宇宙の基本構造(第1部)
Essay 53

宇宙を構築する究極のドット量子

和戸川の関連書籍「無から湧き出る宇宙
2017年4月23日(修正2017年6月3日)
和戸川 純
極微への探求

まず最初に言葉の定義から始めたい。「素粒子」と「量子」はどう違うのだろうか?指し示すものは同じだが、 素粒子という言葉では、粒子的な側面が強調されている。物質の最小単位を粒子としてとらえれば、イメージしやすいという利点がある。けれども、物質の最小単位は、境界が明確な粒子ではない。エネルギーの最小単位であることを強調する、量子という言葉のほうが適切だ。

量子は、粒子と波の両方の性質を持つ。エネルギーの波が、グラデーションになって周囲へ広がっている有様を想像すれば、概念的に把握しやすい。 エネルギーのグラデーションは絶え間なくゆらいでいるので、外側の境界を厳密に確定することは不可能だ。

相対性理論は、目に見えるマクロの宇宙に適用される。アインシュタイン後に、物質を構成する最小単位への探求が、量子力学を生み出した。量子が、宇宙を構成する物質エネルギーの最小単位だが、量子世界には、マクロの宇宙に適用される主要な物理法則を適用できない。量子は、マクロの物理法則とは質的に異なる、量子世界の物理法則に従って存在している。 理論物理学者は、マクロの相対性理論とミクロの量子力学を統一する努力を続けているが、まだ成功していない。

図1.物質サイズで変わる物理現象

19世紀のドイツの哲学者フリードリヒ・エンゲルスが、物質の大きさが異なれば異なる現象が生じることを、自然弁証法で示唆した。 エンゲルスの量質転化の法則によると、量の暫時的な変化が臨界点に達すると、その物質が関与する現象に質の転化がもたらされる。 そのため、分子とその分子によって構築された物質が、質的に異なる物質として機能するようになる。
現在の複雑系の議論においては、これと類似の現象は創発と呼ばれる。多層の階層構造を形成する、複数の相互作用が組織化されると、上層の挙動が下層とは質的に全く異なってしまうことを、意味する。
相対性理論と量子力学を統一するには、質が変わる臨界点がどこにあり、物理現象がそこでどのように変化するのかを、解析することが必要になる。関与する階層構造の複雑さから、実証は間違いなく難しい。

図1で、 電子やクォークなどの量子は、不確定性原理によって存在が規定されている。時間を特定すれば存在場所が不明になり、場所を特定すれば存在時間が不明になる。
ところが、量子の集合体である分子以上の大きさの物質は、量子とは質的に異なる現象をもたらす。 水分子や液体の水の化学反応は、決まった法則に従って決まった方向へ確定的に進行する。陽子や原子の物理現象は、その中間的な様相を呈する。特定の反応が生じると同時に、量子的な不確定性も認められる。臨界点がここに存在することは明らかだ。

図2.量子と物体の物理現象の相克

人間は、サイズの上では、ミクロの量子とマクロの宇宙の間に存在する。ここでも、物質サイズによる物理現象の相克が顕在化する。 図2で、テーブルに乗っていたリンゴを手に取った人がいる。テーブル上のリンゴを見てそれを手に取る過程で、大脳皮質の視覚野から運動野へ至る、脳の一連の活性化がまず生じた。 脳のシグナルが神経を介して筋肉に伝わると、手を伸ばし、リンゴをつかみ、それを口元へ運ぶという、筋肉の一連の動きが生じる。これらの反応と動きは、決まったルートを経由する一方向性のもので、「確定性原理」に乗っ取っていると言うことができる。
ところが、からだとリンゴを構築している量子は、「不確定性原理」にもとづいて存在している。腕を構築している莫大な量の量子が、そろって前方へ移動し、リンゴをつかみ、さらに後方へ戻ることは、量子力学の法則からはあり得ない。 クォークが、予定調和に乗っ取って、前や後へ確定的に移動することになってしまうからだ。

宇宙レベルでは、量子が集合して原子を形成し、原子が集合して最終的には星を形成する。 量子から星に至る物理現象の流れには、切れ目がない。ミクロからマクロまでの物理現象を包含する、統一的な法則が存在することに、疑問をはさむ余地はない。理論物理学者は、このような統一理論の構築に努力していて、その主要な候補としてあげられているのが、 超ひも理論 とループ量子重力理論だ。

超ひも理論はこのサイトですでに紹介したので、 ここでは、ループ量子重力理論を中心にして、宇宙の存在原理を考えたい。 ループ量子重力理論では、難解な数式が駆使されている。素人向けの平易な著作は極めて少ない。スモーリンの「時空の原子を追うループ量子重力理論(実在とは何か?、別冊日経サイエンス、日経サイエンス社、2012年)」が、基本的な知識の習得に役立つ。

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1980年代半ばに、 リー・スモーリンやアブヘイ・アシュテカなどの物理学者が、一般相対性理論と量子力学の統合に挑戦した。それが、ループ量子重力理論としてまとめられた。
彼らは、 一般相対性理論の2つの原理を理論の中心に据えて、新しい理論を展開した。1つ目の原理は、時空に境界が明確な幾何構造を想定し、それを絶え間なく変化する力学的な対象として捉える、「背景独立性」だった。もう1つは、時空を表現する上で、どのような座標系を選んでも構わないとする、「微分同相変換不変性」。

微分同相変換不変性は、一般相対性理論で初めて採り入れられ、相対性理論の重要な基盤になった。この原理によると、時空に特別な座標系は存在しない。時空を表現する方程式には、どのような座標系を選んでも構わない。時空の一点は、座標値によってではなく、そこで物理的に起きている現象によって定義される。

図3.理論によって異なる宇宙像

図3で、理論が違えば宇宙像が異なることを示している。 ループ量子重力理論では、エネルギーのあり方を特徴づけるスピンに、これから述べるような数学的幾何構造を与える。 この幾何構造のネットワークが、宇宙空間そのものだ。 空間は、滑らかに広がっているのではなく、離散的な極微幾何構造体の集合体になる。
時間も滑らかに流れるのではない。スピンネットワークの組み替えによって、現象が離散的に生じ、その連続体が時間の流れとして認識される。
ループ量子重力理論における時間の概念はあいまいなので、第2部で明確にすることを試みる。

超ひも理論では、ブレーン(メンブレーン=膜)と呼ばれる背景場(宇宙空間)の存在を、前提にしている。量子であるひもは、重力子を除いて、私たちの宇宙ブレーンに付着している。ひもが、スピンに相当する。ループ量子重力理論では、このような背景場になる空間を想定しないので、背景独立性の理論と呼ばれる。

時空の最小単位、プランク定数

空間の基本構造が、途切れのない連続的なものならば、空間はどのような大きさにでもなり得る。無限小から無限大まで何の制約もない。
これに対して、 空間が離散的な基本単位によって構築されているならば、空間の最小単位が存在しなければならない。空間を不連続体と考えるループ量子重力理論において、スモーリンらが、下に示すプランク定数で空間の最小単位を規定したのは、当然だった。 ループ量子重力理論は、相対性理論の概念を量子力学で展開しているので、宇宙の基本物理量から計算されたプランク定数と、補完関係にあるのだ。

ドイツの物理学者マックス・プランク(1858~1947年)が、重力定数、光速、輻射エネルギーなどの物理量をもとにして、全ての物理的存在を規定している、絶対的な単位を計算した。 プランクの計算結果は1899年に報告され、プランク定数と呼ばれるようになった。 この定数は宇宙全域で一定なので、全宇宙に普遍的に適用される。
もともとのプランク定数は、その後の実験結果などを考慮して修正された。修正の条件が異なると、得られる定数がやや異なってしまう。 下に示す定数は、修正されたプランク定数のうちの1つだ。

表.プランク定数(宇宙の絶対基本定数)
長さ

2x10 -35 (最小の長さ)

時間

5x10 -44 (最小の時間)

質量

2x10 -5 (1プランクサイズ量子の最大質量)

温度

1x10 32 度k (最高の温度)

エネルギー

2x10 (1プランク質量が有する最大静止エネルギー)

プランク定数で示される長さと時間が、私たちの宇宙の絶対的な時空最小単位だ。これよりも短い長さも時間も宇宙には存在しない。1プランク長さの粒子が、宇宙に存在する最小の粒子になる。1プランク長さ以下の物体は、全てがブラックホールになり、物理法則を適用できなくなる。

図4.想像を絶する量子の小ささ

1プランク長さが、日常的な感覚からは桁違いに小さいことを理解してもらうために、図4に比喩を示す。 直径1プランク長さの球体を、眼に見える直径1mmの球体に拡大する。同じ倍率を身長170cmの人に当てはめると、この人の身長はどれくらいになるだろうか?なんと、身長10 16 光年(1京光年)というとてつもない巨人になる。 私たちの宇宙の直径よりも10万倍強も大きい。プランクサイズはこれほどに小さい。

1プランク時間は、真空中で、1プランク長さを光子が飛ぶときに要する時間だ。 このことから、相対性理論では、最も基本的な量子である光子が、時間の流れを決定していると考える。光速が半分になれば、時間の流れも半分になる。

質量・温度・エネルギーに関するプランク定数は、長さ・時間とは異なり、私たちの宇宙に存在する最大の値だ。 1プランク質量は、1プランク長さの物体の最大質量だが、2x10 -5 gという数字だけを見ると、重いという感じを受けない。上に書いたように、1プランク長さの粒子は超極微なので、この質量を有する目に見える大きさの物体は、極限的な重さになってしまう。 1プランク質量よりも重い物体は、事象の地平面によって隠される。即ち、ブラックホールになる。

1プランクエネルギーは、1プランク質量が有する静止エネルギー量だ。温度とエネルギーの定数は、宇宙の極大値を示していて、物理法則を適用できる範囲では、これ以上の高温もエネルギーも宇宙には存在しない。 宇宙誕生時の灼熱状態における温度とエネルギーが、プランク定数と同等になる。

k(ケルビン)は絶対温度の単位で、0度kが宇宙の最低温度だ。これ以上低い温度は宇宙には存在しない。0度kは、摂氏に換算すればー273度c。宇宙を論じるときには、10 10 度kのように、通常は極めて高い温度を問題にする。 宇宙論では、273度の差は誤差の範囲に入るので、ケルビンと摂氏は、便宜上同じと考えることができる。

人間原理を超えた世界

19世紀のフランスの思想家オーギュスト・コントが、神学的・形而上学的な認識法を否定するために、実証主義を唱えた。この哲学は、超越的なものの存在を否定し、経験的な事実のみにもとづいて、理論や命題を検証することを求めた。実証主義によって、外部世界の現象が、人間の意識から切り離された。

実証主義においては、理論は、測定できる範囲内でのみ意味がある。プランクは、物理学の分野でこの哲学を実践するために、プランク定数を提唱した。けれども、当時の観測機器ではこの定数を実証できず、事実上、実験では証明されない超越的なものに近かった。
今では、衝突型加速器を使った種々の研究が、量子力学の発展を助けていて、プランク定数の有意性が実証されつつある。 100年以上も前に提唱されたプランク定数が、量子力学における最も重要な物理定数であることが、明白になった。

飛躍的な進歩をもたらす科学理論は、しばしばこのような経緯をたどる。理論が提唱された時点では、その時代の常識をもとに批判を受けるが、新しい世界を切り開く理論であることが、やがて理解されるようになる。

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「人間を存在させるために宇宙が存在している」、と説く人間原理。 キリスト教の思想の影響を強く受けていることは、明らかだ。天動説以降の多くの物理理論が、人間原理の上に構築された。 プランクは、人間原理を超えることを目指した。けれども、観測機器で測定できる物理量をもとに、今までの経験から得られた公理と推論規則に基づく体系である数学を使って計算したために、広い意味において人間原理から逃げることはできなかった。

図5.物理法則が破たんする外宇宙

もしも直径1プランク長さの宇宙が存在するならば、人間原理、即ち私たちを存在させている物理法則が適用可能な、最小の宇宙になる。 プランクサイズよりも小さい宇宙には、私たちの宇宙の物理法則も数学も適用できず、そこでは物理法則が破たんしてしまう。
プランクサイズ以下の宇宙は、プランク定数よりも小さい空間や時間で構築されているのではない。存在原理が私たちの宇宙とは全く異なるので、そこには、私たちの宇宙の物理量や私たちの宇宙の数学を、適用することができない。私たちの大小の概念が通用しない。
観測機器で観測できないだけではなく、人間には知覚も認識もできない「無の世界」になる。プランクサイズ以上の宇宙とプランクサイズよりも小さい宇宙との間には、量質転化の法則が究極的な形で適用される。

外側の宇宙が、私たちの感覚からは無の世界でも、私たちの宇宙を、外側の宇宙と完全に一体化している解放散逸系と考えなければ、多くの謎の解明が不可能になる。 途中に量質転化があっても、物質は、量子から目に見える高次構造まで、切れ目なく構築されていることを思い出したい。
存在の彼方から伝播する何らかの現象が、私たちの宇宙に顕現していることを予想できる。第2部で詳しく述べるように、ループ量子重力理論の本質にまで考察を広げると、伝播するものは、エネルギーだけではなく時空が含まれる可能性が大きい。

私たちの宇宙の物理法則の範囲内に顕現した表象だけが、無の世界から有の世界に伝播した現象として認識される。その表象を分析することによって、人間原理の彼方にある無の世界を推測することが、可能になる。 次元を超えた理論である超ひも理論が、そのための有力な手段になると思われる。

物質を構築する最小の単位、体積量子

量子は、第2部で詳述する真空エネルギーの励起によって局所空間に誕生する、エネルギー場だ。この励起現象を真空の相転移と呼ぶ。量子物理場は、回転軸を中心にして角運動量で定義される自転をしている。 量子の自転する属性をスピンと呼び、スピンの大きさが回転軸の大きさを決める。回転軸はコマのように直立することがないので、スピンは常にフラフラと歳差運動をする。角度、回転方向などが一定しない。量子のこの不安定な運動が、不確定性原理をもたらす。

量子の種類を決める属性は、スピンによって決定される。スピンを概念的に数値で表現すると、大きさが1/2の倍数になる。 宇宙にはスピン1/2の整数倍の量子しか存在しない(0、1/2、1、3/2、2、5/2、3など)。 電子、陽子、中性子などの物質を構築するフェルミ粒子のスピン数は、半整数倍になる(1/2、3/2、5/2など)。光子、π中間子などの相互作用を媒介するボース粒子は、スピン数が整数倍(0、1、2、など)だ。 このために、量子の最も基本的な物理量であるスピンの値は、連続的ではなく飛び飛びになる。

ループという言葉は、数学的には空間内の小さな閉曲線を意味する。 閉曲線の例は円周で、ある点から出発して進むと、もとの点に到達するような曲線になる。電磁場では力線が巻き戻り、力線がループを形成する。 作用の方向を示すループの形状形成には、スピンが関与する。 即ち、量子の相互作用は、量子の主要な属性であるスピンによって決定される。

ループ量子重力理論の基盤に微分同相変換不変性がある。これによって、エネルギーを放出したり吸収したりしても、量子は、もとの物理的特性を保ったまま、滑らかに座標変換する。量子の形や大きさは変わるが、スピンやループの特性を維持するので、空間内の位置が変わっても同一の量子グループとして存在し続ける。

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図6.体積量子の幾何構造

宇宙に存在する物質やエネルギーを、ループ量子重力理論では数学的な幾何構造で表現する(図6)。
質量をノードに集中させる。ノードを中心にして、ノードの外殻になる多面体の幾何構造を描き、その立体を体積量子と呼ぶ。外殻である境界面が、体積量子の影響が及ぶ範囲になり、この平面を面積量子と呼ぶ。ノードから出たリンクが、面積量子を突き抜けて体積量子の外へ出ている。

スピンのたまり具合は、体積量子幾何構造の大きさで表現する。エネルギーの大きな量子は体積が大きく、多数の面に囲まれた多面体を形成する。リンクの数も多くなる。 面の数が増せば増すほど、体積量子は球に近くなる。ただし、 これはあくまでも数学的・概念的な幾何構造なので、実際の量子がこのように見えるわけではない。

図6で1例として示したのは、立方体の体積量子だ。幾何構造は便宜上直線で描かれるが、概念的には円で描くほうが実際の量子に近くなる。 図では、1辺の長さを仮に2プランク長さとする。最小の立方体体積量子ならば、この辺が1プランク長さになる。この図で、1つの面積量子が4平方プランク長さなので、6面の合計では24平方プランク長さ。体積は8立方プランク長さ。リンクの数は計6本。

図7.種々の体積量子

最小の体積量子には、1辺が1プランク長さの3角錐幾何構造を与えることができる(図7の「エネルギー最小」)。3角錐の体積量子は、4つの境界面で囲まれていて、4本のリンクが出ている。 それよりも大きな量子幾何構造を、図7の「立方体」と「エネルギー大」で示している。

図8.スピンと体積量子の関係

物理量で量子を定義するとスピンになり、数学的な幾何構造で示すと体積量子になる。 エネルギーであるスピンの溜まり具合を、体積量子の大きさで示し、質量をノードに集中させる。スピンの反応性と反応の方向を面積量子とリンクで示す。他の量子との相互作用は、ノードどうしをつなぐリンクのループで表現される。 このようにして、スピンという概念的に分かりにくいエネルギー場を、ループ量子重力理論では明快な数学的幾何構造で表現できる。

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空間の最小のエネルギー励起場である光子は、物理的に境界を特定できないので、物理学では一般に直径ゼロと言われる。ループ量子重力理論は、このような光子にも境界を有する幾何構造を与える。 直径ゼロの粒子は、概念としてイメージしにくく、ループ量子重力理論の助けによって理論展開が容易になる。

光子のエネルギー準位は他の量子よりも低いが、エネルギーを吸収すると準位が高まる。エネルギー準位が最も低い光子には、最小の立体幾何構造である3角錐を当てはめる。エネルギー準位が高くなれば4角錐や立方体などの形を取るが、スピンに変化がなければ光子としての物理特性を維持する。

面積量子の1辺の長さは、1、2、3、...プランク長さのように、離散的に増す。その結果、面積量子の大きさも離散的な値を取る。これによって、量子のエネルギー準位が飛び飛びに増大することを、ループ量子重力理論で説明できる。 3角錐や立方体などの体積量子が集合すると、エネルギーの大きな体積量子になる(図7「エネルギー大」)。体積量子の外殻である面積量子も大きくなる。 体積量子内部の多数のノードが、体積量子内外のリンクを介して形成された、ループのネットワークに組み込まれる。

体積量子と面積量子が増し、リンクの数が増えることによって、量子のエネルギー準位と反応性が高まることが示される。 リンクの数の増加が、4本、5本、6本のように不連続になるために、反応性の増加が不連続な値を取る。原子核の周囲を回る、電子のエネルギー準位が階段状に飛び飛びの値を取ることから、観測値と電子体積量子幾何構造の間に矛盾はなく、ループ量子重力理論が正当化される。

宇宙空間を構築するスピンネットワーク

ループ量子重力理論では、量子間相互作用をもたらす力を、ノードから出て面積量子を突き抜けるリンクによって、概念的に表現する。隣り合った体積量子の間でリンクが共有され、リンクは量子間で閉曲線のループを形成する。 ループは自由に変形し、形や大きさがどのようにでも変わる。けれども、ループがどのように変形しても、微分同相変換不変性によって、各量子に特有な励起状態が維持される。 相互作用の概念的な可視化が、この理論によって可能になった。

スピン(体積量子)が集まったスピンネットワークの幾何構造は、数式にもとづいて描かれた抽象的・概念的な構造だ。この構造が実在しているわけではない。この構造が象徴的に示しているのは、量子エネルギーの多寡、量子間相互作用の仕方、隣り合った量子どうしの境界の関わり合いなどになる。 このような眼に見えない物理量が、スピンネットワーク幾何構造として可視化される。

量子の外殻になる面積量子は、隣り合った体積量子どうしの間で共有される。体積量子の1つひとつが、面積量子を介して隙間なく密着する。概念的に表現されるこの幾何構造とは異なり、 物理場としての量子は、空間内で特定の位置を占めない。不確定性で特徴づけられる振動する場なので、幾何構造で示される境界面も相互作用の方向を示すリンクも、実際には常にゆらいでいる。

図9.大質量体積量子がゆがめる空間

面積量子で囲まれた体積量子のいくつかが接近して合体すると、大きな外殻面積量子を持つ1つの体積量子になる。内部には、リンクで結ばれたノードの集合体が存在する。 体積量子が数限りなく集合して1つになった場合、内部にノードが密集・密着した超巨大質量体積量子が誕生し、ブラックホールが形成される(図9)。
逆に、大きな体積量子から小さな体積量子が分離・放出されると、もともとの体積量子が小さくなり、面積量子が減少する。この幾何構造上の変動は、光子を介した量子からのエネルギー放出において、普通に認められる。

真空エネルギーの幾何構造
図10.真空エネルギーから量子誕生

量子の形成には至らないエネルギー場のかすかな振動が、真空中で常時生じている。これが真空ゆらぎや真空エネルギーに相当する。 真空エネルギーは、量子の形成が可能なエネルギーの準位よりも、低い状態にあるエネルギーと考えることができる。
ループ量子重力理論には、宇宙に普遍的に存在する真空エネルギーを、イメージとして把握しやすい利点がある。 図10の中央に描いた最小の量子である3角錐体積量子は、4つの面積量子と4本のリンクを持つ。その周囲に存在する真空エネルギーの場を、最大で3本のリンクを持つノードで示している。このように、ノードから出るリンクを3本までと限定すれば、ノードの周囲に、立体を構築するための面積量子が不在の幾何構造を、描くことができる。 これが、量子形成に至らない低エネルギー準位の物理場だ。

図11.宇宙を膨張させる真空エネルギー

真空エネルギーの幾何構造において、ノードを結節点にしたループの周辺に、明確な境界のないスピンが、ゆらぎながら茫洋と広がっている。 境界になる外殻面積量子が存在しないスピンは、限りなく拡大するという本質を備えていると考えられる。リンクの長さ、即ちノード間の距離は、幾何構造的に限定されることがない。プランクサイズを超えて、リンクの長さが、光年単位になっても不思議ではない。リンクが限りなく伸びるならば、エネルギーが外から入ることのない孤立閉鎖系宇宙の膨張が、真空エネルギー幾何構造の拡大で矛盾なく説明できる。

ここまで推論を進めると、 真空エネルギーのノードと体積量子のノードには、質的な差があると考えなければならない。 最小の体積量子では、1つのノードからリンクが4本出て、リンクは4つの面積量子を突き抜けている。体積量子が集合・合体してより大きな体積量子になると、融合した面積量子が合体体積量子の外殻になる。その外殻の中に、体積量子のノードが集合する。
真空エネルギーの励起によって量子が誕生する場合、体積量子の単なる集合とは全く異なる現象が生じると思われる。なぜならば、 いくつかの真空エネルギーのノードが完全に合体し、一体化しなければ、立体幾何構造を形成するのに十分な数のリンクが、得られないからだ。

図10で、 ノード1とノード2は各々2本のリンクを持っている。2つのノードが合体すれば、3角錐を作るのに十分な4本のリンクを獲得する。ループ量子重力理論では、ノードに質量(エネルギー)を集中させるので、合体する前のノード1、2のエネルギーは、各々、最小量子形成に必要な量の2分の1ほどになるはずだ。 同様にして、ノード3のエネルギーは4分の1、ノード4のエネルギーは4分の3にならなければならない。

以上の推察は、重要な意味を持つ。 真空エネルギーのノードは、体積量子のノードほど完全ではない。それにともなって、スピンやリンクも物理場として不完全になるはずだ。量子としての境界は存在しない。境界は、場の励起をきっかけにして生じる。相転移以前の境界のない真空エネルギーの場を、量子として測定できないのは当然だ。このように考察すれば、エネルギーとして把握しにくい真空エネルギーの実体が見えてくる。

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最も単純なエネルギー場である真空エネルギーの幾何構造が、宇宙の背景構造スピンネットーワークの構成要素になる。その広がりが、宇宙空間そのものを形成している。

最小の3角錐体積量子は、理論上は光子だ。図10で、中央の体積量子は、真空エネルギーの励起によって誕生した光子になる。 励起の原因を、ノード、スピン、リンクを巻き込んだ、真空ゆらぎ(量子ゆらぎ)と考えることができる。このゆらぎによって隣り合ったノードが接触し、合体する。ノードは裸なので、合体が比較的容易に行われる

真空エネルギーの励起によって誕生した量子幾何構造が、真空エネルギーの背景幾何構造内に点在している。 個々の量子の幾何構造の大きさは、量子間の相互作用やエネルギーの放出・吸収がなければ、宇宙が膨張しても変化しない。原子から銀河まで、タイトな幾何構造でできている物質の大きさが一定であることから、空間を膨張させる真空エネルギーにゆるい構造を当てはめることは、理にかなっている。宇宙空間の膨張が、上に述べたように、真空エネルギー幾何構造スピンネットワークの拡大に依ることに、疑いの余地がなくなるからだ。


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