evolution

第2部では、常識では考えられない、生命の驚異の生存メカニズムを探ります。生物は、宇宙のありきたりの材料を使って奇跡なしで誕生し、当り前のように進化しました。

Essay 27
驚異の生存メカニズム
2012年6月10日(修正2017年6月19日)

とても柔軟な自己組織化によって組み上がる生体

self organization

遺伝子の融通無限な発現をコントロールするのは、自己組織化です。自己組織化とは、専門的にいえば、ランダムから秩序へ組み上がる現象、といえます。
温度、圧力、電界、磁界、イオン、大気組成など、生体外部や内部の物理化学的な環境は、常に変化しています。それらの変化に影響されて、遺伝子の発現の仕方や、タンパク質の高次構造の組み上がり方、それにタンパク質間の相互作用が、再構築されます。その再構築において、自己組織化が、決定的に重要な役割を果たしています。

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保守的な遺伝子に対して、自己組織化をもとに組み上がる生体の構造と機能には、環境変化に応じて急速に変化する、という特徴があります。すなわち、生物は、自己組織化のおかげで、環境の激変に積極的に対応できるようになるのです。


chemical interaction

自己組織化は、高校で習った、誰もが知っている、宇宙に普遍的な物理化学反応によって、成し遂げられます。
関与する化学結合は、水素結合、配位結合、疎水結合、クーロン力、ファンデルワールス力など。これらの単純な結合をもとに、アミノ酸は、1次、2次、3次と、より複雑かつ大きな分子構造へと組み上がります。最終的に、4次構造といわれる、とても複雑な機能タンパク質になります。

この全過程において、水素原子が重要な役割を果たしています。特に、4次構造は、水素結合やファンデルワールス力などの、弱い結合が関与しているところに、特に大事な意味があります。構造を決定する結合力が弱いおかげで、機能タンパク質は、柔軟に形を変えながら、複雑な機能を発揮することができるのです。


位置によって決まる細胞の専門化

cell division

精子と卵子が融合し、母親の胎内で胎児が成長し始めます。これを、細胞レベルでは、細胞の分化として見ることができます。からだのどのような細胞にでもなることができる、初期の胚細胞が、分裂を繰り返しながら、次第に特殊な機能を持った細胞に変わっていくことを、分化といいます。
専門化した細胞群が、複雑なネットワークを構築することによって、私たちのからだを機能させています。

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遺伝子発現と同様に、この細胞分化も、環境からの影響を受けて進みます。
受精4日目の桑実胚においては、各細胞が将来どのような細胞になるのかが、全く決まっていません。間もなく、周囲の液体のイオン濃度か何か、引き金は分かりませんが、桑実胚の一部の細胞が、より強く増殖を始めます。そこが将来の口、すなわち原口になります。
原口が決まれば、この原口に対する位置関係だけで、周囲の細胞の分化が決まってきます。普遍的な言い方をすれば、細胞分化は環境からの影響によって決定される、となります。

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個体発生が系統発生を繰り返すかどうかはともかく、以上の知見をもとにして、単細胞生物が多細胞生物に進化したときの有様を、想像できます。

原始の海の中で、1個の単細胞生物が分裂・増殖すれば、子孫の細胞群は、1箇所に集合することになります。しかし、周囲の環境が、1個1個の細胞の生存にとって理想的ならば、これらの細胞は、独立した生活を続けるはずです。環境が生存に困難になる、すなわち危機が到来することによって、細胞群は生存の仕方を変えます。
最外側に並んだ細胞が壁の役割を果たし、群の中へ有害物質が入るのを阻止しながら、有益な物質は通過させるようになる、と想像できます。ここまでくれば、多細胞生物へ進化するまでに、余り時間がかからなかったはずです。
原始の海を襲った初期の環境激変が、多細胞生物誕生の引き金になったはずです。


cell

からだのどの部分から取り出した細胞でも、培養液中で生きることができます。
顕微鏡下で見ると、一つひとつの細胞は独立生命体、という実感を持つことができます。サイズも見かけも、単細胞生物と驚くほどの違いがあるわけではありません。各細胞は自由に動き回り、周囲の細胞と情報のやり取りをします。時に応じて分裂をし、子孫を残します。これらの細胞の各々は、一つのからだを構築できるだけの遺伝情報を、持っています。

単細胞生物から多細胞生物への進化は、比較的容易に行われ、私たちのからだは、基本的には単細胞生物の集団から成る、と考えることができます。先祖の単細胞生物との違いは、からだを構成する細胞の一つひとつが、存在する場所によって、異なる機能発現をし、特殊化しているということだけです。


利己的な細胞

selfish cell

進化生物学者のドーキンスが、「利己的な遺伝子」という、センセーショナルな言葉を使いました。
生物は、遺伝子を生き残らせるためのロボットに過ぎず、遺伝子は、自らが生き残るためにプログラムを組む、というのです。これは、進化の過程において、多種多様な生物が出現するにも関わらず、遺伝子の基本的な骨格が、大きく変化することもなく保存されていることを、指摘した言葉と受け取ることができます。

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私は、「利己的な細胞」といったほうが、進化のダイナミズムをよりよく表現できる、と思います。

今までの話とこれから話すことから、私たちのからだを構成する60兆個の細胞は、一つひとつが、独立生命体として生きる能力を持っていることが、分かります。
これらの細胞は、30数億年前に地球上に誕生した単細胞生物の特徴を、色濃く残しています。生物の種が、サイズ、形、運動能力において極端に異なっているのに対して、どの生物種の細胞も、基本的には高度な同一性を保っています。
すなわち、 細胞は、自らが生き残るために、細胞の集合体としての個体のサイズ、形、運動能力を、変えてきたことになります。 環境の変化は余りにも激烈なので、多くの種が絶滅することも、細胞はいといません。多種多様な種が存在するおかげで、生き残る種があります。少数の種だけでも生き残れば、その種の個体を構成する細胞は、変化した環境によりよく適応できる種を、さらに進化させます。

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全体として生き残るための細胞の戦略は、一つの個体の構築において、自ら進んで自殺する細胞群まで生み出しました。

胎内で胎児が成長する過程において、手の指に分化する細胞が決まってきます。それらの細胞が、指の間に位置する細胞に、自殺を要求するシグナルを出します。その結果の細胞死を、プログラムされた細胞死・アポトーシスといいます。このおかげで、私たちの指が分離するのです。アポトーシスはからだ全体に渡ります。もしもアポトーシスがなければ、私たちは肉団子のように丸い形で生まれるのです。
アポトーシスは、初期のがん細胞や、体内へ進入した病原体を攻撃する、免疫細胞にも認められます。


驚異のカンブリア大爆発

cambria explosion

生物の進化において、最もドラマチックなできごとが、5億4200万年前から5億3000万年前の、1200万年間に起こりました。地質学的にはカンブリア紀になり、このできごとをカンブリア大爆発といいます。1200万年間は、人間の一生からは途方もなく長い時間になりますが、進化史においては、「アッ」という間の瞬間的な時間になります。

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単細胞生物が地球上に誕生してから30億年余の間に、カイメンやクラゲのような軟体性の動物が現れました。しかし、種類も数も極めて限定されていたのです。 カンブリア大爆発において、現世動物の全ての先祖がいっせいに誕生しました。

このような進化の爆発は、遺伝子の突然変異によって、達成されたわけではありません。当時の生物は、基本的には、9億年前に誕生したカイメンと同じ遺伝子しか、持っていなかったのです。
大爆発前に、全ての現世動物を生み出す遺伝子が準備された、という言い方をする進化論者がいます。この言い方は誤解を受けやすい。未来を予想し、その未来のために何かを準備する神は、この宇宙には存在しません。
保守的な遺伝子を、環境に合わせて柔軟に発現させる、自己組織化を含む生命の驚異のメカニズムが、発動されたと考えるのが理にかなっています。

既に述べたように、単細胞生物から多細胞生物への進化は、細胞の劇的な能力の増大などがなくても、可能だったと思われます。動物の種の多様化も、同じように容易に行われた、と考えていいのではないでしょうか?

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それでは、何がその引き金になったのでしょうか?まだ定説はありません。しかし、次のような地球環境の激変を考えることができます。

5億5000万年前頃に、パノティア超大陸が、ローラシア大陸、バルティカ大陸、シベリア大陸、ゴンドワナ大陸に分裂しました。
この頃、莫大な量のリンが海へ流れ込みました。リンは岩石に含まれているので、大規模な造山運動と大量の降雨が組み合わされて、海へ流れ込んだと思われます。リンは、動植物の栄養源になると同時に、骨などの硬組織の材料になります。

この時期に、それまで繁栄していた、軟体性のエディアカラ生物群が絶滅したことが、環境変化がいかに激烈だったかを示しています。エディアカラ生物群の絶滅は、広大な海という生活圏が、新しい種のために準備されたことを、意味します。

全地球的な地殻変動の結果、複雑な地形から成る浅海、内海、湾が形成され、海流の動きが複雑になったと思われます。大気の流れが変われば、それが海洋環境にも影響します。地球上に多種多様な生活圏が形成されたことが、種の爆発的な増加につながったと考えるのが、自然です。


cambria explosion

カンブリア大爆発によって、脊椎動物の先祖になる直泳動物が誕生しました。そして魚類が両生類に進化し、さらに爬虫類と哺乳類に進化しました。

爬虫類から分かれした恐竜類は、6500万年前の巨大隕石の落下によってに絶滅し、子孫の鳥類が今生きています。人類を含む哺乳類には、4000数百の種があります。


わずらわしい恋や愛が必要な理由

sex

ただ単に生命を存続させるのならば、単細胞生物だけで十分です。ところが、単細胞生物は多細胞化したばかりか、性の分離まで試みるようになりました。
多細胞生物は、子孫を残すために、雌雄という性に分かれる必要はありません。からだの断片は、完全な個体にまで成長することが可能です。このような現象は、多くの軟体動物に認められます。

なぜ、進化は、雌雄という二つの性を作り、「愛した」、「恋した」という面倒な手続きを経なければ、子が誕生できないようにしたのでしょうか?子孫を残すために、二つの個体の合体が必要なのでは、子孫誕生の効率を下げてしまいます。
環境の変化が突然に生じることを考えると、この効率の低下が、決定的な危機を招きかねません。このような犠牲を払ってでも、性を分けた理由は何でしょうか?

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環境の激変の頻度は余りにも高い上に、原因はとても多様です。遺伝子プールに少しでも多くの多様性を持たせることが、将来の危機に対する対応力を、強化することにつながります。
多彩な細胞群が協調して、個体を機能させなければならない高等生物において、遺伝子プールの多様性への必要性が特に高まります。これが、性の分離の原因になったと思われます。

性の分離のための遺伝子の準備は、30数億年前の単細胞生物時代になされました。性の基本はメスで、そこへオスのMID遺伝子が付け加わったのです。メスが基本であることは、出産をしないオスに乳首があることからも、分かります。また性同一性障害になる人は、女性よりも、性的により不安定な男性に圧倒的に多くなっています。
多細胞生物が誕生してから雌雄器官が分かれ、カンブリア大爆発後に、雌雄は個体として分離しました。


私たちのからだは超共同体

cooperation

生物の危機対策は、さらに巧妙になっています。最大級の危機に対しては、完全に独立した生物種だけでは、対処しきれなかった進化史があるはずです。地球上の生物が互いに協力し合って、生き残りを図るという、驚くべきメカニズムが進化の過程で構築されました。

私たちのからだの中に、60兆個もの生体細胞が存在しています。ところが、それよりも多い100兆個もの細菌が、主に腸管に定住しているのです。
腸管周囲に、膨大な数の免疫細胞が集合しています。腸管は、とても重要な免疫系活性化の役割を担っています。細菌がその原動力になっています。細菌を完全に取り除いた無菌動物では、免疫系の活性化が極端に低下していて、ちょっとした感染によっても、すぐに死亡してしまいます。
すなわち、 私たちと腸内細菌の間には、共生関係が成立しているのです。私たちは、腸内で細菌を生かすと同時に、腸内の細菌によって生かされています。

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共生関係を極限にまで高めた細菌は、ミトコンドリアです。

私たちの先祖が、まだ単細胞の嫌気性細菌だった頃、シアノバクテリアの登場によって、地球上に酸素が蓄積されるようになりました。この頃、酸素を用いた糖類の好気性分解によって、エネルギー代謝を行うATPを効率よく産生する、好気性細菌が誕生しました。
私たちの先祖は、この好気性細菌のミトコンドリアを、細胞内に取り込みました。ミトコンドリアは、私たちとは全く無関係な、独自の遺伝子を持っています。ミトコンドリアのおかげで、酸素が含まれる大気の中で、私たちは生きることができるのです。

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進化の過程で、さらに驚くべきことが起こりました。

DNAには遺伝情報が書き込まれているので、私たちのDNAは、先祖からずっと受け継いできたもの、とつい考えがちです。しかし、ここにも驚くべき共生関係があるのです。
DNA鎖の全長のなんと34%もが、ウイルス由来なのです。 遺伝子として機能しているDNA鎖の部分が、全体の2%しかないことを思い出してください。私たちの先祖に感染したウイルスがDNAに入り込み、DNA鎖の大きな部分を占有してしまいました。
DNAのジャンクと呼ばれる部分に、イントロンという領域があり、ここにウイルス由来のDNAが存在しています。ここは、機能タンパク質を書き出すための遺伝子部分とは、異なる領域になります。イントロンは、主としてDNAの切り出しや翻訳の仕事をしています。 遺伝子情報の発現に、ウイルス由来のDNAが、決定的に重要な役割を担っているのです。環境が激変しても、ウイルスDNAのおかげで、生物は生き延びることができます。

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増殖因子という、ホルモンに似た作用をするタンパク質があります。細胞の増殖において、とても重要な役割を果たしています。従って、胎児期には、大量の増殖因子が体内で産生されています。ある種の増殖因子DNAはウイルス由来なのです。

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こうやって、私たちは、細菌やウイルスによって生かされると同時に、これらの細菌やウイルスの生存に貢献しています。幼少の頃から手洗い慣行を強制され、大人になると、空気中の雑菌やウイルスを殺すという、怪しげなスプレーを使うのが当り前、と思わされている私たち。自然の摂理に反する、危険を内包した日常生活を送っている、という意識を頭のどこかに留めておいてください。


生物の柔軟性をもとに考えた新しい進化論

evolution

ここで、生物の環境への適応力をもとに考えた、新しい進化論を書いておきます。

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これまでの突然変異と自然淘汰をもとに構築された進化論には、決定的な弱点があります。
大絶滅の原因になる環境の激変が、繰り返し地球を襲いました。しかも、この激変が、進化史的な時間のスケールからは、瞬間的に生じる場合が多々あります。
超新星爆発の結果、地球に降り注ぐ大量のガンマ線の照射時間は、わずか数分と考えられます。ここまで極端に短くはなくても、何度も地球に落下した巨大隕石は、極めて短時間に環境を激変させてしまいます。
地殻変動も繰り返し生物を襲います。日本列島の下に沈み込む太平洋プレートが、年に10センチも動いているのです。進化の時間スケールからは、これは驚くべき速さです。大陸を乗せている卵の殻のように薄い地層は、短時間で形を変えてしまいます。

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遺伝子DNAの突然変異はランダムに起こります。突然変異の結果として生じたDNAの変異は、通常は修復されてしまいます。修復されない場合、変異が有害ならば、その変異を持つ個体は死亡し、その変異は子孫には伝わりません。無害な変異は中立の変異となり、保存されます。
激変する地球環境下で、ある特定の環境変化に適した遺伝子を持つ個体が、ランダムな突然変異によって生まれる可能性は、極端に低くなります。事実上、ゼロといえます。
これでは、生物は進化するどころか、簡単に絶滅してしまいます。 突然変異と自然淘汰が進化の原動力ならば、地球上に現在生物は存在していません。

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今まで述べてきたように、生物は極端に単純で安定したDNAに、数少ない遺伝情報を書き込んでいます。機能タンパク質を作り、最終的にからだを構築するまでの過程で、自己組織化を中心にした物理化学反応を使っています。 環境と動的に対話しながら、遺伝子の基本的な構造を大きく変えることなく、自らのからだを変えているのです。
環境への積極的な適応、それが新しい進化論になります。

<和戸川 純>

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