サイバー攻撃 2013年に世界に衝撃が走った。中国人民解放軍が、情報搾取などの大規模な攻撃を世界へ行い、米国家安全保障局が、世界の至る所へ極秘に侵入していることが、暴露された。「サイバー世界戦争の深い闇」をその直後に書いた。個人の違法行為をはるかに超えた、国家レベルの峻烈なサイバー戦争が、ネットの闇の中で進行。本書で、サイバー戦争の過去、現在、未来を俯瞰し、個人や企業ができる対策を述べた。(販売: アマゾン 楽天 Apple グーグル
Essay 79

中国がブロックしているサイトの調べ方

2022年2月9日
ネット検閲のためのグレート・ファイアウォール

中国政府は、グレート・ファイアウォール(万里の長城)と呼ばれる、ネットの検閲システムを使って、中国人が国外サイトへアクセスできないようにしている、と報道される。すべての国外サイトが、ファイアウォールによってブロックされているのだろう、という印象をなんとなく持ってしまう。

ウェブサイトの運営者へ提供されている、グーグルの無料サービスに、Google Analyticsがある。サイトの各ページへのアクセスを解析するサービスで、訪問者数、訪問者の地域、訪問時刻、閲覧時間などの多様な情報が提供されている。
Google Analyticsによると、以前から、北京や上海から私のサイトへチラホラとアクセスがあった。最近、中国からのアクセスがやや増える傾向にある。これが、ファイアウォールの実態を調べようとする気持ちを起こさせた。

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「 べすとVPN.jp」によると、中国でネットの検閲に関わっているのは、次の複数の組織や個人だ。

  • インターネット研究者
  • 検閲官
  • スーパーコンピューター(AI)
  • 3大プロバイダー(China Telecom, Unicom, Mobile)

グレート・ファイアウォールの開発には、マイクロソフト、オラクル、シスコなどの大手アメリカIT企業も関わっていることに、注意が必要だ。

中国に約4箇所ある、国の出入口にスーパーコンピューターを置いて、国外との間の通信を検査しブロックしている。ブラックリストにあるサイトやコンテンツ、キーワード、パケットなどで、ブロックすべき対象をAIと目視で検知する。検知は多層構造になっていて、例えば、サイト全文検索のキーワードで検閲をすり抜けても、他の防御壁でブロックできるようになっている。

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特定のサイトが、中国でブロックされているか否かを調べることができる、ウェブサイトを見つけた。運営しているのは「Comparitech」というイギリスの会社で、サイバーセキュリティ関連の支援事業を行なっている専門家集団だ。

図1.中国でのブロックを確認できるサイト
Lighthizer

図1の「Test if a site is blocked in China」のページで、ブロック状況を調べることができる。下の「How can I access blocked sites in China?」の項目に、VPN(仮想専用線)を使ってファイアウォールを越えられることが書かれている。VPNは通信内容が暗号化されているので、ファイアウォールの監視を逃れることができる。 最近では、VPN対策としてサーバーのIPアドレスをブロックし、通信全体に網をかけることが中国で行われている。
図1ではカットしたが、下のほうに「Why are sites blocked In China?」、「Which VPNs work in China?」、「What is the Great Firewall of China?」という3つの項目があるので、興味のある方はアクセスしていただきたい。

ウェブサイトのブロックの有無を確認するのは簡単だ。図1の「Domain to check」の入力欄に、サイトあるいはウェブページのURLを入力する。「私はロボットではありません」にチェックを入れ、「Check」をクリックすると下に結果が表示される。

中国からアクセス可能なウェブサイト
図2.「夢と現実のエッセイ評論」はアクセス可能
Lighthizer

私のサイトに中国関連の評論を載せているが、反中国と言うほどに激しいものではない。何よりも弱小個人サイトなので、ファイアウォールは無視してくれているようだ。Comparitechが調査対象にしている、北京、深圳、内蒙古、黑龍江省、雲南省の各地域の検閲に引っかからず、当サイトの閲覧が可能になっている。

中国国内で閲覧可能な主要サイトは、次の通り。

第1グループ(アクセス可能)

  • マスメディア(テレビ、新聞):TBS、日本テレビ、フジテレビ、しんぶん赤旗
  • 出版社:ワック、飛鳥新社、小学館、岩波書店、講談社
  • 情報サイト:Yahoo!ニュース、Business Insider、ホンシェルジュ
  • 検索サイト:bing、AOL、Lycos、Livedoor、日本Excite(USAはブロック)
  • 通話・会議・SNSサイト:Teams、Zoom、Linkedin、Skype
  • IT企業:マイクロソフト、オラクル、シスコ
  • 製造業:三菱重工、日立、マツダ、ソニー
  • 銀行:三菱UFJ銀行、新生銀行
  • 大学:京都大学、北海道大学、慶応大学、日本大学
  • 政党:日本共産党、公明党、維新の会、社民党
  • 行政機関:首相官邸
  • 宗教関連:伊勢神宮、明治神宮

テレビへの規制は意外にゆるいが、新聞に対しては厳しく、赤旗だけがアクセス可能になっている。日本共産党と中国共産党の関係は冷え切っている、という論評があるが、「血は水よりも濃し」。

出版社のワックは反中国的な記事が多い雑誌「Will」を、飛鳥新社は反中国的な記事が多い雑誌「Hanada」だけではなく、「目に見えぬ侵略」を出版したが、ブロックされていない。Willによく登場し、中国に対する強硬な意見を述べるので知られている、櫻井よしこの個人サイトが、アクセス可能になっている。出版社や個人は、中国に批判的な言論を弄していても、余り問題にしないようだ。
「Business Insider」には、「中国が歴史から葬り去ろうとしている天安門事件、30枚の写真」という記事が、「ホンシェルジュ」には、「5分でわかる天安門事件とは!」という記事が載っている。こういう言い方は運営者に失礼だが、弱小サイトということで無視されているのかもしれない。中国からアクセスが可能だ。

検索サイトの扱いは厳しいだろう、という印象を私は持っていた。ところが、グーグルとYahoo!検索はブロックされているが(第3グループ)、bing、AOL、Lycos、Livedoor、日本Excite(USAはブロック)などがアクセス可能になっている。サイトはアクセス可能でも、検索のキーワードで検索結果がブロックされる可能性がある。
バイドゥ(百度)などの中国の検索サイトを保護し成長させるために、海外サイトをブロックしている、という推測がある。グーグルとYahoo!検索という、トップの検索エンジンだけがブロックされていることが、この推測の裏付けになりそうだ。マイクロソフトのbingがアクセス可能だが、グレート・ファイアウォールの開発にマイクロソフトが関わっているので、特別扱いをされても不思議ではない。

中国との間でネット経由の通話や会議をする手段が、残されている。マイクロソフトのTeamsがアクセス可能なのは当然としても、Zoom、Linkedin、Skypeがブロックされていない。他の主要な通話・会議サイトはブロックされている(第3グループ)。検閲の基準が不明確なので、今後の使用には注意が必要だ。

行政機関の中では、首相官邸が唯一アクセス可能になっている。これで、日本政府への敬意を表明したことになっているのかもしれない。

中国の出入り口でブロックされているウェブサイト
図3.全面的にブロックされているサイト
Lighthizer

国の出入口でブロックされているサイト(This URL appears to be blocked in China.)は、以下のようになる。

第2グループ(中国の出入り口でブロック)

  • マスメディア(テレビ、新聞):NHK
  • 製造業:ホンダ
  • 研究開発:宇宙航空研究開発機構(JAXA)
  • 銀行:三井住友銀行、みずほ銀行、りそな銀行
  • 大学:東京大学、九州大学、筑波大学、千葉大学、防衛大学、上智大学、早稲田大学
  • 政党:自民党
  • 行政機関:内閣府(日本学術会議)、外務省、財務省、防衛省、農水省
  • 宗教関連:靖国神社

他のテレビ局が規制を受けていないのに対して、NHKがブロックされている。公営であることが、その理由かもしれない。

製造業では、なぜかホンダに対して厳しい。

JAXAは中国から激しいサイバー攻撃を受けているが、アクセスがブロックされている。第2グループの銀行や第3グループの製造業と同様に、プロのハッカーだけに「もろもろの業務」を担当させる、という政府の意思表示だろうか?

三菱UFJ銀行と新生銀行へのアクセスは可能だが(第1グループ)、三井住友、みずほ、りそななどの銀行が、真逆の扱いを受けている。銀行の当事者には理由を推測できるかもしれない。ブロックされている銀行に口座を持っている企業や個人は、仕事でも日常生活でもやりにくいに違いない。

大学への規制はゆるくても特に問題がないはずだが、なぜか、東京大学など、多数の大学がブロックされている。これらの大学には中国人留学生が多い。アクセスをブロックしている理由が分からない。

政党では与党の自民党に厳しいばかりか、内閣府以下の行政機関がブロックされている。現在の外交状況を反映しているのだろうか?日本学術会議は研究分野で中国へ協力的だが、内閣府の一機関ということでブロックされているのかもしれない。

伊勢神宮が規制されなくても、靖国神社がブロックされているのは想定内。

地方レベルでブロックされているウェブサイト
図4.5地域でブロックされているサイト
Lighthizer

図3と4の調査結果の表示に違いがあるが、この違いについて、Comparitechからの説明がない。図4では、北京、深圳、内蒙古、黑龍江省、雲南省の5地域で、グーグルがブロックされていることが分かる。図3は、自民党が「中国」でブロックされていることを示している。これは私の想像だが、図3は、国の入り口でのブロックを表示している。図4では、国のレベルでは通信が制御されなかったが、地方レベルでブロックが必要と判断されたと思われる。それが事実ならば、図3でブロックされている企業や機関が、より警戒されていることになる。

第3グループ(少なくとも5地域でブロック)

  • マスメディア(テレビ、新聞):朝日新聞、日経新聞、毎日新聞、読売新聞、ニューズウィーク日本版、New York Timesなどのアメリカの新聞
  • 出版社:文芸春秋社
  • 情報サイト:ウィキペディア、大紀元看中国
  • 検索サイト:グーグル、Yahoo!検索
  • 通話・会議・SNSサイト:Facebook、Messenger、Line、Twitter、Instagram
  • 動画サイト:YouTube
  • 通販サイト:アマゾン、楽天、Yahoo!ショッピング
  • 製造業:トヨタ、日産、パナソニック
  • 政党:立憲民主党

第1グループで示したように、NHK以外のテレビ局はブロックされていないので、テレビ局への規制は基本的にゆるい。新聞社への規制は厳しく、赤旗くらいしか閲覧可能になっていない。出版社に対する規制もゆるいが、なぜか文芸春秋社だけがブロックされている。

「大紀元」と「看中国」は、反中国政府の立場でニュースや論評を流している。国外在住の中国人が、中心になって運営しているサイトだ。弱小か否かにかかわらず、ブロックされている。

検索やSNS関連のサイトがブロックされるのは分かるが、通販サイトがブロックされている。越境ショッピングを不可能にするための処置と思われる。

銀行(第2グループ)と製造業(第3グループ)のサイトへの規制が厳しい。これは何を意味するのだろうか?好意的に解釈すれば、政府がコントロールできない、個人的な利益を目的にした不正アクセスを止めることを、目的にしていると思われる。

維新の会にアクセス可能なのに対して、立憲民主党がブロックされている。立憲民主党のほうが中国に好意的だが、日本の国政で野党第1党ということが、ブロックの理由だろうか?

以上の情報を提供してくれたComparitechは第3グループに属し、中国国内でアクセスできない。

検閲の傾向

グレート・ファイアウォールには、中央の大きな方針が反映されている。ただし、中央と地方を含めて、実行部隊が多様であることに注目したい。組織なり個人なりが、恣意的に規制をかける余地が残っている。ブロックされているウェブサイトに一貫性がなく、矛盾さえも感じられる事例があることを、上で指摘した。ファイアウォール運営組織の性格上、必然的にそうなる。このような事情を鑑みると、2022年2月4日に調べた上の結果が、いつでも変わり得る。

全体的に見ると、目につきやすい企業や機関のサイトに、規制がかけられている。政府機関のように政治的な意味合いを持つサイトの規制は理解できるが、銀行や大学に対する規制が厳しいことには、複雑な背景がありそうだ。私の推測を上に書いた。銀行に対しては、個人による欲得ずくの野放図なサイバー攻撃を抑制し、サイバー空間をコントロール下に置きたい政府の意図が、垣間見える。そのおかげか、中国からの金銭窃取の攻撃は、ロシアよりも少ない(拙著「サイバー世界戦争の深い闇」)。ブロックされている大学が多いことは謎だが、中国にとって要注意の教員がいるのか、サイトに要注意の情報が掲載されている可能性がある。

テレビ、出版社、情報・検索関連でアクセス可能なサイトが、意外に多い。さらに、個人の弱小サイトも規制されていない。主要な新聞社、SNS、それにYouTubeなどへのアクセスはブロックされているが、中国人が国外から情報を得るための手段は存在する。
日本語が理解できなくても、ネット上での翻訳は容易だ。調査したのは主に日本語のサイトだが、英語圏のサイトもブロックの傾向は似ていると思われる。

<和戸川 純>

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