Essay 81

ウクライナが日本に突きつけた覚悟

2022年5月20日
和戸川 純
侵攻前に出た想定外のバイデン声明

ウクライナ戦争の進展が、日本が取るべき対中防衛戦略の姿を、否も応もなく明確にした。他国の暴力によって人命が奪われ、国土が破壊される世界に私たちは生きている。現実を直視する以外の選択肢はなく、もはや平和幻想へ逃げることはできない。

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2021年の夏頃から、ロシアとベラルーシの軍隊が、ウクライナの国境沿いに集積された。最終的には、19万人規模の兵士が集められ、軍事演習が何度も繰り返された。ウクライナに圧力をかける力の誇示は露骨だったが、最後の瞬間に至るまで、プーチンは侵攻をちゅうちょしていたと思われる。
KGBの後継機関である、FSB(ロシア連邦保安庁)によって侵攻前に書かれた内部文書に、侵攻を予想させる記述がなかった。ただし、FSBの関係者が流出させたという、この文書の真偽は不明だ。さらに、ベラルーシ領内からキーウ(キエフ)へ進軍したロシアの部隊には徴収兵が多く、ベラルーシにおける軍事演習が終わってから、帰宅できると信じていた。自分たちが侵略者であることは、ウクライナ領内へ入ってから知った。

ロシアの侵攻を本気で止める気があったならば、「米軍をウクライナへ派遣するかどうかは、状況次第で決定する」と、バイデンは言わなければならなかった。外交経験が長いので、それは自明の理のはずだった。
ところが、12月8日に、「ロシアが侵攻したときに、NATO加盟国ではないウクライナへ、米軍を派遣することは検討していない」と、バイデンが明言した。この方針は、ブリンケン国務長官らによってもその後繰り返し強調された。軍事的な同盟国ではない、ベトナム、イラク、アフガニスタンなど多くの国へ米軍が派遣された、という事実と矛盾するアメリカの声明だ。アメリカの二重規範はずっと批判されていて、拙著「サイバー世界戦争の深い闇」でも指摘した。

ロシアの動きを完全に把握していたアメリカ

米軍を含むNATOの影をウクライナの背後に見て、侵攻をちゅうちょしていたと思われるプーチン。NATOによる派兵の可能性が消えたことによって、「ゴー」のサインを受け取ったと理解したことは、ほぼ間違いがなかった。

国内外の報道機関は、バイデンら米政府高官の声明を「失言」として批判した。しかし、執拗に繰り返されたこの声明には、深謀遠慮が隠されていた可能性がある。意図的に隙を見せて侵攻を誘導した、と理解することが可能なのだ。私が推測したこの「深謀遠慮」を後述する。
バイデンの判断を裏で支えているのは、エドワード・ルトワック。ルトワックはルーマニア系ユダヤ人で軍事戦略の専門家だ。バイデンのアドバイザーを務めている。著書に「戦争にチャンスを与えよ」や「自滅する中国」がある。冷徹極まりない分析が書かれている。

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アメリカの情報機関が収集した、ロシア軍の動きに関する情報が、逐一報道機関へ公表された。2022年2月24日、ロシア軍がウクライナへ侵攻。侵攻の日時、侵入地点、侵攻軍の規模など、まるで米政府がロシア軍を手配し、侵攻のスケジュールを作成したかのようだった。アメリカの情報収集能力の高さが如実に示された。バイデンの発言が、プーチンの判断にどのような影響を与えるのかまで、計算されていたと思われる。

プーチンは次のように分析して、侵攻を最終的に決断したのではないだろうか。
「NATOがウクライナへ派兵することはない。孤立している中規模の国。軍事的にも経済的にも特に取り柄がない。大戦車隊を送り込めば、恐れをなしたウクライナは2~3日で降伏する」

どの専制主義国でも、自国よりも強大な相手に戦いをいどむことを、ちゅうちょする。わざわざ負ける可能性に賭けたりはしない。オーストラリアに対しては横柄で、気に入らないことがあれば十倍返しをするが、アメリカに対してはへつらっている中国が、このことを明確に示している( 「オーストラリアの属国化に失敗した中国」を参照)。相手国の弱さが専制主義国の野心を誘惑する、という現実を直視しなければならない。

弱い相手への攻撃をちゅうちょしない専制国家

フランスのマクロンが、プライドを保たせたままでプーチンに引き下がらせるのが一番いい、と言っている。プーチンを八つ裂きにしたいと思っているウクライナ人が、第三者であるマクロンの意見に賛成することは、あり得ない。プーチンにとっては、このように軟弱なマクロンは、格好の餌食になる。モスクワを何度も訪れたマクロンを、長いテーブルの反対側に座らせた皇帝プーチン。マクロンの訪問が効果を上げることはなかった。ウクライナ侵攻に成功すれば、他国へのさらなる侵攻によって領土を拡大し、プーチンは自分のプライドをもっと満足させる。

領土的な野心を持つ専制主義国が、国の存立を他国との平和共存に求めることは、考えにくい。領土拡大が国家目標なので、侵攻の意図と能力を有する独裁者は、常に侵攻の機会をうかがっている。そのような国に対して、こちらの防衛力を高めるとより攻撃的になるので、抑止力向上は控えたほうがいいという「平和主義者」による忖度は、相手をつけ上がらせるだけだ。結果として侵攻を誘導することになる。

アメリカに占領された日本が、比較的容易に繁栄を取り戻した。この「成功体験」が上の主張の根本にあると思われる。「戦って多くの死者を出すよりも、降伏したほうが死者が少ない。侵略によって国土を占領されても、また繁栄できる」。
国民が上のように考えているならば、隣国の専制国家は遠慮なく侵略する。戦わないで領土の拡大をできるからだ。ヨーロッパでは、大西洋に至るまでの国々をロシアが征服する。アジアでは、台湾や日本ばかりか、一対一路の加盟国を含めた国々へ中国が進攻し、征服する。ユーラシア大陸は、ロシアと中国という帝国主義国家によって2分割される。世界制覇を目論む中国は軍隊を世界中へ侵攻させる。これで本当にいいのだろうか?

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専制国家の軍事力の強化が進めば、相手国は相対的に弱体化する。それにつれて、侵攻はより大胆かつ大規模になる。中国の侵攻は、今のところ、主権があいまいな南シナ海やインド国境周辺に留まっている。しかし、急速に軍事大国化している中国は、侵攻範囲を拡大させる意図を隠さなくなった。
第1列島線が南西諸島に沿って引かれ、第2列島線内に房総半島以南の日本列島が入っている。第1列島線の延長線が南シナ海を囲む九段線で、その内側を中国は海洋領土と称している(「中国をつぶすアメリカの戦略」)。このような問答無用の膨張主義を帝国主義と呼ぶ。

専制国家の軍事侵攻が被侵攻国にもたらす結果は、悲惨極まりない。中国による台湾や日本への侵攻を想定内にし、侵攻の意図をくじく抑止力を高めるだけでは足りない。侵攻が現実になったときに適切に対処できる、戦略が必要になる。

巨大な国防予算を有するアメリカの思惑

相互防衛条約を結んでいても、自国を防衛する気がない国を、他国が助けてくれるとは思わない。日本人は死にたくない。日本を防衛するためにアメリカ人に死んでもらいたい、などというたわ言が、アメリカ人に通用するはずがない。

自衛力の強化は当然だ。ストックホルム国際平和研究所によると、2017年の日本の防衛費(以下、軍事費)は、対GDP比で0.9%だった。この比率は、軍事費の実額が上位10か国の中では、最下位の10位だった(平均3.0%)。EUの国々が、GDP比2%以上を目指している。軍事費は上を見れば天井なしだが、日本もGDP比2%を目指すことは理にかなっている。自衛力の強化によって、アメリカへの依存度を少しでも下げたい。軍事費を倍増させれば、日本の軍事費実額が世界第3位の規模になる。そうは言っても、アメリカに比べれば額は圧倒的に少ない。
日本の2022年度一般会計予算は108兆円だ。防衛費は6兆円で総額の5.6%。10月に始まるアメリカの2023年度国防予算は、95兆円になると思われる。予算総額が718兆円なので、国防費が13%に達する。日本の一般会計予算に匹敵する額を、国防に投入するという現実がアメリカにある。

この規模の予算を毎年成立させるためには、支出の正当化が必要になる。国益を守るために世界最大の軍事力の維持が必要という、危機感が挙げられるはずだ。危険なのは、この正当化が逆転して、国防費を守るために世界に危機を作り出す、という方向へアメリカが動くことだ。アメリカの巨大な軍需産業の維持は、恒久平和になればままならない、という別の危険な側面がアメリカにはある。イラク侵攻にその気配があった。戦争がないならば、戦争を作り出す意思と力、そして必要性がアメリカにはある。

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現在(2022年5月18日)までに米議会が決定した、ウクライナに対するアメリカの支援額が、5.9兆円に達する。日本の防衛予算に匹敵する額だ。支援分野は軍事・経済・人道など多岐にわたる。「侵略者はロシアだ。世界は、ロシアに責任を取らせなければならない」というバイデンの言葉が、アメリカの決意を表明している。この表明には、上で指摘したような裏があると思われる。しかし、アメリカの都合がどうであれ、ゼレンスキーをはじめとするウクライナ人の必死の抵抗がなければ、アメリカの国民が巨額支援を支持することはなかった。

西太平洋へ軍事進出する中国

敵対する相手を分断し攻撃するのが、中国がその歴史においてずっと維持してきた戦略だ。対中国で日本は台湾とともに最前線に立つ。軍事大国になった中国に対応するために、まず日米安全保障条約の深化が当然必要になる。

2022年1月に、自衛隊とオーストラリア軍の防衛協力を緊密化する、「円滑化協定」が署名された。これは、日米安全保障条約にもとづく在日米軍の地位協定に相当する。西太平洋で軍事・経済・外交の活動を急速に活発化している中国。日豪の関係が準同盟にまで強化されたが、対中抑止のために同盟に格上げすることが、日本にとってもオーストラリアにとっても喫緊の課題になる。
両国とも民主主義を奉じているだけではない。資源の輸出入で相互依存関係にあるばかりか、かつて日本がオーストラリアの最も重要な輸出相手国だった、という友好的な歴史がある。

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シドニーやブリスベンなどの大都市が存在する、オーストラリアの東海岸から東へ1800kmの位置に、ソロモン諸島がある。ソロモン諸島は、オーストラリアから太平洋へ出て日本やアメリカに至る、海路と空路に立ちはだかっている。

2019年に台湾と断交していたこのソロモン諸島が、2022年4月19日に、中国と安全保障協定を締結した。協定の詳細は明らかになっていないが、ソロモン諸島への中国軍の常駐が予想される。2021年11月に首都ホニアラで暴動があり、中国人街が破壊された。中国の権益を守ることが、常駐の名目の一つになるかもしれない。
中国は、アフリカの角に位置するジブチと安全保障防衛条約を結び、軍事基地を建設した。その基地に空母施設が作られるなど、拡張が継続している。

中国の長い手が南太平洋に達すると、危機が及ぶのはオーストラリアだけではなくなる。中国本土とソロモンの軍港の間を中国軍が行き来するようになれば、そのルート上に日本の南西諸島が入る。一触即発の状況がいつでも発生し得る。

中国周辺国との友好関係の強化

対立する相手が強大になればなるほど、味方を増やすことが重要な戦略目標になる。強大な敵を孤立させることが極めて大事だ。

韓国で5年ぶりに保守政権が発足し、ユン(尹)が大統領に就任した。ユンは、文政権が壊した日米との関係強化を望んでいる。東アジアでは、韓国の取り込みが日本にとっての最重要課題になる。余り注目されないが、2022年の韓国の国防予算は5.3兆円で、日本に並ぶ。この予算が国防力の強化につながる。日米韓の軍事における隙間のない連携強化が、抑止力として大きな力を発揮する。

韓国から中国への輸出は総輸出額の20数%を占め、経済面での韓国の中国頼みが明白だ。しかし、半導体やスマホなどの主要輸出品目が、中国のメーカーに取って代わられつつある。中国の技術の進歩に韓国からの技術移転が貢献している。経済的な中国依存からの脱却が必要な韓国に、経済分野で日米が協力関係を緊密化する戦略が大事になる。

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フィリピン、インドネシア、ベトナム、マレーシアなどの、南シナ海周辺で中国と領有権を争っている国々。中国への経済的な依存が大きいために、対中国で一枚岩になりにくい。フィリピンが中国を相手取ってハーグの常設仲裁裁判所へ提訴した裁判で、南シナ海における中国の領有権や人工島の建設などが、国際法に違反していると判断された。しかし、中国からの経済援助を優先する提訴国大統領のドゥテルテが、裁判を反故にするような態度を取った。

インドは、日本、アメリカ、オーストラリアを含む、外交・安全保障の協力体制であるクアッドに入っている。インドと中国の国境地帯の少なくとも3か所で、インドは中国から侵入を受けている。インドは、対中関係において重要な位置を占めるロシアから武器を購入し、良好な関係を保っている。これが、ウクライナ戦争でロシアを非難できない理由になり、アメリカなどと足並みがそろわない。

アメリカは、台湾を中国の一部と公式に認めている。しかし、中国が反対する軍事援助などで、独立台湾の既成事実化を図っている思われる。近隣、しかも中国の正面に日本に友好的な台湾が存在する。アメリカ以上に、日本が台湾に積極的に関わりたい。政治・経済・軍事・外交などのあらゆる分野で、静かに台湾を援助し、独立を既成事実化していく。将来的には、何らかの時点で台湾の独立を公式に認める。

ウクライナ戦争で覇権が強化されたアメリカ

ロシアは、欧米などの多くの国々から経済制裁を受けている。同時に、アメリカなどから武器の供与を受けた、ウクライナ軍の頑強な抵抗に遭遇している。軍事力が急速に消耗し、長期的には経済が落ち込む。ロシアの弱体化が視野に入ってきた。アメリカは、中国と友好関係にあるロシアの弱体化が、唯一の競争相手と位置づける中国との対決において、有利に働くと計算しているはずだ。バイデンなどの米政府高官が、意図的に隙を見せたと思われる冒頭で指摘した発言が、この流れに沿っている。
もしも私の推測が正しいならば、ウクライナは、中国との覇権争いにおける、アメリカにとっての持ち駒の一つになる。

ウクライナ侵攻以前は、何かとアメリカに抵抗していたEU各国が、今ではアメリカを自分たちの盟主と認めている。アメリカが要求していたGDP比で2%の軍事予算については、侵攻後に多くの国々が受け入れたばかりか、それ以上の支出を喜んで確約している。軍事予算の多くが、世界でトップクラスのアメリカの武器の購入に当てられる。アメリカは技術大国であるばかりか、ガスやオイルなどの地下資源や農産物の輸出大国でもある。それらへの需要も高まっている。
派兵をしていないので、ウクライナにおけるアメリカ兵の犠牲はない。戦場が遠く離れているために、戦火がアメリカへ及ぶこともない。

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現時点では、冷徹なアメリカの計算通りに事態が進んでいるとしても、プーチン後にロシアを中国から引き離す戦略がなければ、弱体化したロシアが中国の軍門に下る。中国から北極海に至る広大な土地と、シベリアに埋蔵されている莫大な量の地下資源に対して、中国が権益を確保する可能性がある。同志ロシアが弱体化しても、中国単独では強大化が進んでしまう。

ロシアと中国は、アメリカという共通の敵を前にして現在はまとまっている。しかし、両国には戦いを繰り返してきた歴史がある。数十年にわたる清露国境紛争、東トルキスタン(新疆)侵攻、義和団事件、東清鉄道争奪、極東ロシア割譲、ダマンスキー島事件などだ。シベリア以東のロシアの人口が減少しているのに対して、越境してロシア極東部に住みつく中国人の数が増えている。中国との間に長大な国境線を有するロシアには、中国に吞み込まれることに対する、本能的な恐怖が存在するはずだ。この恐怖が、ロシアを中国から引き離すための鍵になる。

平和幻想を捨てるとき

2011年に、私は市谷の防衛省を見学した。そのときの自衛官との会話を「不都合なことは想定外、不思議な国日本」に書いた。

防衛省に核シェルターが見当たらなかったので、案内してくれた自衛官に質問した。「防衛省に核シェルターがありますか?」。その答がのんびりとした「ありません」だった。さらに説明が続いた。「核シェルターを持つ必要がないのです。私たちはミサイル防衛システム(BMD)を持っていて、東京へ飛んでくる敵のミサイルを、すべて空中で破壊してしまいます。ミサイルが東京に落ちることはないのです」。

防衛省が、建設が容易な核シェルターを作ることから、日本の防衛力強化を始めなければならない。永世中立国のスイスには、自国防衛のために必要な核シェルターが、住宅、病院、学校などの建物の地下に存在する。また、普通の市民が防衛義務として銃を所有している。

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中国の日本侵攻が現実のものになったときは、死傷者を出さないためにすぐに降伏するほうがいい、と主張する「評論家」がいる。ウクライナへ降伏を勧める人と同じ意見だ。日本は民主主義の国なので、どのような主張でも自由にできる。しかし、他民族による支配を甘く見ないほうがいい。

ウクライナ戦争で強制的に拉致されたウクライナ人が、着の身着のままで、何千キロも離れたシベリアへ送られている。ロシア人が急減している、生活環境が過酷な地へ送られているのであろうことは、容易に想像がつく。太平洋戦争において多くの日本兵捕虜がシベリア送りになった。

中国に支配される悲惨

日本が中国の支配下に置かれたときに、被支配国の日本で何が起こるのだろうか? 中国は、「中国の夢(中華の復興)」を追いかける帝国として拡張政策を取っている。見かけ上の大統一を維持するために、少しでも独立機運を見せる民族を神経症的な弾圧で「浄化」している。共産党支配に対する疑問を呈する人は、効果的に「粛清」される。

噂によると、獄中における「罪人」の扱いは過酷を極める。生活の場から突然に消え、そのまま二度と見かけることがなくなった人たちが、大勢いる。謀略で他者をあざむき、情け容赦なく敵を殺戮し排除するのが、中国大陸の凄惨な歴史を生き延びてきた、「中華民族」の哲学であることを忘れないほうがいい。

漢民族の王朝を倒し、統一王朝の清を建国した満州の女真族は滅ぼされ、民族としては消滅させられてしまった。内モンゴルでは、徹底的なモンゴル文化の破壊が進められていて、少しでも抵抗すれば社会から容赦なく消されてしまう。
新疆が中国(清)の版図に入ったのは18世紀で、その後東トルキスタンなどの独立運動が、何回かあった。チベットも同様の歴史を辿り、18世紀にチベット王朝が清によって制圧された。新疆とチベットで苛烈極まりない民族浄化(ジェノサイド)が進んでいることは、誰でも知っている。さらに、同じ中国人が住む香港と台湾へも、種々の手段を駆使した仮借のない攻撃が続いている。

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中国政府は、日本への憎悪を焚きつける歴史教育をずっと行っている。その成果かどうか、「世界が日本人に注目している」で指摘したように、イギリスのBBC放送による国際世論調査で、90%という圧倒的多数の中国人が、「日本は世界に悪い影響を与えている」と回答した。群を抜いて日本に対する評価が低いのは、韓国人も同じだが、割合は79%で中国よりもややましだった。

かつて文化大革命の狂気が荒れ狂った中国。独裁政権が、洗脳によって日本人への憎しみを増幅させた国民を先導し、日本で「浄化」を始める未来を想像したくない。日本が新疆化しても、中国の覇権が行き渡った世界では、外部からの支援が日本へ届くことはない。この可能性をゼロにするためには、日本人自身の気づきと行動が必要になる。

岸田政権下で、ヨーロッパやアジアの関係国首脳との行き来が、目覚ましい。仲間をさらに増やし、世界を巻き込んだ防衛体制の確立が急務と考えられる。中国を除けば、日本はアメリカに次ぐGDP世界第2位の大国だ。影響力に見合った行動で日本の防衛力強化を目指すことができる。


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