Essay 47

AIがもたらす近未来の現実

和戸川の関連書籍「サイバー世界戦争の深い闇
2015年12月18日
和戸川 純
高齢化社会の危機

「日本の人口、特に若い労働力人口が減るので、これからは大変だ、大変だ、大変だ」 という悲観的な予測を、誰もが至るところで聞いたり話したりする。

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図1:減少する総人口と生産年齢人口

日本の人口はすでに減少期に入った。2010年に1億2800万人だったが、2015年には1億2700万人、 45年後の2060年には8700万人になる。

危機的な状況として特に強調されるのが、高齢者を支える現役世代の数だ(図1)。内閣府によると、65歳以上が高齢世代で、20~64歳が現役世代とされる。 2010年には高齢者1人を現役世代2.6人で支えたが、2060年には高齢者1人を1.2人の現役世代が支える。 退職年齢を引き上げて、高齢者を70歳以上、現役世代を20~69歳にしても、1.4人の現役世代が、1人の高齢者を支えなければならない。
財務省のウェブサイトは、「1人の若者が1人の高齢者を支える、という厳しい社会が訪れる」と、さらに危機感をあおっている。

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高齢化対策 として、一般的には次の3つが考えられる。

  1. 出生率を上げて若年人口を増やす。
  2. 女性や高齢者に働いてもらい、生産人口を増やす。
  3. 海外から移民を入れる。

過去しか見ていなければ、確かに上の対策しか出てこない。どの対策にも問題がつきまとう。しかし、未来は、過去から切り離されようとしている。 IT技術の凄まじい進歩が、産業革命以来の大変革を社会にもたらしつつある。上の重苦しい予想は、間違いなくくつがえされる。ITが、3つの対策以上の効果を社会にもたらす。

社会を劇的に変えるAIとロボット

本評論では、まずITが社会を変えつつある状況を述べる。

用語についてお断りしておきたい。ここでは、ITの代わりに「AI」(Artificial Intelligence:人工知能)を使う。また、「ロボット」は、AIによって機能する機械とする。ロボットはチェコのSF作家カレル・チャペックの造語で、語源を考えるとヒト型になるが、ここではヒトの形をしていないマシンも含む。ロボットが進化すると、SFではアンドロイドになる。

AIは、社会に確実に組み込まれつつあり、人々は余り違和感もなくそれを受け入れている。 AIが中核になる社会には、技術以外の大きな変化が生じるが、その全体像を把握するのは困難だ。 したがって、社会で大きく議論されることがない。

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今までは、たとえ機械を使うことがあっても、人間が機械を使う仕事の主体者になっていた。生産によって上がった利益は、仕事にたずさわった労働者に分配された。1人の労働者の生産性が低いうちは、社会全体の種々の旺盛な需要を満たすために、製造業やサービス業を含むあらゆる業種で、大勢の労働者が必要になった。たくさんの雇用が生み出され、国民の1人ひとりが職を得て、生活を維持するための収入を得ることができた。

上記の古典的な社会基盤が、根底から変わりつつある。 人間よりもはるかに生産性の高いAIとロボットが、人間に代わって富を生み出し始めた。その膨大な富を、労働を売ることができなくなった人々に、どのようにして分配するのか?AIの進化に見合った新しい社会システムを構築できれば、人間の未来はバラ色になるが、それに失敗をすれば未来は悲惨になる。
この評論では、そこまで考えたい。

製造・運輸過程の無人化

製鉄所でも、自動車会社でも、ビール会社でも、新聞印刷会社でも、どこでもいい。大きな企業の製造現場である工場へ行ってみよう。かつて数百人、数千人の労働者が働いていた巨大な空間に、忙しく動いている機械以外には、数人の人間しか見ることをできない。人がやることは、機械が正常に働いているかどうかを、目で確認することくらいだ。こんな光景を、工場で働いている労働者も、仕切られた見学者通路を歩いている見学者も、不思議とは思わない。工場がオートメーション化されているのは、当たり前と思っている。

見学者から見えるところや見えないところで、産業用のAIやロボットが働いている。 オートメーション化された工場では、人間ならばよくやる作業ミスが減少し、作業効率が改善されると同時に、人間に対する安全性の向上が図られる。

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産業 は、以下の3つに分類される。

  • 第1次産業 自然界から直接に富を得る:農業、林業、漁業、鉱業
  • 第2次産業 原材料の加工により富を得る:製造業、建設業、電気・ガス業
  • 第3次産業 商品やサービスの分配で富を創る:小売業、サービス業

第2次産業の製造業で、人間に代わるロボットの導入が、もっとも早くかつ大規模になされた。日本では、1980年代に、工場にオートメーションが導入され始めた。

製造の場だけではなく、建築労働者不足などの時代状況を踏まえて、建築現場の無人化が進みつつある。 大成建設の次世代無人化施工システムでは、今までの遠隔操作方式とは異なる、自走重機が使われる。オペレーターは作業目標の設定だけをする。 山岳地帯などで使われていた土木・建設用のロボットが、街中のマンション建設で使われるようになる。

Komatsu
写真1:コマツの巨大無人ダンプ

コマツは、すべての建機を無人化しようとしている。世界最大級のコマツの無人ダンプが、チリやオーストラリアの鉱山で活躍している(写真1)。 正確な位置は、GPSでコントロールされている。世界中で動いている建機のデータが、ネット経由でコマツのデータセンターへ送られる。

アメリカの公道で走行実験中のグーグルの無人走行車は、大きな事故もなく、すでに200万キロ以上も走破したといわれる。販売開始は2020年頃と思われる。 日本での無人走行車の公道でのテストは2017年に開始され、2020年のオリンピックのときに、公道での使用が始まる。

私が住んでいるマンションにスマートメーターが導入されたが、これによってメーターの検針員が廃止された。スマートメーターのデータをもとにして料金が計算され、私の銀行口座から料金が引かれる。このプロセスの大部分が、AIによって担われている。

農業の無人化

第1次産業でも、作業のオートメーション化が進んでいる。

オランダは国土面積の小さな国だが、農産物の輸出では、アメリカに次ぐ世界第2位になっている。 オランダ農業の特徴は、半閉鎖型または完全閉鎖型の巨大なハウス内で、植物の成長をコンピューターが管理する、植物工場になっているところにある。2酸化炭素の濃度や地中の温度など、500項目以上のデータが集められ、コンピューターで管理される。 施肥、給水などの作業の多くは、完全に機械化されている。普段は、人間がハウス内へ入ることはない。

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農業従事者の高齢化や、TPPに加入すると、海外から安い農産物が輸入されることから、日本の農業は質的に変わらざるを得なくなった。無人の農業機械を導入し、大規模集約農業を行う方向での研究が進んでいる。細切れの農地ではこれができないので、農地の集約を進める方向で、法律や税制を変更するための検討が進んでいる。

将来的には、種まきから収穫まで、ロボット農機が作業を行うことになる。日本では、オランダよりもはるかに多くの品種が栽培されているので、オランダとは異なるロボットの使い方が必要になる。

drone
図2:農薬散布無人ヘリコプターの日本における普及

最近、「ドローン、ドローン」と無人機がもてはやされている。 日本は、無人機の農業への応用では、すでに世界のトップクラスに入っている。農薬散布を行う無人ヘリコプターが1991年に導入され、現在では2500機以上になっている(図2)。 規制によって、今は離陸時の重量が100kgに制限されているが、規制緩和が予定されているので、今よりも大量の農薬を運ぶことができるようになる。ドローンは、大規模集約農業では、農薬散布以外にも種まきなどいろいろな作業に使われる。オランダよりも耕作面積が広い日本は、ドローンの必要性がより大きい。

幕張新都心で日本初のドローン宅配

人間の労働者に頼っているはずの第3次産業でも、AIが大きな役割を果たすようになる。 自動走行トラックやバスなどの登場が、陸上運輸を劇的に変えてしまう。人間は睡眠を取らなければ働けないが、AIは睡眠なしでトラックやバスを昼夜運転できる。 それに道路から解放されたドローンが加わると、人々の日常生活が劇的に変わる。生活に必要な食糧などが、いつでもどこでもすぐに入手可能になるからだ。

Amazon
写真2:アマゾンの最新ドローン

アメリカで、アマゾンが、ドローン機体の改良を重ねると同時に、大がかりな宅配サービスのテストを行っている(写真2)。 垂直離着陸と水平飛行ができる新型ドローンを使えば、時速88kmで24kmの距離をカバーできる。最大積載量は、現在のところ2.3kgとなっている。アメリカでは、早ければ2016年にも宅配サービスが開始される。

日本では、2015年12月に、政府、千葉市、アマゾンが、千葉市幕張新都心でドローン宅配を始めることに同意した。 ドローンは、戸建てではなく、まずマンションへの宅配で経験を積むことになる。

ドローン配送は、人間の運転手による配送ほどには、コストも時間もかからない。今でも、日本のアマゾンは、自社倉庫にある物品を、会費を払った会員には配達料無料で、当日か翌日までには配達している。 人間が関与する配達よりも安価なドローン配送で、店がない離島や山の中の僻地へ、街中と同じように物品を届けることができる。人間の活動範囲を広げるために、大きな貢献をすることになる。

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写真3:ミサイルを発射した米軍の無人攻撃機

技術は、常に暗い側面を持つ。技術自体はニュートラルだが、使う人間によっては悪用される。 米軍は、無人攻撃機を大々的に使っている(写真3)。殺人ドローンについて、拙著 「サイバー世界戦争の深い闇」 に書いた。

医療や教育の中核になるAI

サービス産業では、AIが投資に使われている。 1000分の1秒単位で、AIが株取引をするHFT(High Frequency Trade:超高速取引)がある。HFTは、日本でもアメリカでも、株式取引で5割を超えたといわれる。 株式市場で、人間は少数派になりつつある。

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写真4:ソフトバンクのペパー

視覚的に分かりやすいのでよくニュースになるのが、受付ロボットだ。ホテルやデパートなどで、表情も会話もまだ原始的なロボットを客寄せに使い始めた。時流にさといソフトバンクが、いかにも旧式なロボット然とした「ペパー」の市販を開始した(写真4)。これらのロボットは、まだ原始的で違和感を感じさせるが、 人間社会の日常的な風景へロボットを入り込ませるという意味では、極めて大きなステップになる。

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AIとロボットが、医療を大きく変える。

AIは、人間の脳とは違って、時間の制限なしに端末で常時情報を集め、記憶することができる。ディープランニングによって、人間が情報の処理法を指示しなくても、AIが自ら発想して、情報を処理し結論を出すことができるようになった。 ウェアラブルを含むいろいろな端末が、多くの人間の生理に関する情報を集め、個々人の健康状態について、AIが正常か異常かの判断をするようになる。

腕時計などのウェアラブル端末が、社会で受け入れられつつある。端末についたセンサーで、心拍数、血圧、血糖値、歩行数などの健康データをリアルタイムで計測し、サーバーに送信して健康状態を解析する。トイレにセンサーをつけて、健康診断で行われる尿検査の化学分析と同じことを、日常的に行うことができるようになる。 患者個々のデータと他の人々のデータが照合され、時々しか出会わない医者よりも、もっと正確な診断をAIがするようになる。

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Da Vinch
写真5:高度な手術ができるロボット「ダ・ヴィンチ」

手術の分野へもロボットが進出している。アメリカで、内視鏡下での手術用ロボットとして初めて開発されたのが、「ダ・ヴィンチ」だ(写真5)。3本のアームと1台の3Dカメラを搭載し、アームのカセット交換で様々な手術を行うことができる。 筆で、米粒に漢字を書くような細かい作業までできる。医師は、数メートル離れたところで、モニターを見ながらアームを動かす。 人間の感覚の限界を超えたところで、疲労もせずに手術を続けられるロボットは、医療現場で、間違いなくより大きな役割を果たすようになる。

現在は、医師がアームの動きをコントロールしている。けれども、将来的には手術用ロボットが、医師から独立して患者の手術を行うようになる。 それまでに、体内の異常に関する情報と、異常個所への適切な施術に関する情報を、蓄積しなければならない。

手術用ロボットの長所の1つに、医師が遠隔操作できることがある。アメリカ在住の医師が、ヨーロッパの病院に据えつけられたダ・ヴィンチを使って、手術をすることが試みられている。 優秀な外科医が、世界中の患者に容易に施術できる。データの共有化が世界中で進めば、手術用ロボットが、最も優秀な外科医以上の施術を、医師なしで行うことが可能になる。

HAL
写真6:サイバーダインの歩行補助ロボット「HAL」

つくばのサイダーバインが、歩行補助ロボットの「HAL」を開発した(写真6)。 このロボットは、脳から筋肉に送られる微弱な生体電位信号を検出し、電動モーターで人の動作を補助・強化する。 ヨーロッパで早くから注目され、2013年にEU内で医療用機器として販売することが、可能になった。日本では、2015年になってやっと医療機器として承認された。

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韓国では、教育のIT化が日本よりもずっと進んでいる。スマホ、タブレット、スマートテレビが教育の現場に広範に導入され、それらの端末の裏に存在するAIが、教育に参加している。アプリやコンテンツを自由に使える、クラウドベースのデジタル教科書が導入された。

人間に残された仕事

野村総合研究所が、10~20年後の近未来に、AIやロボットが、どれほど人間の職を奪うのかという試算を発表した。 日本人の仕事の49%が、AIとロボットによって代替されるという。すなわち、労働者の半分が職を失うという予想だ。

AIやロボットによる代替可能性

  • 可能性が高い職業:IT保守員、経理事務員、行政事務職、建設作業員、タクシー運転手、警備員、スーパー店員など
  • 低い職業:大学・短期大学教員、外科医、雑誌編集者、俳優、映画監督、商品開発部員、ファッションデザイナーなど

野村の報告に関連して、今までここに書いてきたことに付け加えたい。

AIやロボットが代替する可能性が高い職業:

IT関連では、AIと人をつなぐ基盤を構築するような職業が、間違いなく人間のために残る。 社会あるいは企業のどこに、AIをどのように組み込むのかを考えなければならない。 この職業に就く者は、人間、社会、経済、技術、AIを的確に理解し、全体的なプランニングをすることを要求される。

ITの単なる保守は、ソフトのアップデートのような作業を、膨大なデータを保持しているAIが行うので、AIに代替される。マイナンバーの導入に象徴的だが、膨大な事務データは、人間の手を離れたところでAIによって処理される。建設や運送の作業は、上に書いたように、無人建機、無人走行車、ドローンなどによって代替される。 警備会社のセコムが、警備にドローンを導入しようとしている。監視カメラとの併用で、行動が遅く疲労もする人間の監視員に比べ、昼夜を問わず、より的確に不審者を把握できるようになる。 スーパーのIT化では日本は遅れている。他の多くの先進国で、レジを通すことなく支払いを済ませるような工夫が、すでに成されている。

AIやロボットが代替する可能性が低い職業:

教育のIT化は日本では遅れている。AIが入り込む余地が大きい。ただし、教育に大事なのは知識の伝授だけではない。人間を人間にするためには、そのような目的を達成するための教育が、必要になる(エッセイ6「人は教育によって人間になる」 )。知識の伝授はAIに任せ、教育者はもっと人間を人間にするための教育に専念すればいい。このような教育は、社会がAI化すればするほど大事になる。人間社会の主体者はあくまでも人間で、AIの役割は、人間が平和で快適な生活を送るために、補助することに尽きるからだ。

記事をAIが書く新聞が、アメリカで発行されるようになった。膨大な情報を抱えているAIは、雑誌編集で人間を超える可能性がある。ただし、各雑誌には編集者の主張が反映されなければならない。それが雑誌の特徴になる。 ここに人間ファクターが入る。

ハリウッド映画の多くが、完全にデジタルされているか、実写がデジタル処理されたものになっている。一見したところ、どこまでが実写なのか検討がつかない。デジタルがリアルな世界を作っている。マリリン・モンローを生き返らせて演技させることもできる。日本では、デジタルと分かっている女の子が、大人気になったりする。舞台で、3D映像によるコンサートが開かれた。生身の人間が演じる必要性が、薄れつつある。けれども、映画を構成する映画監督には、 人間ファクターが必要になる。 その個性が、観客が求めているものに一致したときに、映画がヒットする。

商品開発員やファッションデザイナーも、同様の状況に置かれる。ただし、ファッションデザイナーはデザインを考えるときに、よりデジタルな感覚を持つことが必要になる。アニメの女性と同じになりたいコスプレ族が世界中に出現し、デジタルな女性や絵文字が若者のハートをつかみ、ロボットが受付にいても違和感を感じない。そんな世代は、生身のファッションモデルよりも、ロボットのファッションモデルにより親しみを感じるかもしれない。あるいは、 ロボットが進化すれば、生身のパートナーがいなくても、従順なロボットを身近に置くことで、異性との関わりを代償する世代が生まれるかもしれない。

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ここまで書いてくれば、結論はおのずから明らかになる。物の製造にしろサービスにしろ、多くの人間の必要に応じて、何かを大量に社会に提供しなければならない場合は、AIとロボットが人間の仕事を代替できる。けれども、人間の欲求満足のためにAIを機能させるには、人間ファクターが必要になる。 人間を知っている人間が、AIの機能拡大とAIの人間社会への適用において、決定的に重要な役割を演じる。

富の創出に誰もが貢献

上記の少数の人たちが、AI社会の富の創出のために、誰にでもはっきりと分かる貢献をする。けれども、AI化された社会では、普通の人たちが、意識もせずに各企業の利益獲得に貢献することになる。

世界を動かすのに中心的な役割を果たしているネット。 インターネットでは、ほとんど何もかもが無料になっている。その発展は、多くの人々の無料奉仕によるところが大きい。膨大な数の人たちが、アプリなどの作成のみならず、種々のアイディアを無料で開陳している。

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人々は、スマホ、タブレット、PCを買ったその瞬間から、自らの日常生活をデータとして企業へ提供する。 SNSなどで述べた意見がデータベースに取り込まれ、人々が何を望んでいるかが分析される。スイカで問題になったが、個々人の電車の乗り降りまでデータ化され、企業の利益獲得に使われる。車は、ネットに接続されたコンピューターになり、運転するたびに、自分の動きに関する情報を自動車会社へ渡す。家電のスマート化が進めば、家にいる間も、休みなく個人情報を企業へ提供することになる。

AIにとってはデータが命だ。データがなければAIは死んでしまう。不特定多数の人間が、この重要なデータ収集のために、AIの最終端末になる時代が到来した。けれども、AIやロボットを機能させる、必須のデータを提供する人間に、報酬が支払われない。無料で奉仕をしている。

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ドイツで、インダストリー4.0と呼ばれる、官民の壮大なプロジェクトが進行中だ。これは、企業の壁を超えて製造から販売までを一体化し、最も効率的に経済を動かすことを目的にしている。技術的な主役はインターネット。ネットですべての企業を統合する。

同様のアイディアは、日本ではIoTと呼ばれる。アメリカの巨大企業は、こんなことは国境を超えてすでに実行している。アップルは、日本の素材と台湾や中国のアセンブリー技術を組み合わせて、流行の最先端を行くスマホなどの製品を、次々に開発・販売している。 もはや、企業単独では企業活動を完結できない。国単位でも、企業活動は完結しない。

時代状況が大きく変わったにもかかわらず、富の分配のやり方は旧態依然としている。
1つの企業が事業に投資し、その見返りとして投資額以上の収入があれば、それが利益になる。 利益は、企業単独のものとされている。ところが、企業は、その企業の枠は勿論、国境さえも超えたネットワークに頼って活動している。企業が利益獲得に使うネットは、上記のように、個人による無償の莫大な貢献によって成立している。ネットの端末に、利益獲得に貢献する不特定多数の個人がいる。
ネットのそこかしこに配置されたAIが、生産性を極度に高めている。日本企業の300兆円を超える内部留保の多くが、世界中の個人が無償で提供した、種々の情報と複雑なネットワークをもとにして作られたことは、間違いがない。

AIが生む富の分配

上に書いたように、 AI社会の基盤構築に直接に携わる人の数は、とても少なくていい。生産の大部分を、AIとロボットが担う。物の生産だけではなく、サービス提供も同様に成される。すると、大多数の人間には仕事がなくなる。現在世界で進行中だが、極めて少数の高額所得者と、多数の低所得者あるいは失業による無所得者との間のギャップが、鮮烈になる。自分が不遇であることを実感している若者の中から、不遇の原因を社会に見て、社会を破壊するためのテロリズムへ走る者が出てくる。

今、人間は、人類史における重要なターニングポイントにいる。私たちの世代が、人類の未来を幸福にも悲惨にもできる。 そのことを自覚しなければならない。

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日本企業の内部留保が、300兆円を超えていることが問題になっている。 この数字は余りにも現実離れしているのでピンと来ないが、国民1人当たりに換算すると、236万円になる。3人家族ならば708万円。この企業利益が、社員に還元もされず、設備投資などの将来の成長にも使われていない。

社員に還元されないのは、富の創出に寄与する人間の労働の割合が、大きく低下したためと考えられる。設備投資を増やさないのは、AIとロボットの生産能力が、すでに需要を大きく超えていることが主な理由になる。

これは、従来のマルクス主義的な富の分配からは議論できないところへ、私たちの社会が突入したことを意味する。 300兆円の利益の多くは、人間の労働ではなく、AIやロボットによって生み出された。 AIやロボットは、資源探索や資源掘削から、商品製造、販売、サービス、さらには資本移動まで、あらゆるところへ深く入り込んでいる。人間をはるかに超えた生産性で、利益獲得に貢献している。

人間に必要とされる経済活動や社会活動の多くが、AIやロボットによって担われる。AI社会を機能させる労働者の数は、とても少なくていい。従って、若年労働者が少なくなることは、高度AI社会では大した問題にならないことが分かる。これは来たるべきAI社会の長所だ。 けれども、深刻な負の側面があることを忘れてはならない。

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もしも今のままの富の分配方法を継続すれば、世界は悲惨なことになる。 人間の労働者に代わって、1台のAIとロボットが、1万人分、10万人分の富を生み出す。今のままの富の分配法では、AIが生み出すこれらの富を、上記の少数の人たちだけが独占する。

それ以外の人たちは、無収入か低収入に耐えなければならない。繰り返すが、「それ以外の人たち」も、AI社会で、富の創造に決定的に重要な役割を果たしている。これらの人たちにどのように富を分配するのか?

企業単独での分配方法には、限界がある。 世界全体で富をプールし、人類全体に分配するのが理想的だが、それは現在は単なる夢に過ぎない。国の枠の中で新しい分配方法を考えなければならない。共産主義の思想を一部取り入れたものになるはずだ。全く未知の領域だが、もはや待ったなしだ。技術の進歩は余りにも速い。

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AIとロボットが作り出す富が、人々に公平に分配されるようになると、人々は生産のための労働者ではなくなる。人生の意味は、自らを幸福にするために、各自が自分に合った活動に励むことによって、生み出されるようになる。 人によっては、それはスポーツかもしれないし、芸術かもしれないし、旅行かもしれない。趣味として研究に没頭してもかまわない。労働を趣味にする人も出てくるかもしれない。


追記:個人データの売却、ロボット税
2017年9月7日

個人データの売買が始まった

上の評論を書いたのは2015年だった。2年経って、現実が私の評論に追いつきつつある。

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人々の日常的な活動が、そのままデータになる。それらのデータが価値を生み出し、全く新しい経済圏が作られることが、実感として理解されるようになった。

利益を生み出す個人データを購入する企業活動が、すでに始まった。スマホに自動的に残る移動情報の提供者に、4000円ほどを支払う企業が現れた。 「エブリセンスジャパン」が、データを必要とするこのような企業と、情報提供者を仲介する。位置情報だけではなく、電車乗降、車、医療、電気使用、出金などのあらゆる種類のデータが、売買の対象になる。

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家電がネットにつながり始め、個人の日常生活が、データとしてプラットフォームに残るようになった。アマゾンが最初に市場に出した対話型のAIスピーカーは、家庭内の音声と映像や、家電の使用状況を、休みなく中央のAIへ送ることができる。掃除機ルンバの作動データも、アイロボットのAIが集めている。

グーグルやアマゾンなどのプラットフォーム企業は、莫大な量の個人データを無償で収集し、それをビジネス展開に生かしている。グーグルは、対価として価値のある無償サービスを提供し、アマゾンは、価格破壊という形で情報提供者に利益を還元している。個人データが有料になれば、このような巨大プラットフォーム企業の戦略に、間違いなく影響を与える。

個人データの取引は、エブリセンスジャパンによって始められたが、社会のあらゆるところで収集されるデータの商用化は、1つの企業の手には負えない。ネットを介したIoTには国境の壁がないので、各国政府が関与した、国際的なデータ取引市場が必要になる。当然のことながら、そこでは、データを提供する個人が、自分のデータを市場へ出すことに同意するという関門の設定が、大事になる。

ロボット税をベーシックインカムに

データの創出者に正当な対価が支払われるだけではなく、AIが生み出す富の分配に工夫が必要なことを、上の評論で述べた。ビル・ゲイツが、人と同じ基準で、ロボットにも課税することを提案している。これは有力な提案だ。

1台のロボットが100人分の利益を生み出せば、100人分の課税をする。税の支払いは、ロボットを所有する企業になる。これは、通常の労働者が生み出す利益への課税と、同じ基盤でできるので、技術的に大きな問題はない。ただし、ロボット、AI、ソフトウェアなどの定義と「人数」の勘定で、難問に直面するが、技術的に解決が可能な問題だ。

チェコのSF作家チャペックが、ロボットという言葉を初めて使った。その語源は、「労働」と「労働者」なので、上の課税法が、語源にとてもしっくりする。

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上の評論に書いたように、現在は、ロボットやAIが生み出した富が、それらを使用することを決定した、直接の関係者に集まってしまい、先進国で大きな賃金格差を生み出すもとになっている。ロボットへの課税で、その修正をできる。

先進国を中心にして、全国民に最低限の生活費を配る、ベーシックインカムが真剣に検討されている。フィンランドで今年から導入され、月に約6万8000円が支給されている。アラスカでは、月に10~20万円が支給されている。その他、ブラジルやカタールでも同様の支給が行われている。これらの国は、ロボット税なしでこの制度を確立した。
日本を含めた多くの国で、現在の税収ではベーシックインカの実施は困難だ。そんな国も、ロボット税を完全に実施すれば、十分な税収の確保を期待できる。


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