犬の心、人の心(第3部)
Essay 39

好き嫌いが明確な犬の交友

和戸川の関連書籍「人間として生きた犬の心
2013年8月11日(修正2014年1月13日)
和戸川 純
相手と状況によって変わる態度

1才の中頃から、ラッキーの交友関係に根本的な変化が生じた。小さい頃は、どの犬にも強い興味を持って近づき、誰彼かまわずにじゃれようとした。大きくなるにつれて、相手をよく見るようになった。相手によっては完全に無視してしまう。以前じゃれあった友だちでも、無視することがある。小さい頃と全く変わらずに、よく遊ぶ相手もいる。

husky play
写真:
昭和記念公園ドッグランで、シベリアンハスキーと遊ぶ。大型犬ならば手加減をする必要がないので、思いきり遊べる。この写真から、ラッキーのダイナミックな動きがよく分かる。遊び好きな大型犬とは友情が長く続く。けれども、近所には相手になる大型犬が余りいない。
(2年8ヶ月令)

無視するだけならいいのだが、「ガウ」の威嚇行動をやることがある。人間のように手を使えない犬は、遊びでも威嚇でも時には口を使う。遊びならば、たとえかんだとしても相手を傷つけない。けれども、犬の行動をよく理解できない新米飼い主は、近づいてきた犬が「ガウ」と口を開けただけで、おびえてしまう。
遭遇する犬どうしの相性の判断は、飼い主には難しい。好き嫌いの基準が分からない。その時の状況と心理状態によって、「ガウ」をやったりやらなかったりするので、人間飼い主はさらに混乱してしまう。面と向かって「ガウ」とやったならば嫌いな相手、じゃれたならば好きな相手と分かるが、これでは結果判断になってしまう。

相手の好き嫌いを、オス、メスで決めているわけではない。ラッキーは、ラッキーの気持ちを無視して、一方的かつしつように飛びついてくるメスに、「ガウ(うるさい)」とやることがある。理由はなんであれ、「ガウ」をやると私に怒られることが分かっているので、やったあとで頭を下げ、上目づかいに私を見る。

トイプードルは人間にはかわいく見えるが、ラッキーには必ずしもそうではないらしい。「ワンワン、キャンキャン」と、神経質でうるさいトイがどこにでもいる。そんなうるさいトイに、突然に「ガウ」をやることがあるので要注意だ。
コッカースパニエルのレオンは怖がりで、ラッキーを遠くから見ただけで逃げようとする。この弱虫にラッキーが時々「ガウ」とやる。コッカーやシェルティーのような長毛犬は、毛が汚れると手入れが大変。飼い主には、他の犬とじゃれあうことを好まない傾向がある。長毛犬が、他の犬とじゃれあっている場面を目撃することは、ほとんどない。そんな遊びなれていない犬たちを、ラッキーは嫌う傾向がある。

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飼い主の私にとっては、住んでいるマンション周辺が要注意区域になる。 2才を過ぎた頃から、ラッキーは大人のオスの本能に目覚めたようだ。マンション周辺を自分のテリトリーと考えるようになった。このテリトリーへ入り込んで来る犬を、警告のために「ガウ」とやる。
イタリアングレイハウンドのギンが、同じマンションに住んでいる。ボールを追うギンにしか興味がないラッキー。ボールを追いかけていないギンをマンションの周辺で見かけても、無視してしまう。ギンだけが、ラッキーを見ると、いつでもどこでも一方的に「ガウ」の態勢に入ってしまう。

gin
写真:
散歩中に遭遇したイタリアングレイハウンドのギン。いつものように闘志満々でラッキーに向かう。ラッキーは落ち着いている。
(1年9ヶ月令)

ラッキーが、マンションの前庭であたりを睥睨していたときに、ギンの飼い主の女性とワンコ仲間が、散歩から戻って来た。私とラッキーの近くでおしゃべりを開始。
ラッキーはいつものようにギンを無視。ギンの飼い主がおしゃべりから外れて、ラッキーにご機嫌うかがいをした。それを見たギンが、チャンス到来とばかりに、ラッキーの後へさっと回り込んだ。ラッキーの尻をかんだ。ラッキーの怒りが凄まじかった。いつもラッキーに歯をむき出して威嚇するギンが、このときは尻尾を丸めて逃走した。
小さいときには「やられれば逃げる」だったが、現在は「やられればやり返す」。これはこれで危険だ。

フレンチブルドックのクリップは、ラッキーが小さかった頃は、会うたびにラッキーの肛門をなめた(エッセイ23)。ラッキーはうれしそうには見えなかったが、クリップの執拗さに負けて肛門なめを許していた。
大人になってラッキーの態度が変わった。なめようとするクリップに、「ガウ」の拒否反応をするのだ。クリップは怖がりながらも、隙を見ては肛門なめをやろうとする。けれども、背中の毛を逆立てたラッキーが、クリップを受け入れることがなくなった。

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人間とのつきあいの中で、ラッキーがいやがることがある。ラッキーが驚くと大きく跳んで後へ下がるので、シニアの女性がおもしろがってからかう。突然に「ワッ」と叫んでラッキーを驚かせる。笑いながら大げさな身振りで近づく。ラッキーはどんどん後ずさりをする。
おデブなダックスフントを2頭連れた夫婦に、時々出会う。 男性が、ラッキーに好意を示すために、笑いながら手を大きく広げ、大げさな身振りで近づく。ラッキーは跳んで下がってしまう。たった一度だけだったが、「ワン、ワン」と高い声で吠えたことまであった。このように吠えたのは、この男性に対してだけだった。男性は「私が嫌いなのだ」と言った。犬を飼っているが、自分の動きに対する他の犬の反応・行動までは、分からないようだ。

ラッキーを意図的に驚かせようと、走って来て、ラッキーの手前で急停止する男の子がいる。ラッキーは勿論こんな子を嫌う。そんないじめをして、かまれても知らないぞ!

昔からの親友との今のつきあい

バーニーズマウンテンのピースの体重が、30数キロから40数キロになった。重いからだを動かすのがおっくうで、ラッキーが「遊ぼうよ」と猛烈な誘い攻撃をやっても、余り反応しなくなった。ただし口うるさい女性らしく、「ウウウー、ウウウー」と大きなうなり声を連発する。知らない人が見ると、じゃれあいではなくけんかをしていると思うに違いない。

peace
写真:
最初のベストフレンド・ピース。ピースとは猛烈にからまりあって遊んだ。大型犬に果敢に挑戦したラッキー。この友だちのおかげで、大型犬を大好きになったのかもしれない。
(7ヶ月令)

ピースはラッキーと同じ年だ。この調子で年を取っていくと、からだが不自由になったときの扱いが大変になる。そんなことは飼い主には自明の理だが、溺愛しきっているためにダイエットを実行できないのだ。

この飼い主の娘が、フレンチブルドックのマメタロウを飼っている。ラッキーよりも1才半年下。娘が旅行に出ると、ピースの飼い主がマメタロウを預かる。猛烈に動き回るマメはピースの手に負えない。
このマメが、ラッキーを絶好の遊び相手と判断した。公園でラッキーに出会うと、前後もかえりみずにラッキーに猛烈なアタック。一緒に走ればラッキーのほうが速いが、まとわりついたときの動作が余りにも俊敏なので、ラッキーはいささか手こずる。けれどもラッキーはマメをいやがらない。ラッキーと激しく遊んだマメタロウは疲れてしまい、家へ帰るとおとなしくなるので、マメだけではなくピースの飼い主もラッキー大歓迎だ。

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コーギーのチャチャが、小さいときから大の仲良しだったためか、他のコーギーがラッキーに「ガウ」攻撃をやっても、ラッキーは気にしない。コーギーには甘い。

チャチャとは今でも仲がいい。まるで相思相愛だ。ただしチャチャはオスだ。ラッキーを独り占めにしたいチャチャ。ラッキーが他の犬に注意を向けると、その犬を威嚇する。ラッキーに寄り添って離れようとしない。大きな目でラッキーをいとおしそうに眺める。ワンコ仲間がおかしがる。

chacha
写真:
ラッキーをうっとりとながめるチャチャ。からまりあったり走ったり、いろいろ複雑な遊びをする。チャチャのおかげか、コーギーを好きになった。
(1年6ヶ月令)

2頭はよくじゃれあう。チャチャは仰向けになってラッキーを誘う。ラッキーはチャチャの首へ甘がみをやる。チャチャはそうされるのがとてもうれしい。それでも、ラッキーの口に力が入ると突然に怒る。目をぎらつかせ、ジャンプし、ラッキーに猛然と襲いかかる。ラッキーは逃げる。
チャチャはラッキー以外の犬には弱虫で、ガンをつけられるとトイプードルからも逃げる。ところが、兄貴分のラッキーがいると気が強くなる。ラッキーの後からだが、ちゃんとトイプードルに近づくことができる。

チャチャはラッキーに甘がみを要求するが、要求されなくても、ラッキーが甘がみをする犬が他にいる。気心が知れあっている長毛の大型犬だ。ピースとボーダーコリーのラグ。それ以外の犬を、遊んでいる最中に甘がみすることはない。特に短毛犬は決してかまない。かむ場所は首。首の皮膚は厚い上に、からだの中でも特に長い毛が密集して生えている。ここを甘がみしても相手を傷つけることはない。かんでもいい相手のかんでもいいところを、ちゃんと知っている。
ラッキーもこれらの犬に甘がみされる。大型犬は唾液を大量に出すので、首から頭にかけて、ピースやラグの唾液でびしょぬれになる。

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犬は遊び相手から学習する。兄貴分のラッキーがチャチャに教えたことがある。ラッキーは菜の花の花を食べるのが大好きで、春には菜の花の香りに引かれ、散歩道を変えてしまうくらいだ。ラッキーのこの奇妙な行為を眼前に見たチャチャが、菜の花を食べるようになった。

チャチャは、飼い主の女性が連れて来たときと、彼女の夫が連れて来たときとで、ラッキーに対する態度を変えてしまう。女性と一緒のときのほうがはるかに友好的だ。夫は、チャチャをラッキーと遊ばせるよりも、海まで散歩させることを優先する。チャチャはそのような飼い主の気持ちを敏感に察知する。急がせる飼い主に従って遊びを切り上げてしまう。

ラッキーは集団性動物らしい行動を取る。散歩の途中で出会った犬が、同じ方向へ歩き始めると、その犬がちゃんと後に付いて来るかどうかを、後を振り向いて頻繁に確認する。いかにもリーダー的だ。こういう行動ををチャチャは取らない。他の犬はどうでもいい。自分だけでさっさと歩く。 ラッキー以外の犬には、こういう個人主義に徹した犬が多いように見える。集団性動物の本能が、バセンジーのような古い犬種により強く残されている、と理解することができる。

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2才の秋深いある日のことだった。家から2キロのところにあるビーチへ出かけた。ビーチにカラスが何羽かいた。ラッキーをリードからはずすと、それまでラッキーを無視していたカラスが、ラッキーに関心を示した。ラッキーが走って私たち夫婦から離れた。数羽のカラスがラッキーの周辺へ飛んで来て、ビーチに降りた。ラッキーは、最初はカラスを気にして追いかけた。けれどもカラスの逃げ足は速い。つかまえることは不可能だ。ラッキーはカラスへの興味を失ってしまった。

そのうちに、周辺に広がって飛んでいた50羽ほどのカラスが、次々とラッキーに向かって飛んで来た。ビーチに舞い降りたカラスの中で、ラッキーに最も近いカラスは、1メートルほどしか離れていなかった。カラス軍団がラッキーを取り囲み、全てのカラスが中心のラッキーに顔を向けた。
私たちから見ると、「猛禽に包囲されたラッキーが危ない」となるが、ラッキーはビーチに転がっている何かに注意を向けたままだった。無視されたカラス軍団は、失望したのではないだろうか?私は、猛禽からの攻撃よりも、ラッキーが変な物を食べるのを恐れて、ラッキーへ向かって走った。カラスがいっせいに逃げた。ラッキーは腐った魚を食べようとしていた。それをを止めることができた。

チャチャもビーチで同じ経験をした。チャチャはラッキーよりも弱虫だ。飛んで来るカラス軍団をとても怖がり、飼い主を置き去りにして逃げてしまった、と飼い主が話した。

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ガールフレンドのフィッツとの遊び方が変化した。ラッキーが小さい頃は、フィッツがしばしば甘がみをしたり、威嚇のために吠えたりした。自分をラッキーと同等か、それよりも上のランクに置いていた。
ところが、 オスとしてボスの風格を備えるようなったラッキーに、フィッツがこびを売るようになった。近づくときには尾を振り、上目づかいにラッキーを見上げる。甘がみどころか、遠慮がちに女っぽくじゃれる。優位にあるラッキーは、フィッツと遊ぶのも無視するのも、自分が決めるという態度を取るようになった。メス(女性)は、状況の変化を敏感に察知し、新環境に順応する高い能力を持っている。

fits
写真:
気の強い女フィッツ。同じメスでも、気性の激しいメスがラッキーの好みだ。フィッツの「女心」は複雑だ。ラッキーはいつもフィッツに好意を示すが、フィッツはラッキーに身をすり寄せるときもあれば、「ガウッ」とラッキーを威嚇するときもある。ラッキーと私は「ガウッ」を気にしないが、フィッツの飼い主の女性が動揺する。
(1年6ヶ月令)

ラッキーは、とても生意気だった女の子時代のフィッツのほうが、好みに合っていたようだ。今では、走るときの共同作業がうまくいかない。フィッツが走っているときに、ラッキーがフィッツを無視してしまう。ラッキーが走っているときに、フィッツが立ち止まっている。気持ちがすれ違う。ただし、フィッツがラッキーを誘うことのほうが多い。

かまれて4針縫合

ラッキーが、じゃれあいの甘がみ以上に強くかまれたことが、3~4回あった。青葉の森公園で遊んでいたときに、イタリアングレーハウンドのペックに耳をかまれた。ラッキーの大きな耳には毛が少ないので、傷が深くなってしまった。血がかなり出た。耳は薄い上に血管がたくさん走っている。傷には要注意だ。耳はチャチャにもかまれたが、傷は小さかった。

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2年8ヶ月令のときに、近くの公園で柴のメス犬フウカに左わき腹をかまれた。
フウカは、他の犬が近づくと「ガウ、ガウ」と激しく威嚇する。けれども、散歩の途中でしばしば出会うフウカを、ラッキーは全く怖がらない。フウカの「ガウ」を単なる挨拶と心得ていて、周囲を走りながらフウカを遊びに誘ったりする。

その日も2頭はいつものように行動した。ところが、ラッキーが突然に歯をむき出して、激しい怒りの形相を見せた。その意味が分からないままに、帰宅の途についた。家に着いてから驚いた。左わき腹に穴が開いていた。フウカの一撃必殺を受けたのだ。毛が短く単毛のラッキーの皮膚は傷つきやすい。フウカの犬歯が皮膚の下へ深く食い込んだが、幸いにも太い血管は傷つかなかった。出血はそれほど多くなかった。夕方の散歩中にかまれたので、その日はペットクリニックへ行かず、抗生物質のクリームを傷に塗り込んだだけだった。

翌日、クリニックへ連れて行った。傷が深かったので、獣医はただちに手術することを決めた。手術をおとなしく受け入れそうならば局所麻酔で済むので、その日の夕方にできるが、そうでなければ全身麻酔になり、1泊しなければならなかった。
ラッキーは前処置をおとなしく受け入れたので、その日のうちに全てが終了した。傷口を洗浄するために周囲の皮膚を広く切開し、4針縫うことになった。ラッキーがおとなしかったことを、獣医がとても称賛した。ラッキーは周囲の状況をよく観察・判断してから、自分の行動を決定する。獣医が驚くのも無理がなかった。

何か問題が起こっても、解決する途中で小さなうれしいことを経験し、心配や苦労が昇華されることが、人生にはよくある。特に愛するものが関与している場合に、小さな喜びが大きくなる。獣医にほめられたことが、そんな小さな喜びになった。

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この手術の1ヶ月前にペットの医療保険に入っていた。まさに「ラッキー」だった。3万5000円の手術代の自己負担は、2割で済んだ。フウカの飼い主には請求しなかった。遊んでいるときに怪我をするのは仕方がない。フウカの飼い主は申しわけながったが、「これは名誉の負傷です」と私は応えた。

こんなことがあっても、ラッキーにはトラウマが残らなかったばかりか、フウカに対する態度に全く変化がない。心理的にとても強い大人に成長した。飼い主である私も名誉の負傷としか考えなかったので、犬と飼い主の心理が一体化していることになる。

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写真:
かまれたあと。バセンジーの毛は短く、毛が伸びる速さが遅いので、名誉の負傷のあとが、8ヵ月後でもまだ確認できる。
(3年4ヶ月令)

気の強いメス犬フウカは、ラッキーをかむ1週間前にダックスフントの頭をかんだ。傷は小さく出血は少なかったが、ダックスの飼い主の女性が激しく反応し、大げんかになったそうだ。その飼い主は、東京の白金に住んでいたことがあり、ダックスは何十万円もした、と犬のけんかとは関係のないことを言った。けんか別れをしたので、治療費云々の話には至らなかったという。

フウカには、他の犬と遊んだ経験が、小さいときから余りないのではないだろうか?両親や兄弟姉妹とじゃれあったりかみあったりしているうちに、甘がみを含む犬の遊び方を身につける。出生後間もなく両親や兄弟姉妹から離されてしまうと、社会性を身につけることができない。
犬には高い学習能力がある。小さいうちからきちんと社会性を身につけさせれば、大きな問題を起こす犬にはならないはずだ。

ドッグラン奮戦記

我が家から一番近いドッグランが、青葉の森公園にある。車で30分。この公園は大きく、サクラ、ウメ、その他の季節の花々、紅葉などが美しい。まず園内を散策してから、ドッグランへ行くことにしていた。ところが、ドッグランが最後になるこの散策パターン通りに、ドッグランと違う方向へ歩き始めると、最初からドッグランへ行きたくて、「フンフン」とうるさくなるようになった。今では、ラッキーのために散策を最短時間で切り上げている。

ドッグランは市営で、中・大型犬エリアと小型犬エリアに分かれている。大型犬が多く集まり、大型犬大好きのラッキーにはうれしいドッグランだ。

* * * * * * * *

1年8ヶ月令のときに記念すべきことがあった。それまでは、他の犬にマウンティングをされても、自分ではしたことがなかった。ところが何を思ってか、生まれて初めてマウンティングをしたのだ。ラッキーが男になった!
相手は大型犬大好きのラッキーらしく、ゴールデンレトリバーのメスのニコ。ニコが大き過ぎるので、ラッキーはマウンティングを後からはできず、横からになってしまった。からんでいるうちにラッキーがニコを力で押し倒した。寝技のかけあいでは敏捷なラッキーが有利。ニコは怒り、立ち上がるとラッキーへ猛烈な攻撃を開始した。ニコの怒りを理解したラッキーが、必死になって逃げた。その様子を見ていた人間観客は大笑いだった。

ドッグランで出会うたびに、その後もニコにマウンティングをする。他の犬には決してしない。愛犬に「ニコ」という名前を付けた飼い主はおおらかだ。ラッキーがしつこくマウンティングを続けても、「いいんですよ。ニコはメスにマウンティングされると怒るけれども、オスならば大丈夫です」、とニコニコ笑いながら受け入れてくれる。ニコもラッキーの必死のマウンティングを受け入れるが、度が過ぎると怒った顔をする。

動画:
ニコにちょっかいを出すラッキー。言い寄られてまんざらでもないニコ。ニコにマウンティングをしようとしたが、この時ははずされてしまった。
(1年9ヶ月令)

マウンティングは、性的な意味よりも序列を決める意味が大きい。しかし、性的な意味も無視できないとすれば、他の犬種が年2回出産するのに対して、年1回しか出産しないバセンジーの性欲は、弱いのだろうか?ニコにしかマウンティングをしないラッキーを見ると、ついそう思ってしまう。親ばかとしてさらに熟考すると、「ニコにしかマウンティングをしないラッキーは貞淑なのだ」、となる(!)。

* * * * * * * *

別の日に、ボーダーコリー、ダックスフント、柴などとも猛烈にからまりあった。コリーは最初はラッキーを怖がったが、やがて慣れた。すると、ラッキーに追いかけることを要求し、屋根付きベンチの間の狭い空間を、縦横に走り回った。さらに大胆になって、ラッキーにマウンティングを繰り返した。そのしつこさにラッキーが怒った。
ダックスはラッキーをとても気に入り、ラッキーだけを追跡した。ラッキーにマウンティングをしようとしたが、背高が低いので、ラッキーの背に乗ることができなかった。ラッキーはダックスの片思いを無視した。

自分からは、ニコ以外にマウンティングをしないラッキーが、他の犬からはマウンティングをされる理由はなんだろうか?

動画:
お気に入りのニコと遊んでいたが、ダックスにじゃまをされた。恋の路は、犬にとっても容易ではないのです。山あり、谷あり。
(2年1ヶ月令)

都営の大きな代々木公園ドッグランへ、時々出かける。大都会では犬の散歩をさせるのが難しい。そこにはシティボーイとシティガールが集まる。

2年7ヶ月令の暖かい秋の日のことだった。代々木公園ドッグランに犬がたくさんいたが、なんとなく都会の個人主義が行き渡っている雰囲気だった。くっつきあったりじゃれあったりする犬は、ほとんどいなかった。ラッキーは、そのような状況の判断をしっかりとはできず、他の犬を少し追いかけては止まることを繰り返した。

その日、代々木公園で初めてバセンジーに出会った。メスで色は茶白だったが、鼻に白い線がなかった。サイズはラッキーよりも小さいのに、体重はラッキーと同じ14キロ。ラッキーに興味を示し、尻のにおいをかぎながらラッキーの後に付いて歩いた。けれども、ラッキーが顔を向けて遊びに誘おうとすると「ガウ」。気難しい女の子だ。ラッキーがそれ以上に興味を示すことはなかった。

動画:
代々木公園で会ったバセンジーのメス。ラッキーが気になるようだったが、突然に「ガウ」。さっと身をひるがえしたラッキー。こういう気難しい女は相手にしない。男に逃げられ、ちょっと残念に思う女心。デリケートなのは、人間だけではありません。
(2年7ヶ月令)

やがて、大都会の個人主義とは縁遠いラッキーの、虫の居所が悪くなった。「フンフン、フンフン、フンフン」と鼻を鳴らし続けた。通常はうれしいときに鼻を鳴らすが、このときの鳴らし方は、明らかに不機嫌を表明したものだった。ドッグランの中央に立ち止まって動かなくなってしまった。「家へ帰ろうか」と言うと、うれしそうに顔を上げてアイコンタクト。駐車場へ向かって真っ直ぐに走った。
人間と同じように、日によって、犬だって気分がハイになったりローになったりする。それくらいの感情の動きはある。


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