Essay 65

電子書籍の確実な作成法

2019年9月30日(更新2021年5月9日)
和戸川 純
電子書籍の市場
販売が伸びている電子書籍

全国出版協会のニュース・リリースによると、2018年の紙の出版物(書籍・雑誌合計)の推定販売金額は、1兆3000億円で、前年比で5.7%減少した。電子書籍は2500億円で11.9%増だった。紙でよく売れたビジネス書や実用書、それにオリジナル電子版のライトノベル系の作品や写真集が、電子書籍でよく売れている。

この市場調査で注意しなければならないのは、電子書籍の単価が安いことだ。場合によっては、無料の書籍がある。販売額での電子書籍の市場占有率は16%だが、読まれた部数で比較すれば、電子書籍の市場占有率は、間違いなくずっと大きくなる。

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書き溜めた原稿を出版社へ持っていくと、あなたがベストセラー作家でもない限り、自費出版を勧められる可能性が高い。自費出版は高額になる。例えば、ハードカバー本で、出版だけではなく実店舗販売も契約に入れれば、200万円を超す見積りになる可能性が高い。紙の本で出版したのでは、書店の店頭に1~2週間並べられたとしても、そのあとはお蔵入りだ。紙の本のほうが読みやすい、という読者が大勢いると思う。けれども、自分の作品を世の中へ出したい、普通の創作家にとっては、紙の本での出版はリスクが大きすぎる。

電子書籍の利点・難点

電子書籍で出版することの利点は、以下のようになる。

  1. 本の作成と販売に、コストをかけないことが可能だ。
  2. 本のレイアウトが、作者の意のままになる。カラーのイラストをふんだんに入れられる。
  3. 電子書店の店頭から、自著が消えることはない。絶版もない。
  4. 日本ばかりか、世界で販売できる。

それでは、難点は?

  1. 無料で本を作成し、電子書店で販売するには、電子書籍作成の技術を習得することが、必要になる。業者に頼めばコストがかかる。
  2. 校正に他人の目が入らないので、電子書籍執筆には細心の注意が必要。
  3. 電子書籍は、データが消去されない限り、出版点数が増え続け、データとして残り続ける。時間とともに競合が激しくなる。

私は、自分で作成した電子書籍を7冊販売している。販売している電子書店は、Amazon Kindle(以下、アマゾン)、楽天Kobo(楽天)、iBooks Store(アップル)、Google Playブックス(グーグル)のメジャーな4つの書店だ。私の経験を生かして、高額な紙での自費出版に2の足を踏んでいる皆さんに、電子出版のお手伝いをしたい。

電子書籍のファイル形式
汎用性が高いePubファイル

電子書籍を出版するには、書籍のファイル形式の検討から始める。ファイル形式には、Word (DOC)、html、PDF、ePub、mobi(アマゾン)などがある。ePub(現在のバージョンは3)は、国際電子出版フォーラム(International Digital Publishing Forum)が策定した、オープン・フォーマットのファイル形式なので、汎用性が高い。ePub作成ソフトに無料のSigilがある。ただし、ウェブサイト作成のためのプログラム言語である、htmlの知識が必要なので、誰でも容易に使えるわけではない。

PDFファイルをePubファイルに変換することが可能で、オンラインで無料サービスが提供されている。私が使った限りでは、イラストのある書籍ではレイアウトが崩れてしまい、お勧めできない。

Wordファイルは、LeMEという無料ソフトを使って、ePubファイルに変換できる。しかし、Wordは縦書きなどのレイアウトが難しい。無料のワープロ・ソフトLibreOfficeのほうが、Wordよりも電子書籍に向いている。拡張機能のeLAIXをインストールすることによって、原稿のePub編集と書き出しが可能になる。レイアウトの自由度が高く、レイアウトを自分の好みに合わせて作成できる。htmlの知識が必要なことが、難点だ。

原稿を直接にhtmlフォーマットで書くには、上記のePub変換以上にhtmlに精通していなければならず、ハードルが高い。

アマゾンではPDFファイルを受け付けない、などの制約があるので注意が必要だ。

レイアウト表示が安定している固定型

ファイル形式については、注意がもう1つ必要だ。電子書籍のレイアウトには、リフロー型と固定型がある。リフロー型は、端末の画面のサイズに応じてレイアウトが変わる。機能的には、私のウェブサイトで使っている、レスポンシブと同じhtmlフォーマット。端末に合わせて文章が配置されるので、どのような端末にも対応できる。端末によってページ数が変わってしまうので、ページ番号を付けることはできない。固定型は印刷された本と同じで、レイアウトが固定されている。端末によっては文字が小さくなりすぎたり、逆に大きくなりすぎたりする欠点がある。

文章だけならばリフロー型でいい。しかし、イラストが入ると、種々端末へのプログラムの微妙な不適合性によって、レイアウトが崩れてしまう。たとえば、イラストの位置がずれたり、イラストの前後のテキストが離れすぎたりする。私は、ファイル形式に関していろいろな検討をしたが、最終的に、どのような端末でもレイアウトが安定している、固定型を使うことにした。

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私は、ウェブサイトを自作しているので、htmlには慣れている。けれども、電子書籍の作成で、面倒なプログラミングにわずらわされたくはない。本の内容だけに集中したい。レイアウト作成の面倒を省くために、ジャストシステムが販売している、ワープロソフトの「一太郎」(アマゾンで、より安いダウンロード版を購入できる)を使うことにした。一太郎には、作成した原稿を、自動的に電子書籍化する機能が付いている。難点は、このソフトの開発者のこだわりだ。使い慣れるまでは手こずることが多い。

初めて電子書籍を作成する皆さんに、種々の条件の面倒な検討をしてもらう必要はない。これから述べるのは、いろいろな端末で検討した結果、最も読みやすいと私が判断した、一太郎(バージョンは「一太郎2018」)での原稿作成における各種設定だ。基本的にはこの設定で十分と思う。アマゾンが要求する書籍作成基準に合わせているが、この設定で作成した電子書籍を、楽天でもアップルでも販売が可能だ。ここでは、電子書籍との関連で重要な設定に絞っているので、一般的なワープロ設定は、説明書を参考にしていただきたい。

電子書籍のレイアウト
用紙の基本設定
図1.「一太郎」の画面
一太郎のページ

一太郎を開くと、白紙の縦書き原稿用紙が現れる。図1は、書き終えた横書きの原稿だ。縦書き、横書きの設定は、図2の「文字組」で行う。図1では、1画面に2ページが表示されている。「表示」を左クリックし、現れたウインドウを下へスクロールして、「表示倍率」を選択。次に現れたウインドウで、「2ページ表示」を選択すればこのような表示になる。

図2.用紙の基本スタイル
用紙の基本設定

図1の「書式」を左クリックして、現れたウインドウを下へスクロールする。最下段の「文書スタイル」を選択すると、図2が現れる。「スタイル」を選択し、「文字設定」と「マージン(余白)」を赤枠内のように設定し、右下の「OK」をクリックする。

図3.Kindleのための用紙
Kindleの用紙

図2で、「用紙」が「未定義用紙(Kindle実画面)」になっている。フォーマットは次のように設定。用紙名の右にある「用紙」ボタンをクリックすると、図3の「用紙選択」ウインドウが現れる。ここで「未定義用紙(Kindle実画面)」を選択し、右の「新規登録」ウインドウを左クリックする。現れた下の選択画面で、 「自由サイズの用紙」を選択する。「用紙設定」のウインドウが現れるので、「用紙幅」を「105mm」、「用紙長」を「175mm」に設定。「用紙名」を「Kindle」にして「OK」。これを、Kindle用原稿用紙の基本的なフォーマットにした。

本文のフォントとスタイル
図4.本文のフォント
フォント設定

図2の「フォント」を選択し、現れた図4のウインドウで、和文(メイリオ)と欧文(Times New Roman)のフォントと文字サイズを、図のように設定する。これが、本文のフォント・スタイルになる。

次に、本文の各段落の先頭に1字分の空白を入れる。図1で、「書式」の左クリックで現れたウインドウを下へスクロールし、「文字・段落スタイル」を選択する。現れたウインドウの「一覧」から、「本文(オートスタイル)」を選択する。「スタイル変更」ボタンのクリックで、「段落スタイル変更」ウインドウが現れる。「文字揃え」を選択して現れたウインドウで、「インデント」を選択する。「段落全体の行頭」を「2 C」、「2行目以降の行頭」を「0 C」にする。

図5.ページ番号
ページの番号

図4の「ページ/ヘッダ・フッタ」をクリックすると、図5のページ番号設定ウインドウが現れる。ページ番号の位置を赤枠内のように設定し、「ページ番号詳細」をクリックする。次の図6のウインドウで、「詳細」を選択し、赤枠内のように設定すれば、目次ページと本文ページのページ番号が、別々に設定される。表紙には番号を付けない。

図6.表紙と目次のページ設定
表紙と目次
見出しのレイアウト
図7.見出しレイアウトの設定
見出し

図7の画面の右側に、「基本編集ツールパレット」ウインドウがある。「段落スタイル」をクリックして開き、「中見出し」を選択する。「スタイル変更」をクリックすると、「段落スタイル変更」のウインドウが現れる。「フォント」を選択し、「和文フォント」を「メイリオ」の「ボールド」、「欧文フォント」を「Arial」の「太字」、「文字サイズ」を「17.0 P」に設定する。

次に「段落スタイル変更」のウインドウで「文字揃え」を選択。現れたウインドウで、中見出しのスタイルを設定する。「文字揃え」を「左寄せ」にし、「インデント」を選択しない。大・小見出しの設定はこれに準じる。

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図7の中見出し「第1章 不可思議を夢見る人たち」に、青のグラデーションがかかっている。これを設定するには、「中見出し」 の「段落スタイル変更」ウインドウで、「段落飾り」を選択し、現れたウインドウで「背景色」を選択。「色」のウインドウで「グラデーション」を選択してから、その下の「グラデーション」ボタンをクリックする。「グラデーション設定」ウインドウが現れるので、「パターン」でグラデーションのパターンを選択、「カラーパレット」でカラーを選択する。

図7の小見出し「生活の外側に広がる天蓋宇宙」の文頭に「■」が付いている。図7で「小見出し」を選択し、「スタイル変更」をクリック。「段落スタイル変更」ウインドウで、「箇条書き/段落記号」を選択し、現れたウインドウで「設定する」を選ぶ。その下の「箇条書き/段落記号」欄で「段落記号」を選択し、「記号」欄で「和文記号」を選んでから、右のウインドウで「■」を選択する。

目次ページのレイアウト

目次のフォント・スタイルを設定する。図1の「書式」の左クリックで現れたウインドウから、「文字・段落スタイル」を選ぶ。「文字・段落スタイル」のウインドウで、「一覧」から「目次作成用スタイル1」を選択。下の「スタイル変更」ボタンをクリック。「段落スタイル変更」ウインドウで、「フォント」を選択し、現れたウインドウで、「和文フォント」と「欧文フォント」のスタイルを、図4に準じて設定する。さらに「字間」、「文字揃え」、「属性・改行幅」を順次クリックして、適宜設定する。

図8.目次ページのレイアウト作成
目次レイアウト

図1で「ツール」を左クリック。現れたウインドウを下へスクロールして、「目次/索引」を選択する。そこで現れたウインドウで、「目次作成」を選択する。図8の「目次作成」ウインドウで、「目次1」を選択。赤枠内のように設定すれば、目次ページにおける大見出しのレイアウトが決まる。中見出しと小見出しのレイアウトは、必要に応じて「目次2」と「目次3」で設定する。

図9.目次ページのレイアウト見本
目次ぺージ

設定を終えて「OK」をクリックすると、目次ページに目次が自動的に作成される(図9)。左は表紙。

索引ページのレイアウト

次に、索引のスタイルを設定する。図1の「書式」の左クリックで現れたウインドウから、「文字・段落スタイル」を選択。次のウインドウの「一覧」から「索引1」を選択し、「スタイル変更」をクリックする。索引のフォントやスタイルなどを、目次のスタイルに準じて設定する。

単語を索引に登録するために、登録する単語を本文中で選択する。次に、図1の「ツール」の左クリックで現れたウインドウを、下へスクロールする。「目次/索引」を選択し、そこで現れたウインドウで「索引設定」を選ぶ。単語を登録するウインドウが現れるので、ひらがなで「読み」を入力する。「登録」をクリックして終了。

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索引ページを作成するために、索引を入れるページのトップをクリックし、図1の「ツール」からウインドウを下へスクロールする。「目次/索引」を選択し、次に現れたウインドウで「索引作成」を選べば、該当ページに索引が自動的に生成される。

図10.登録単語のみのリスティング
索引

登録した単語だけをリスティングするには、「ツール」>「目次/索引」>「索引オプション」と進んで、図10の赤枠内のように設定する。この設定を行わないと、登録語と同じ単語の全てが、索引ページに現れるので、収拾がつかなくなる。

イラストの作成と挿入

アマゾン用電子書籍の表紙とページのイラストの推奨サイズは、次の通りだ。このサイズで、他社でも問題はない。

  1. 表紙用:1600X2560ピクセル、RGB:300ピクセル、灰色で枠線
  2. 本文用:1200X1800ピクセル、RGB:300ピクセル
  3. フォーマット:jpg
図11.イラストの挿入(全ページ表示)
全ページのイラスト

イラストの挿入位置をクリックで決める。図1の「挿入」の左クリックで現れたウインドウをスクロールし、「絵や写真」から「絵や写真の挿入」を選ぶ。イラストが存在するフォルダから挿入するイラストを選ぶと、選んだイラストがページに挿入される。図11のイラストは全ページ表示になっている。このイラストを左クリックで選択し、右の「枠操作ツールパレット」から「枠操作」と「画像枠の操作」の設定画面を開いて、赤枠内のように設定する。「枠飾り」では「(元の飾り)」を選択する。

図12.イラストの挿入(部分ページ表示)
部分ページのイラスト

図12では、イラストがページの一部しか占めていない。イラストを中央に配置し、テキストをイラストの下部に回らせるために、赤枠内のように設定する。「枠操作」で、イラストの両側にテキストを配置しない設定をする。「枠調整」のウインドウで、赤枠で囲んだ「左右中央揃え」をクリックすると、選択したイラストがページの中央に配置される。イラストのサイズは、イラストの周囲の「□」をドラッグすることで調整できる。

出版用書籍のフォーマット
書籍ファイルの作成

図1で、「ファイル」の左クリックで現れたウインドウを下へスクロールし、「他形式の保存/開く」を選択すると、種々のファイル形式を選択できるウインドウが現れる。PDF、ePub、Kindle/mobi、htmlなどのフォーマットへ、原稿を変換できることが分かる。ePubならば、アマゾン、楽天、アップル、グーグルなどのどの電子書店でも販売できる。

図13.ePubファイルの作成
ePubの作成

「EPUB保存」を選択すると、図13の「EPUBファイルのプロパティ」ウインドウが現れるので、「タイトル」などを赤枠内のように設定する。「表紙」が「なし」になっているのは、表紙ページを最初に設定し、表紙用イラストをすでに挿入し終わっているためだ(図9)。

どの端末でもレイアウトが安定している、「固定レイアウト」を選択し、赤枠で囲まれた「書誌情報」を入力する。次に、「書誌情報」ボタンの右にある、「固定レイアウト」ボタンをクリックする。「固定レイアウト」のウインドウで、「画像ファイル形式」を「JPEG」にする。「ページ画像の画質」で、「画像の大きさを直接指定する」を選択し、「横ドット数」を「1200」、「縦ドット数」を「2000」に設定する。「保存」をクリックすれば電子書籍が完成する。

アマゾン独自のmobiフォーマット

アマゾンでの販売を重視する場合は、原稿をアマゾン独自のmobiファイルに変換したい。まず、Kindleのサイトから「Kindle Previewer」をダウンロードし、インストールする。一太郎でのmobi書き出しにPreviewerが必要だが、ePubやPDFなどのファイルをドラッグ&ドロップすることで、mobiファイルに変換できる、という意見がネット上にある。私はこのような変換には成功していない。

「書誌情報」と「固定レイアウト」の設定はEPUBと同じ。EPUBと異なるのは、図13のウインドウで、「固定レイアウト」ボタンの右に「kindle/mobi」ボタンが現れることだ。このボタンをクリックし、次のウインドウで「圧縮方式」を「Kindle Huffdic圧縮」に設定する。

各電子書店で、書籍のファイル・サイズ(容量)に制限がかかっている。アマゾン650MB、楽天100MB、アップル2GBが、販売可能な最大サイズだ。楽天はサイズが小さいので、必要に応じて、図13の「書誌情報」の右にある「固定レイアウト」から入り、書籍のサイズを縮小する。「画像ファイル形式」を「PNG」にし、「ページ画像の画質」で「横ドット数」を「900」、「縦ドット数」を「1500」にする。これによって、既述の設定では、「無から湧き出る宇宙」のePubサイズが、178MBあるのに対して、サイズを82MBにまで縮小できた。

原稿を書くことで苦労をし、慣れない電子書籍作成でさらに苦労をした皆さん。あとは完成した本を電子書店に登録するだけです。もうひと踏ん張りして、皆さんの「汗と努力の賜物」を、ぜひ世の中へ出してください。


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