ビッグバン時の宇宙にはかすみがかかっていた。光学望遠鏡でも電波望遠鏡でも、その先に存在する幼年期の宇宙を観測することはできない。誕生時の宇宙は量子よりも小さかった。誕生時の宇宙の直径は1プランク長さで、これが認知可能な最小サイズの宇宙になる。私たちの宇宙の物理法則と数学公理を適用できるのは、誕生時までだ。
人間に観測可能な宇宙は、3次元の空間座標と1次元の時間座標から成る、4次元時空と定義される。4次元時空は、異なる物理法則と数学公理から成る高次元時空から誕生した。高次元時空は、人間には「無」として認識される。
高次元時空を解き明かす超ひも理論では、私たちの宇宙の法則と公理が使われている。この理論が示す高次元時空は、4次元時空へ投影された幻影以上のものではない。
知覚も認識もできない高次元時空。人間を宇宙の中心に置く人間原理を捨てると、驚異の宇宙像が見えてくる。私たちの宇宙は、時間と空間それに未知の物理要素から成る、あらゆる方向へ無限に広がっている高次元時空と、完全に一体化している。「無限」の概念が生み出す究極の宇宙像を本書で示している。
高次元時空から移動した特異点エネルギーが、宇宙の卵を誕生させた。この宇宙特異点は、量子によく似た物理特性を持っている。量子には高次元要素が含まれていて、マクロの宇宙に適用できない波動関数で表現される。このことから、高次元時空で、宇宙特異点が通常の量子のように対生成されていることを予想できる。正の特異点が負の特異点よりも多かったために、正の特異点が対消滅を生き延び、正のエネルギーが優勢な私たちの宇宙が誕生した。
まだ実証されていない重力子が、時空の壁を乗り越えて飛び回っていることを示唆する、間接的な証拠が積み上がっている。重力子を介してエネルギーが時空間を移動する。空間に無限に湧き出るバーチャル粒子も、高次元時空が起源であることを予想できる。
感覚的には存在するのが当り前な時間だが、重力子と同様に、物理的実体は解明されていない。高次元要素をまとった時間が、宇宙誕生で決定的に重要な役割を担った。本書で、この時間の謎にも切り込んでいる。
ビッグバンの過程で最初に誕生した原子は、最も軽い水素原子だった。現在の宇宙に存在する原子の約75%を占める。重い原子は恒星内部の核融合で作られた。水素原子と酸素原子から成る水(氷)が、宇宙に大量に存在する。生物の誕生と生体機能の維持に、最も重要な役割を担っているのが、水素原子と水だ。宇宙に大量に存在する物質を使って、生物は奇跡なしで誕生する。生物が居住可能な惑星が、次々に発見されている。
人間にとって宇宙空間は余りにも広大だ。通信速度が光速では、他の知的生命体と交信するのは困難だ。アインシュタインが否定した、量子もつれという奇妙な現象がある。2つの量子が数万光年離れていても、物理特性が瞬時に同期する。量子もつれを使って他の知的生命体と交信する未来が、やってくる。