量子論が描く驚異の宇宙像(第2部)
「エントロピーの法則が予想する宇宙の死」から続く。
Essay 31
次元の闇から湧き出る宇宙
2012年11月27日(修正2017年8月28日)
膨張する宇宙

誕生した瞬間の宇宙は極微で、私たちの宇宙の数学と物理法則からは、「無」と判断される。宇宙誕生の直後に、真空エネルギーの相転移が起こった。3次元空間的な感覚からは、不顕在だった真空エネルギーが顕在化した、と言い換えることができる。相転移によって解放された莫大な量のエネルギーが、空間を押し広げた。

解放されたエネルギーがもたらしたインフレーションによって、無からの誕生後10 -44 秒から10 -33 秒の間に、宇宙空間が直径数センチほどの大きさになった。
インフレーションとビッグバンの定義は、必ずしも一定しない。ここでは、誕生後10 -33 秒までをインフレーションとし、それ以降38万年までをビッグバンとする。

インフレーションのときの空間の膨張速度は、光速の10 22 倍だったと計算されている。アインシュタインの特殊相対性理論によると、光速を超えて飛行する物質もエネルギーも存在しない。しかし、空間の膨張速度は、空間内に存在する2点間の距離の離反速度なので、この猛烈な膨張速度は特殊相対性理論と矛盾しない(エッセイ41「外側から見た私たちの宇宙」)。

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bigbang

宇宙誕生直後に顕在化したエネルギーは、熱エネルギーに変化し、クオークやレプトンなどの基本的な量子を誕生させた。宇宙誕生から1秒も経たないうちに、クオークやレプトンが集合して陽子と中性子を形成した。

インフレーションの終了後に膨張速度が減速を始めた。ところが今から70億年前、すなわち宇宙誕生から約70億年後に、なぜか膨張速度が再び加速し始めた。 この加速は、あとで述べるエントロピーの法則の矛盾と直接に関係しているので、頭に入れておいていただきたい。 現在、宇宙の端に存在する天体が私たちから遠ざかる速度は、光速の約3倍だ。

膨張速度から計算される現在の宇宙の大きさは、半径465億光年になる。しかし、人間に観測が可能なのは、理論上は半径137億光年の範囲にとどまる。この距離のところに観測される宇宙は、137億年前の誕生直後の宇宙だ。もっと正確にいえば、誕生から38万年後の宇宙の姿を見ることになる。

38万年後までに水素原子が作られ、電子が原子に取り込まれた。光や電波などの電磁波が、空間に満ちあふれていた電子に衝突することがなくなり、直進するようになった。霧が晴れたように、空間が遠くまで見通せるようになった。これを宇宙の晴れ上がりという。晴れ上がり前の宇宙の姿を、光や電波を利用した観測機器では、観測することができない。

宇宙が晴れ上がるまでの38万年の間に、宇宙の半径は、465億光年ー137億光年=328億光年も、猛烈に膨張したことになる。

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半径や直径という言葉を使うと、日常的な感覚からは、地球が球形宇宙の中心にあるような錯覚を生んでしまう。ところが、この3次元空間宇宙の中の全ての場所が、3次元空間に住んでいる知的生命体にとっては、宇宙の中心になる。
3次元の構造物しか知覚できない、3次元空間の中に住んでいる知的生命体には、高次元的に曲がった宇宙の果てを認識することができない。私たちの宇宙の果ては、4次元空間から見れば認識できるが、4次元空間からどう見えるかのを、私たちには想像することができない。 この認識能力の限界については、 エッセイ18「無の向こうに広がる高次元世界」エッセイ41「外側から見た私たちの宇宙」に詳しく書いたので参照されたい。

エントロピーの法則の深刻な矛盾

古典的な実験をもとに確立されたエントロピーの法則を、宇宙的規模で正当化するために、専門家は苦労している。理論や仮説のいくつかは、素人にはとても分かりにくく、全体的に把握しようとすると混乱してしまう。専門家にも混乱があるように思われる。

宇宙誕生と同時に始まった、この宇宙におけるエントロピー増大の様相を、多くの専門家が同意している範囲内で、まずまとめたい。そのあとで、私が理解している矛盾点を明確にし、私なりの解答を示したい。

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「私たちの宇宙は無から誕生し、外部から完全に隔離された孤立系として存在している」、と仮定する。こう仮定しなければ、エントロピーの法則が破綻してしまうのだから、仕方がない。

すると疑問が湧いてくる(疑問1)。
孤立系である宇宙を膨張させるエネルギーは、誕生時に供給されたものだけになる。 最初の相転移で顕在化した、低エントロピーの莫大な量のエネルギーが、空間を極高温にした。空間は膨張することによって、エントロピーの大きな低温状態へ移行し続けている。宇宙は膨張速度を減少させながら、最終的には極低温の高エントロピー宇宙へと変貌する。
エントロピーの法則によると、遠い未来に宇宙の膨張は停止することになる。 宇宙は、エントロピーが極大になったこの時点で死んでしまう。

ところが、1998年に遠方の超新星を観測した結果、宇宙の膨張が加速していることが分かった。その後の研究でも、この加速が裏づけられた。 それよりも遠方にある超新星を観測した結果、インフレーション後に減速していた膨張が、約70億年前に加速に転じたことが分かった。今までのエントロピーの法則からは、減速を続けていた孤立系宇宙空間の膨張速度が、ある特定の時点から加速し始めることはあり得ない。

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エントロピーの法則の説明に、専門家がよく使う2つの例は、互いに矛盾しているように思われる(疑問2)。
エントロピーの増大を説明するために、水に落としたインクがしばしば引き合いに出される。インクは拡散現象によって薄まっていき、逆の方向の現象が起こることはない。インク分子が水の中に一様に分散したときに、エントロピーが最も大きくなる。熱力学のモデルである分子運動論によると、「インク分子が水を入れた容器内に一様に拡がった、高エントロピーの状態が最も自然である」、となる。
これに対して、「宇宙誕生時には、無から放出されたエネルギーなどの物理量の分布がほぼ均一だったので、エントロピーは最小だった」、と説明される。

これら2つの現象の一つひとつについて、専門家はいろいろな説明を加えている。だが、2つを同じ土俵上で体系的に説明しようとすると、矛盾に遭遇してしまう。インク分子が一様に広がった状態を高エントロピー状態といいながら、エネルギー分布が均一な状態を低エントロピー状態というところに、矛盾がある。

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宇宙誕生時にエントロピーが最小だったというために、重力を強引に持ち出す専門家がいる(疑問3)。
「重力は、全ての物体に対して引力として作用するために、一様性が高いほどエントロピーは小さくなる」、と説明される。
一様性の高い重力が低エントロピー状態を作るならば、重力が生まれる前の時点との関連で疑問が生じる。重力が生まれたのは宇宙誕生から10 -43 秒後だった。宇宙が孤立系ならば、重力が存在しない高エントロピーの状態が、重力が生まれたあとの低エントロピーの状態へ、どうやって移行したのだろうか?

身近なインクの実験においても、重力との関連でおかしいことがある。インク分子が一ヶ所に集まっていると、容器内の重力分布に偏りが生じる。勿論、この重力分布の偏りはとても小さいので、どのような器具を使っても測定することはできない。インク分子が一様に分散してしまえば、容器内の重力分布は一様になる。すなわち、容器内の孤立系において、重力を考慮すれば、高エントロピーから低エントロピーの状態へ、溶液が移行したことになってしまう。

混乱をもたらす熱的死の概念

遠い未来の宇宙の姿を、エントロピーの法則はどう説明するのだろうか?
「はるかな未来において、宇宙の全てのエネルギーが均等に分布する状態になる。ここでは、もはや新しい現象は起こらず、生命どころか星さえも存在しなくなる。この状態を熱平衡状態、すなわち熱的死という。熱的死にいたると、宇宙の温度は絶対零度に近くなる。宇宙のエントロピーはここで最大になる。現在の宇宙のエントロピーは極めて小さいので、熱的死にいたるまでにまだ10 40 年ほどを要する」

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熱的死のあとのシナリオについては、2つの可能性が考えられている。

  1. 宇宙の物質密度が臨界密度よりも大きい場合、熱的死の時点で、エントロピーの時間の矢が逆方向に働き始める。エントロピーは減少し始め、宇宙は収縮を開始する。最終的には、宇宙は再び高温・高密度の極小空間になる。これは宇宙が誕生したときと同じ状態だ。この過程をビッグクランチという。

  2. 宇宙の物質密度が、臨界密度に等しいかそれよりも小さい場合には、膨張は減速しても止まることはない。熱的死の状態が永遠に保たれることになる。陽子崩壊が起こり、原子の大部分を占める水素も消失する。宇宙には放射だけが残ることになる。

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熱的死という言葉はあいまいなので、理解に混乱が生じやすい。この言葉を、「全ての物質がばらばらになってしまうほどの高温の状態」、と解説する専門家がいる。熱が全ての物質に死をもたらすのだ。ところが、「熱的死にいたった宇宙は極低温になる」、とエントロピーの法則では説明される。私の推測だが、この言葉の語源は「熱が死んだ状態」、すなわち極寒を指しているのではないだろうか?

「誕生直後のインフレーションが始まる前の宇宙は、熱平衡の状態にあり、熱的死に似た状態だった」、という指摘がある。宇宙誕生時の空間は、熱力学的には宇宙終末時と同じだった、という説明は混乱をもたらす。「空間の急激な膨張がエントロピーの捨て場所を作ったので、宇宙のエントロピーは現在程度に小さくなった」、とこの説明は続く。これでは、高エントロピーから低エントロピーの状態への転移が、起こったことになってしまう。エントロピーの法則の最も基本的な原則に反する。

謎だらけの宇宙の最新像

ここで、地球から見える現在の宇宙の姿に触れたい。

daikibokozo

数百から数千の銀河が集まって、銀河群や銀河団を形成している。銀河群や銀河団がさらに集合して、超銀河団を形成している。超銀河団は宇宙空間に壁のように分布しており、この壁を銀河のグレートウォールあるいはフィラメントと呼ぶ。
1980年代になって、グレートウォールの間に、光を発する天体がほとんど存在しない、暗黒の空間領域が発見された。これをボイド(超空洞)と呼ぶ。ボイドの直径は1億光年を超える。

グレートウォールとボイドが組み合わされている、宇宙の大規模構造は、せっけんをあわ立てたときにできる、あわの集合体のように見える。あわの中の空洞部分がボイドで、あわの膜面がグレートウォールになる。この大規模構造は、重力の不安定性をもとにした、宇宙誕生時のエネルギーのゆらぎをもとに成長した、と説明される。

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energy

宇宙に存在するエネルギーの全体像の説明をしておこう。

重力を生み出すダークマターは、銀河を取り巻くハローに存在し、動いたり放射線を出したりすることはない。しかし、渦巻銀河の回転は、このダークマターの重力の影響下にある。また、ダークマターは銀河団をつなぎ止め、宇宙の大規模構造の形成に関与している。 ダークマターは、グレートウォールの部分に集中して存在している。ダークマターがなければ、大規模構造は形成されず、銀河はばらばらになって飛び散ってしまう。このように重要なダークマターだが、重力だけがその存在の証明になっている。量子としては実証されていない。
ダークマターの候補量子としてニュートリノがあげられた。しかし、量が余りにも少ないために否定された。現在では、ニュートラリーノやアクシオンという幽霊量子があげられている。これらの量子は仮想の量子で、存在は確認されていない。

1998年に、上述したように、宇宙の膨張速度が加速していることを示す観測結果が、得られた。この観測結果は予想外で、 引力(重力エネルギー)を上まわる、膨張を加速させる斥力(反重力エネルギー)の存在が示唆された。しかも反重力エネルギーは、なぜか70億年前から増加している。
このエネルギーはダークエネルギーと命名された。同じ「ダーク」でもダークマターとは全く関係がない。 ダークエネルギーは、通常の重力に反発するエネルギーで、空間へ負の圧力を与える。通常の原子やダークマターとは異なり、ダークエネルギーが銀河の周辺に集積することはない。

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上図において、宇宙に存在する全エネルギー量に対する、各エネルギー量が占める割合を、面積で示している。私たちが知っている原子や量子などが占める割合は、全エネルギー量のたった4%に過ぎない。この4%で、目に見える星や銀河が作られている。これに対して、目に見えないダークマターが22%、ダークエネルギーが74%を占める(2003年から始まったWMAP衛星の観測結果)。
ダークマターもダークエネルギーも、その実体はまだ証明されていない。それらがなければこの宇宙は存在できない、という理論的な要求によって仮定されている、仮想のエネルギーだ。
ダークマターは宇宙のエネルギーの22%を占める。この量は、宇宙の膨張を止めるために必要な量の30%ほどにしかならない、と現在では考えられている。宇宙は、上のシナリオ2に似た状態にあり、膨張は永遠に続くと考えられる。

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このような今までに確認された観測結果を使って、ボイドとグレートウォールから成る、宇宙の大規模構造の形成過程を説明できる。

宇宙を構成する究極の量子の向こう側に高次元時空

エントロピーの法則は、古典的な熱力学の分野に属する法則だ。この法則が当てはまる現象は、古典的な実験器具で測定できる、物理化学の範囲に収まるものだけになる。既に何度も述べたように、この法則を宇宙全体に適用できる絶対的な真理にするためには、無から誕生した宇宙に、外に完全に閉じた孤立系という前提を与えなければならない。実験室の閉じた実験容器と同じ条件だ。ところが、この前提がいろいろな矛盾を生み出すことを、ここまでに述べた。

量子力学の研究が進んで、私たちの宇宙は、人間には観測も知覚も認識もできない、高次元時空の中に存在している、と考えなければならなくなった。もっと正確にいえば、私たちの宇宙は、高次元時空を構成する要素の一部になっている(「無の向こうに広がる高次元世界」「時空を超える量子ネットワーク」「宇宙を構築する究極の量子」「ビッグバンから始まった生命の進化」)。
この高次元時空に、目に見える宇宙の物理学や化学の法則を適用することは、できない。逆にいえば、高次元時空を想定することによって、エントロピーの法則の多くの矛盾が解決される。

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私たちが認識できる宇宙の構造物を構築している原子は、極微の量子から成る。慣例上、「量子」よりも「素粒子」という言葉が使われることが多いが、厳密には、波と粒子の両方の特性を有する、振動するエネルギー場であることを意味する、「量子」のほうが適切な用語になる。量子の存在は、この宇宙の外側にある高次元時空によって規定されている。この極微の存在は、目に見えるマクロの物体とは異なり、主に確率論で議論される。

ここで、「場の量子論」という聞きなれない言葉を使って、量子の説明をしておきたい。量子論では、宇宙空間と同じ意味で「場」という言葉を使う。場は常に振動していて、その振動を「真空ゆらぎ」あるいは「量子ゆらぎ」と呼ぶ。この振動のエネルギー準位は低く、独立した量子としては観測されない。
極微の場の振動が大きくなると、量子として観測される。この振動部分は、周囲の真空場よりも高エネルギーの状態にある。3次元空間の場に、どこからエネルギーが加えられるのだろうか?エネルギーの供給源を高次元時空にすれば、この疑問は氷解するが、宇宙を孤立系とすると、無理な仮説の導入が必要になる。

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エントロピーの法則の矛盾との関連で、上の説明の補完になるようなことを書いておこう。3次元の球体の一部である2次元の表面は、球体からの孤立系なのだろうか?それとも球体への開放系になるのだろか?「系」という言葉は、外部から独立した存在を意味する。球の表面は、球体を構成するための必要条件になるので、独立した系と考えるのは不適切だ。2次元の表面は球体の一部であり、球体に対する開放系と考えてよい。
このモデルの次元を一つずつ上げれば、4次元空間内に存在する3次元空間の説明になる。4次元空間に開放されている私たちの宇宙を、3次元の孤立系と仮定すれば、エントロピーの法則が破たんするのは当然だ。

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brain

超ひも理論(エッセイ18「無の向こうに広がる高次元世界」を参照)によると、電磁気力、ウイークボソン、グルオン、クオーク、電子、ニュートリノなどの量子は、両端が開いた極微のひもということになる。これらのひもは、開いた両端で、私たちの宇宙である3次元ブレーン(高次元空間宇宙に浮かんでいるメンブレーン=膜)に付着している。ブレーンは、他にも数多く存在すると思われる。
重力の相互作用を伝達する役目を担っている重力子は、まだ存在が確認されていない仮想の量子だ。この重力子は、両端が閉じた輪ゴムのようになっているので、特定のブレーンに付着することがない。私たちの宇宙を離れて、高次元時空の中を自由に動くことができる。

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particle

観測可能な全ての原子と量子を取り除いた真空の空間は、今までの物理学では無の空間ということになっていた。ところが、量子力学は「無」の意味を変えてしまう。
真空中に莫大な数の粒子と反粒子のペアが湧き出ている。両量子は衝突して瞬間的に消えている。これらを対生成と対消滅と呼ぶ。粒子と反粒子が、私たちの宇宙に存在する時間は極端に短いので、観測ができない。 10 -22 秒程度だ。そのような極微の量子が、私たちの体内を含む、この宇宙のいたる所に湧き出ている。それを想像するには、少しばかりの想像力の飛躍が必要になる。

場の量子論によると、この湧き出る粒子と反粒子も、極微空間の高エネルギー振動部分になる。高次元時空から、エネルギーが常時供給されていることを示唆する、現象の一つと考えることが可能だ。

この仮想のバーチャル粒子は、超ひも理論の構築に必要な量子だ。超ひも理論の背景になる場の量子論の計算において、バーチャル粒子の存在が前提になる。バーチャル粒子の実体が、電子と陽電子、クオークと反クオークなどの対の量子と関連する可能性が、大きい。対消滅を生き延びた電子やクオークが、宇宙に満ちている。短命のバーチャル粒子と生き延びた長命の量子が、空間に共存している。

宇宙構築に関する和戸川の仮説

超ひも理論を使えば、この宇宙の存在のあり方の全体像が、明確になる。ここまでに述べたエントロピーの法則における矛盾が、氷解する。 超ひも理論は、まだ実証されていない仮説だが、宇宙のあり方を無理なく説明できることから、この理論の信頼性は高いと思われる。「無理や不自然さがなければ、その理論は真理により近くなる」、とアインシュタインが述べている。

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無の空間に次々と湧き出るバーチャル粒子は、空間を膨張させるもとになる。すなわち、空間を膨張させるエネルギーになる。 宇宙誕生最初期に放出されたエネルギーと同じ作用を、空間に及ぼす。
宇宙空間に斥力を生み出す仮想のエネルギーとして、ダークエネルギーが考えられている。バーチャル粒子がダークエネルギーかもしれない。ところが、バーチャル粒子の量は、推定されているダークエネルギーの量の60~120桁も多いという。バーチャル粒子がダークエネルギーならば、宇宙の絶対的な膨張速度が極端に高まり、私たちは、自分の指先を見ることができなくなる。指先が存在する空間が、アッという間にはるか彼方へ飛び去ってしまうからだ。

ここで重力子を思い起こそう。次元の壁を軽々と乗り越える重力子が、私たちの宇宙へ瞬間的に出現している、と超ひも理論が述べている。 空間に斥力を生み出す、反重力エネルギーのように振る舞うバーチャル粒子。重力子が、そのようなバーチャル粒子の作用を打ち消す。宇宙の膨張速度を、現在程度に遅くすることが可能になる。この重力子がダークマターならば、大きな謎の一つが解明される。
宇宙の膨張速度が減速と加速を繰り返すことから、宇宙に出現する、バーチャル粒子と重力子の量に変動がある、と考えられる。出現量のバラツキを左右するのは、高次元時空における、不確定性原理にもとづいたエネルギーのゆらぎではないだろうか?宇宙誕生時に存在したエネルギーのゆらぎが、量子を誕生させるもとになったことを考えれば、これは無理のない推測のように思われる。

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エッセイ18「無の向こうに広がる高次元世界」に書いたように、広く信じられている宇宙論によると、宇宙誕生時に空間へ放出されたエネルギーによって、粒子と反粒子が対生成された。ほとんどの粒子と反粒子は、接触して瞬間的に対消滅した。しかし、不確定性原理によって、粒子の数が反粒子よりもやや勝っていたので、宇宙には反粒子が存在しなくなった。粒子のみが残った。この粒子からクオークやレプトンが形成され、現在宇宙に存在する原子が誕生した。

これと同じことが、現在の宇宙空間でも起こっているという仮定の上で、想像をたくましくしたい。
宇宙誕生時と同じように、不確定性原理によって、バーチャル粒子の反粒子よりも粒子の数のほうが、やや勝っているかもしれない。消えずに残った粒子が、新たな量子になるならば、今でも宇宙空間に量子が誕生していることになる。

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高次元時空から飛来する、ダークマターである重力子が、不確定性原理によって宇宙空間に不均一に出現する、と仮定する。すると、重力子が高密度に出現する局所空間が網の目状になり、グレートウォールが形成される。宇宙空間に湧き出るバーチャル粒子から形成された原子が、グレートウォールに引き寄せられ、最終的には無数の銀河を誕生させる。
湧き出ては対消滅するバーチャル粒子が、ボイドの膨張を助け、対消滅せずに残った粒子から形成された原子が、重力子の作用によってグレートウォールに集まる。こう考えれば、宇宙の全体像が明瞭に浮き上がってくる。

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もしも、ダークエネルギーが作られたのが、宇宙誕生時だけだったならば、空間の膨張につれてダークエネルギーの空間密度が下がる。しかし、現実には、ダークエネルギーの密度は空間が広がっても小さくならない。70億年前から膨張が加速していることから、ダークエネルギーの密度が、この時点から高まっていると思われる。このことは、広がった空間に、どこかからバーチャルエネルギーが供給されていることを示唆し、上の仮説を支持する。

ダークエネルギーが、宇宙に存在する全エネルギーの74%程度を占め、ダークマターと観測可能な星などが、残りの22%と4%を占める。この比率を頭の中に入れて、宇宙の大規模構造のあわを解析することが必要になる。ボイドとあわの膜の部分の比率が、この程度の割合になるかもしれない。

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量子論が描く宇宙の誕生について、想像をもう少しふくらませたい。すると、驚くような可能性を提示できる。
宇宙は無から誕生した。誕生時の宇宙は量子よりも小さかったので、そこでは物理法則が破たんしていた。すると、4次元以上の宇宙空間に、3次元の極微宇宙が数限りなく誕生していることを、想定してもいい。

私たちの宇宙空間で、粒子と反粒子が対生成し対消滅している。3次元的な感覚からは、無から湧き出る極微の宇宙にも、粒子と反粒子と同じような宇宙と反宇宙がある、と考えることに特に無理はない。宇宙の対生成と対消滅が継続する。不確定性原理によって、反宇宙よりも宇宙の数のほうがやや勝っていれば、消滅せずに残る宇宙がある。そのうちの一つが私たちの宇宙になった。

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以上の仮説は、まだ実証されていない超ひも理論の上に、組み立てたものだ。空想の領域に属するアイディア。しかし、最先端の量子論においては、「実験的に誤りが証明されていない仮説には意味がある」、と考えたほうがいい。さらに、上記のアインシュタインの言葉を思い出していただきたい。
ここまでに書いた仮説を、以下でもう少し突き詰めたい。

ビッグバン後の宇宙で継続するスモールバン

「スモールバン」という言葉を新しく作りたい。バーチャル粒子が誕生する現象を、宇宙誕生のビッグバンに対して、スモールバンと呼ぶことにする。

場の量子論によると、「場は全ての次元の空間に広く行き渡っている」、と考えられる。すると、ビッグバンとスモールバンが同列の現象になってくる。空間的なスケールが違い過ぎるので、同列とはいえない、という反論があってもおかしくはない。しかし、場の量子論を考慮すると、次のような結論を出さざるを得ない。
4次元以上の空間において、場の一部に莫大な量のエネルギーが加えられると、3次元の場に(他の次元の場も含む)、量子よりも小さい極微の3次元空間宇宙が誕生する。極度に圧縮されたエネルギーが斥力になって、その宇宙は急速に膨張する。加えられるエネルギー量が少なければ、3次元の場に(他の次元の場も含む)バーチャル粒子が誕生し、エネルギーが低準位であるために、バーチャル粒子が膨張することはない。

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comparison

以上のことを頭に入れて、上の表を見てみよう。スモールバンの研究が進めば、ビッグバンと同じ現象が見つかるかもしれない。

宇宙誕生最初期において、無から湧き出たエネルギーから、粒子と反粒子が対生成し対消滅した。対消滅をまぬがれた余剰の粒子から、クオークやレプトンなどの基本的な量子が作られた。ここまでにかかった時間は、宇宙誕生後10 -10 秒だった。
ビッグバンと同じように、10 -33 秒程度の時間で、湧き出たエネルギーをもとにして、バーチャル粒子が、3次元空間の存在になる可能性がある。 スモールバンでは、10 -22 秒ほどで、バーチャル粒子の対生成と対消滅が終了する。もしも対消滅をまぬがれた余剰の粒子があれば、10 -10 秒後にはクオークやレプトンが誕生することになる。

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新しい量子論は、以上のように、3次元的な意味における、極大と極小の違いを完全に失わせる。これは、誕生したばかりの宇宙が極微だったことが、理論的に証明されてから、当然の帰結になる概念だった。即ち、無理がなく自然な結論なのだ。

和戸川の仮説が否定する宇宙の死

エントロピーの法則の問題点をまとめておく。超ひも理論などの量子論を適用すれば、これらの疑問が容易に解決されることを、ここまでに述べた。

  1. インクが水に完全に溶けた状態で、エントロピーが最大になる。そこでは、インクの分子が水の中に均一に分散している。宇宙誕生時にエネルギーしか存在しなかった空間は、それ以後の星や星雲が散在している宇宙空間に比べると、極めて均一な状態になっていた。この宇宙誕生時にエントロピーは最小だった、とエントロピーの法則が述べている。インク溶液と宇宙にエントロピーの法則を適用し比較すると、説明に矛盾が生じてしまう。エネルギーが均一に分散している状態を、一方ではエントロピー極大といい、他方ではエントロピー極小という。

  2. 宇宙誕生の直後から空間が膨張したので、エントロピーの捨て場所が拡大し、宇宙のエントロピーは現在程度に小さくなった、とエントロピーの法則が述べている。すると、空間が小さかった誕生から間もない時期には、エントロピーがとても大きかったことになってしまう。宇宙誕生直後にエントロピーが極小だった、とするエントロピーの法則に矛盾が生じてしまう。

  3. インフレーションが終わると、宇宙の膨張速度が減速した。ところが、約70億年前から膨張速度が再び加速し始めた。宇宙が孤立系ならば、誕生時に空間へ放出されたエネルギーのみで宇宙は膨張を続ける。膨張速度が、減速から加速に転じることはあり得ない。

  4. 宇宙空間をエントロピーの捨て場所とする説を、受け入れるとする。すると、宇宙の膨張が加速している現在、エントロピーの捨て場所が急速に拡大していることになる。宇宙空間のいたる所でエントロピーが減少するので、宇宙に死が訪れることがなくなる。

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エントロピーの法則は、私たちの宇宙が、次元の闇から隔離された孤立系、という前提に立っている。ところが、ビッグバン理論を受け入れると、宇宙を誕生させたエネルギーは、この宇宙の外から供給された、と考えざるを得ない。バーチャル粒子の対生成が正しいならば、エネルギーが、宇宙の外から今も常時供給されていることになる。宇宙誕生から今まで、私たちの宇宙は孤立系ではなかった、というのが自然な結論になる。

私たちの宇宙の3次元空間は、より高い次元空間の一部なので、私たちの宇宙の存在形態は、高次元時空によって規定されている。すなわち、高次元時空に開放されている。
このような宇宙を古典的な熱力学では説明できない。 宇宙を孤立系と想定する熱力学は、観測も認識もできない時空から湧き出る、観測できないエネルギーの存在を否定する。
高次元時空の一部であるこの宇宙は、人間には認識が不可能な高次元時空に開かれている。バーチャル粒子として、あるいは重力子として、私たちの宇宙へ、高次元時空からエネルギーが供給されている。ここでは、古典的な熱力学によって確立されたエントロピーの法則は、破たんする。

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宇宙誕生直後に、真空の相転移によって、莫大な量の粒子と反粒子が、一瞬にして誕生したと考えられる。 バーチャル粒子とバーチャル反粒子が、今も間断なく宇宙空間に湧き出ているならば、宇宙誕生時に実体化した相が今も継続し、今後も永遠に継続すると考えたほうがいい。
私の考察が正しければ、エントロピーの法則が予想する、宇宙の死が訪れる可能性が小さくなる。宇宙が終焉することはない。宇宙の外側から供給されるエネルギーのおかげで、未来の宇宙は、今よりも多くの天体が存在する、にぎやかな宇宙になる可能性さえある。宇宙膨張の再加速、すなわち湧き出るエネルギーの急速な増加が、その可能性を支持する。


追記:「2ちゃんねる」で話題になった和戸川の宇宙論

2014年6月21日

(以下の追記は、「作者の思い」No.160から転載したものです。「作者の思い」の書き込みは、時間と共に下のほうへ消えていくので、ここに残すことにしました)

私の宇宙論( エッセイ30「エントロピーの法則が予想する宇宙の死」 エッセイ31「次元の闇から湧き出る宇宙 」 )に関して、3月に「2ちゃんねる」で激しい議論が戦わされていたことを、知った。少なくとも2人の論客が参戦していた。物理学が専門と思われるAさんの立場は、「和戸川が書いた俺様理論は妄想に過ぎない。間違いだらけだ。そもそも素人が、こんなものを書くべきではない」、というものだった。宇宙論をよく勉強していると思われるBさんは、「おもしろい。こんな発想があってもいい」と考えていて、私のエッセイ評論を支持する持論を展開していた。

熱い議論を戦わせたお2人に、感謝をしたい。エッセイ30、31へのアクセスはコンスタントに多く、私の宇宙論に反対にしろ賛成にしろ、Aさん、Bさん以外にも、多くの方に興味を持っていただいていることは、間違いがない。物書きには努力が必要なので、書き物が注目されることは、とてもありがたい。

専門家からAさんのような反応があることは、覚悟の上だった。私のどのエッセイ評論においても、既知の知識をまとめた教科書のようなものを書く気は、私には全くない。教科書的な知識を必要な皆さんは、教科書を読んでいただきたい。既知の知識をおりまぜながら、どこまで想像の翼を広げられるのか、私の興味はそこにある。
皮肉な言い方をすれば、既知の知識に固執する専門家に批判されれば批判されるほど、私の創作は成功したことになる。

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アインシュタインの大学時代の物理学の成績は悪く、卒業後は特許庁に勤めた。 あのアインシュタインが「物理学には素人」だった。 素人が相対性理論を作り上げたからといって、Aさんは非難をしないと思う。
「クローン選択説」という理論で、免疫学分野で世界で初めてノーベル賞を受賞したバーネット( エッセイ28「天才を育てる楽しみ」 )が、晩年にこう言っていた。
「人間には全てを知ることはできない。神しか知らない広大な領域が広がっている」

物理学の分野だけに限っても、ニュートン力学、特殊相対性理論、一般相対性理論、量子論などと、それまで知られていた存在の概念を大きく変えなければならない、理論的発展が今までに数多くあった。
真の科学者は、「人間が今までに知ったことなどは、全く取るに足りない」ということを、認める。全てを知っていると思っている専門家がいるとすれば、自分が知らないことに対する、自分の無知をさらけ出していることになる。

Aさんには厳しい言葉になった。ある分野の専門家である私から、Aさんへの素直な直言と理解していただきたい。

<和戸川 純>

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