefoxでプライム・ビデオを視聴すると、ディスプレイの画面が時々ちらつくのが気になった。Chromeではちらつきが激しくなって、すぐに画面が真っ暗になってしまった。こうなるとパソコンの操作が不可能になり、パソコン本体のスイッチでパソコンをオフにしてから、再度オンにしなければならなかった。

アマゾン担当者にも分からない解決法

この問題を、プライム・ビデオだけの問題と簡単に割り切るわけにはいかない。深刻な問題がどこかに潜んでいて、それが、プライム・ビデオをChromeで視聴するときに、先鋭的に現れる可能性がある。

問題の解決策を探してネット検索を行った。一般的な解決法は、①パソコンの再起動、②OSやドライバーの最新化、③ブラウザの再インストール、➃バックグラウンドで動いているアプリケーションの停止、⑤キャッシュの削除、⑥Silverlightのインストールなどだった。
これらの解決策の全てを試みた結果、Firefoxでのプライム・ビデオ視聴には、問題がなくなった。しかし、Chromeでは問題が解決されなかった。ディスプレイの暗転化はなくなったが、ビデオを開いた途端に映像が消える、という症状が残った。

図1.クラッシュ時の警告(Google Chrome)

図1の警告画面で、右下の「再読み込み」のボタンをクリックしても、何も起こらなかった。左下の「詳しく見る」をクリックすると、Chromeのヘルプ・ページへ飛んだ。アマゾンが、グーグルにげたをあずけた格好になる。飛んだ先のページにいくつかの解決策が示されていた。①インターネット接続の確認、②キャッシュとCookieの削除、③他のタブ、拡張機能、アプリを閉じる、④パソコンの再起動、⑤Chromeの更新、⑥迷惑ソフトウェアの削除などだった。これらの全てを実行しても、問題は解決しなかった。

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アマゾンにメールと電話で解決策を問い合わせた。電話の向こう側から繰り出される指示を受けながら、パソコンやブラウザを再設定した。とても時間がかかった。その間に担当者が3人代わった。それでも問題は解決しなかった。

最後にメールが届いた。担当者が社内の技術者に確認したところ、私のアクセスにおいて多数のHDCPエラーが生じていることが、分かったのだ。HDCPは、デジタル著作権管理技術の一種。パソコンからディスプレイなどの出力機器へ、画像や映像の信号を転送するときに、転送される信号に暗号化を施す。これによって、不正コピーを防止する役割が果たされる。

メールに書かれていた対処法は、パソコンにディスプレイを1台しか接続しないこととか、パソコンとディスプレイをつなぐHDMIケーブルが、要件を満たしていなければならない、などという一般的なものだった。HDMIケーブルに問題がある可能性が、指摘されていたので、念のために最新のケーブルをアマゾンから購入した。この努力は無駄になった。問題は改善されなかった。

クラッシュの原因を特定

アマゾンとのやり取りなどから、通信環境かChrome、あるいはその両方が、高画質大容量のプライム・ビデオを十分に処理できないことを、推測できた。プライム・ビデオは、YouTubeのビデオよりもパソコンに負荷をかける。Chromeは、この負荷を乗り切れないのかもしれない。YouTubeのビデオよりもさらに容量が小さい、私が作ったアニメの視聴にも問題がないことが、この推測の正しさを示唆した。この推測が正しければ、Chromeには、プライム・ビデオからの負荷に耐えきれない理由が、あるはずだ。

システムに影響を与えるようなChromeの設定が、あるのだろうか?そのような問題があるとしても、プライム・ビデオとの関連では、今までにほとんど指摘されなかったことが、ネット検索とアマゾン担当者の対応から明らかだった。

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プライム・ビデオを忘れてChromeに焦点を絞ると、動画などでChromeが停止する問題と、それへの対応策を述べているユーザーが、かなりいることが分かった。対応策は、次のようになる。

図2.クラッシュを引き起こすハードウェア・アクセラレーション

「⁝(Chrome画面右上の設定ボタン)」>「設定」>「詳細設定」>「システム」と開く。「ハードウェア・アクセラレーションが使用可能な場合は使用する」が、デフォルトではオンになっている。このアクセラレーションの青いドットを左にスライドさせて、オフにする。驚いたことに、たったこれだけで、プライム・ビデオをChrome上で何の問題もなく視聴できるようになった。難問が、いともたやすく解決されてしまった。それまでの苦労は、いったい何だったのだろうか?

画像処理技術の問題

ハードウェア・アクセラレーションは、ビデオ視聴を助けるための機能だ。ハードウェア・アクセラレーションがオンならば、CPUに対してハードウェアが付加的に使用され、画像処理などでCPUの負荷が減るので、ソフトウェアが高速で実行される。多くのブラウザのプログラマーは、この理論通りに考えて、自分たちが開発したブラウザに、ハードウェア・アクセラレーションの機能を埋め込んだ。

ところが、実際の効果は逆になってしまう。ハードウェアに余計な負荷がかかって、高画質大容量のプライム・ビデオの処理が間に合わなくなり、ビデオがクラッシュする。最悪の場合は、ディスプレイが真っ暗になるので、パソコンの操作ができなくなってしまう。ブラウザの開発者は、ハードウェア・アクセラレーションに高い信頼を置いているが、実際にはトラブルを生み出すことになっているのは、皮肉だ。

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私のウェブ・サイトがどのように見えるのかをチェックするために、ChromeとFirefox以外に、Internet Explorer、Microsoft Edge、Opera、Vivaldiなどのブラウザを使っている。ブラウザ別にプライム・ビデオの見え方を検討したところ、プライム・ビデオとハードウェア・アクセラレーションの衝突が、明確になった。

 表1. プライム・ビデオの見え方:デスクトップの場合
ブラウザ
画像処理 ビデオ表示
Google
Chrome
ハードウェア・アクセラレーション クラッシュ
Firefox 推奨のパフォーマンス設定 読み込みに多少の時間
Opera ハードウェア・アクセラレーション クラッシュ
Vivaldi ハードウェア・アクセラレーション クラッシュ
Internet
Explorer
ソフトウェア・レンダリング 読み込みに多少の時間
Microsoft
Edge
ソフトウェア・レンダリング 読み込みに多少の時間

上の表で、ハードウェア・アクセラレーションが搭載され、それがデフォルトでオンになっているGoogle Chrome、Opera、Vivaldiでは、ビデオがクラッシュしてしまうことが分かる。これらのブラウザを使う場合には、アクセラレーションをオフにしなければならない。

Firefoxでは、画面右上のボタン(≡)からメニューを開き、「一般」>「パフォーマンス」と進むと、「推奨のパフォーマンス設定を使用する」がオンになっているのが分かる。このデフォルトの状態でも、読み込みに多少の時間がかかるが、プライム・ビデオの視聴は可能だ。
ハードウェア・アクセラレーションをオフにする場合は、デフォルトのチェックをはずす。ハードウェア・アクセラレーションをオフにできるウィンドウが、新たに現れる。アクセラレーションをオフにすることによって、読み込みの時間を短縮できる。

Internet ExplorerとMicrosoft Edgeの画像処理は、デフォルトで「GPUレンダリングではなくソフトウェアレンダリングを使用する」がオンになっている。GPUは画像処理に特化したハードウェア。この状態で視聴可能なので、ハードウェアに余計な負荷がかからなければ、プライム・ビデオが視聴可能になることが分かる。

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私のデスクトップ・パソコンの内臓ストレージは、500GBのSSDなので、ビデオ処理には十分だ。 OSはWindows10。この環境下で、Chromeのハードウェア・アクセラレーションとプライム・ビデオがぶつかるならば、他の多くのユーザーが、同じ経験をしても不思議ではない。ところが、視聴不能になってアマゾンに問い合わせたが、正確な答が返って来なかった。アマゾンの担当者がネットで検索したが、解決策を見つけることができなかった。プライム・ビデオとの関連で、類似の問題は、アマゾンにほとんど報告されていないようだ。

端末の環境が影響

パソコンの環境による影響も考えられるので、ラップトップ・パソコンでも同様の確認を行った。ラップトップの内臓ストレージは、300GBのハードディスクなので、画像処理の能力はデスクトップよりも劣る。両パソコンとも、100Mbpsの速度の有線イーサネットにつないである。

 表2. プライム・ビデオの見え方:ラップトップの場合
ブラウザ
画像処理 ビデオ表示
Google Chrome ハードウェア・アクセラレーション クラッシュ
Firefox 推奨のパフォーマンス設定 読み込みに多少の時間
Opera ハードウェア・アクセラレーション 視聴可能
Vivaldi ハードウェア・アクセラレーション メッセージ「DRM規格が実装されていない」
Internet Explorer ソフトウェア・レンダリング メッセージ「Silverlightがインストールされていない」
Microsoft Edge ソフトウェア・レンダリング メッセージ「DRM規格が実装されていない」

表2の操作は、表1の結果を確認するためだけに行ったので、DRM(違法なコピーを制限する、デジタルコンテンツの著作権を保護するための技術)の検討は、行わなかった。Silverlightをインストールしても、改善は認められなかった。

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表1と表2を比較すると、パソコン環境が影響を与えていることは、確実だ。ハード面ではデスクトップのほうが高性能だが、セキュリティのレベルをラップトップよりも高度にしている。また、デスクトップで様々な作業を行っている。全体的な負荷は、デスクトップのほうが大きくなっている。そのために、Operaを使うとデスクトップではクラッシュしたが、ラップトップでは視聴可能になったと思われる。Operaの動きは、他のブラウザよりも軽いのかもしれない。なお、全ブラウザでプライベート・ブラウジングの設定をしている。

これらの検討結果は、何を意味するのだろうか?私のパソコンよりも、セキュリティ設定などがゆるい端末を使っているユーザーは、クラッシュを余り経験しないのかもしれない。また、私と同じ経験をしたユーザーは、クラッシュするブラウザをすぐにあきらめて、他のブラウザに乗り換えている可能性がある。

問題の解決法はとても簡単で、「ハードウェア・アクセラレーションをオフにする」だけだが、画像処理を高速で行うはずのハードウェア・アクセラレーションを止めるという、逆転の発想が必要になるところに、この解を見つけることの難しさがある。


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