1才の中頃から、ラッキーの交友関係に根本的な変化が生じた。小さい頃は、どの犬にも強い興味を持って近づき、誰彼かまわずにじゃれようとした。大きくなるにつれて、相手をよく見るようになった。相手によっては完全に無視してしまう。以前じゃれあった友だちでも無視することがある。小さい頃と全く変わらずによく遊ぶ相手もいる。
好きではない相手を無視するだけならいいのだが、「ガウ」の威嚇行動をやることがある。人間のように手を使えない犬は、遊びでも威嚇でも時には口を使う。遊びならば、たとえかんだとしても相手を傷つけない。けれども、犬の行動をよく理解できない新米飼い主は、近づいてきた犬が「ガウ」と口を開けただけで、おびえてしまう。
遭遇する犬どうしの相性の判断は、飼い主には難しい。好き嫌いの基準が分からない。その時の状況と心理状態によって、「ガウ」をやったりやらなかったりするので、人間飼い主は混乱してしまう。面と向かって「ガウ」とやったならば嫌いな相手、じゃれたならば好きな相手と分かるが、これでは結果からの判断になってしまう。
対面する相手の好き嫌いを、オス、メスで決めているわけではない。ラッキーは、ラッキーの気持ちを無視して、一方的かつ執拗に飛びついてくるメスに、「ガウ(うるさい)」とやることがある。理由はなんであれ、「ガウ」をやると私に怒られることが分かっているので、やったあとで頭を下げ、上目づかいに私を見る。
トイプードルは人間にはかわいく見えるが、ラッキーには必ずしもそうではないらしい。「ワンワン、キャンキャン」と神経質でうるさいトイがどこにでもいる。そんなうるさいトイに、突然に「ガウ」をやることがあるので要注意だ。
コッカースパニエルのレオンは怖がりで、ラッキーを遠くから見ただけで逃げようとする。この弱虫にラッキーが時々「ガウ」とやる。コッカーやシェルティーのような長毛犬は、毛が汚れると手入れが大変。飼い主には、他の犬とじゃれあうことを好まない傾向がある。長毛犬が、他の犬とじゃれあっている場面を目撃することは、ほとんどない。そんな遊びなれていない犬たちを、ラッキーは嫌う傾向がある。
飼い主の私にとっては、住んでいるマンションの周辺が要注意区域になった。
2才を過ぎた頃から、ラッキーは大人のオスの本能に目覚めたようだ。マンション周辺を自分のテリトリーと考える。このテリトリーへ入り込んで来る犬を、警告のために「ガウ」とやることがある。
イタリアングレイハウンドのギンが、同じマンションに住んでいる。ボールを追うギンにしか興味がないラッキー。ボールを追いかけていないギンをマンションの周辺で見かけても、無視してしまう。ギンは、ラッキーを見ると、いつでもどこでも一方的に「ガウ」の態勢に入ってしまう。
ラッキーが、マンションの前庭で周囲を睥睨していたときに、ギンの飼い主の女性とワンコ仲間が、散歩から戻って来た。私とラッキーの近くでおしゃべりを開始。
ラッキーはいつものようにギンを無視。ギンの飼い主がおしゃべりから外れて、ラッキーにご機嫌うかがいをした。それを見たギンが、チャンス到来とばかりにラッキーの後へさっと回り込んだ。ラッキーの尻をかんだ。ラッキーの怒りは凄まじかった。いつもラッキーに歯をむき出して威嚇するギンが、このときは尻尾を丸めて逃走した。
小さいときには「やられれば逃げる」だったが、現在は「やられればやり返す」。これはこれで危険だ。
フレンチブルドックのクリップは、ラッキーが小さかった頃は、会うたびにラッキーの肛門をなめた(エッセイ23)。ラッキーはうれしそうには見えなかったが、クリップの執拗さに負けて肛門なめを許していた。
大人になってラッキーの態度が変わった。なめようとするクリップに「ガウ」の拒否反応をするのだ。クリップは怖がりながらも、隙を見ては肛門なめをやろうとする。けれども、背中の毛を逆立てたラッキーが、クリップを受け入れることがなくなった。
人間とのつきあいの中でラッキーがいやがることがある。ラッキーが驚くと大きく跳んで後へ下がるので、シニアの女性がおもしろがってからかう。突然に「ワッ」と叫んでラッキーを驚かせる。笑いながら大げさな身振りで近づく。ラッキーはどんどん後ずさりをする。
おデブなダックスフントを2頭連れた夫婦に、時々出会う。
男性が、ラッキーに好意を示すために、笑いながら手を大きく広げ、大げさな身振りで近づく。ラッキーは跳んで下がってしまう。たった一度だけだったが、「ワン、ワン」と高い声で吠えたことまであった。このように吠えたのは、この男性に対してだけだった。男性は「私を嫌いなのだ」と言った。犬を飼っているが、自分の動きに対する他の犬の反応・行動までは、分からないようだ。
ラッキーを意図的に驚かせようと、走って来て、ラッキーの手前で急停止する男の子がいる。ラッキーは勿論こんな子を嫌う。そんないじめをして、かまれても知らないからな。
バーニーズマウンテンのピースの体重が、30数キロから40数キロになった。重いからだを動かすのがおっくうで、ラッキーが「遊ぼうよ」と猛烈な誘い攻撃をしても、余り反応しなくなった。ただし、口うるさいのが特徴的なメス(女性)だ。ラッキーがちょっかいを出すと、「ウウウー、ウウウー」と大きなうなり声を連発する。知らない人が見ると、じゃれあいではなくけんかをしていると思うに違いない。
ピースはラッキーと同じ年だ。この調子で年を取っていくと、 過体重のからだが不自由になったときの扱いが大変になる。そんなことは飼い主には自明の理だが、溺愛しきっているためにダイエットを実行できないのだ。
近くに住んでいるこの飼い主の娘が、フレンチブルドックのマメタロウを飼っている。ラッキーよりも1才半年下。娘が旅行に出るときは、ピースの飼い主がマメタロウを預かる。猛烈に動き回るマメはピースの手に負えない。
このマメが、ラッキーを絶好の遊び相手と判断した。公園でラッキーに出会うと、前後もかえりみずにラッキーに猛烈なアタック。一緒に走ればラッキーのほうが速いが、まとわりついたときの動作が余りにも俊敏なので、ラッキーはいささか手こずる。けれどもラッキーはマメをいやがらない。ラッキーと激しく遊んだマメタロウは疲れてしまい、家へ帰るとおとなしくなるので、マメだけではなくピースの飼い主もラッキー大歓迎だ。
コーギーのチャチャが、小さいときから大の仲良しだったためか、他のコーギーがラッキーに「ガウ」攻撃をやっても、ラッキーは気にしない。コーギーには甘い。
チャチャとは今でも仲がいい。まるで相思相愛だ。ただしチャチャはオスだ。ラッキーを独り占めにしたいチャチャ。ラッキーが他の犬に注意を向けると、その犬を威嚇する。ラッキーに寄り添って離れようとしない。大きな目でラッキーをいとおしそうに眺める。ワンコ仲間がおかしがる。
2頭はよくじゃれあう。チャチャは仰向けになってラッキーを誘う。ラッキーはチャチャの首へ甘がみをする。チャチャはそうされるのがとてもうれしい。それでも、ラッキーの口に力が入ると突然に怒る。目をぎらつかせ、ジャンプし、ラッキーに猛然と襲いかかる。ラッキーは逃げる。
チャチャはラッキー以外の犬には弱虫で、ガンをつけられるとトイプードルからも逃げる。ところが、兄貴分のラッキーがいると気が強くなる。ラッキーの後からだが、ちゃんとトイプードルに近づくことができる。
チャチャはラッキーに甘がみを要求するが、要求されなくても、ラッキーが甘がみをする犬が他にいる。気心が知れあっている長毛の大型犬だ。ピースとボーダーコリーのラグ。それ以外の犬を遊んでいる最中に甘がみすることはない。特に短毛犬は決してかまない。かむ場所は首。首の皮膚は厚い上に、からだの中でも特に長い毛が密集して生えている。ここを甘がみしても相手を傷つけることはない。かんでもいい相手のかんでもいいところを、ちゃんと知っている。
ラッキーもこれらの犬に甘がみされる。大型犬は唾液を大量に出すので、首から頭にかけて、ピースやラグの唾液でびしょぬれになる。
犬は遊び相手から学習する。兄貴分のラッキーがチャチャに教えたことがある。ラッキーは菜の花の花を食べるのが大好きで、春には菜の花の香りに引かれ、散歩道を変えてしまうくらいだ。ラッキーのこの奇妙な行為を眼前に見たチャチャが、菜の花を食べるようになった。
チャチャは、飼い主の女性が連れて来たときと、彼女の夫が連れて来たときとで、ラッキーに対する態度を変えてしまう。女性と一緒のときのほうがはるかに友好的だ。夫は、チャチャをラッキーと遊ばせるよりも、海まで散歩させることを優先する。チャチャはそのような飼い主の気持ちを敏感に察知する。急がせる飼い主に従って遊びを切り上げてしまう。
ラッキーは集団性動物らしい行動を取る。散歩の途中で出会った犬が、同じ方向へ歩き始めると、その犬がちゃんと後に付いて来るかどうかを、後を振り向いて頻繁に確認する。いかにもリーダー的だ。こういう行動をチャチャは取らない。チャチャにとっては他の犬はどうでもいい。自分だけさっさと歩く。 ラッキー以外の犬では、こういう個人主義に徹した犬が多いように見える。集団性動物の本能が、バセンジーのような古い犬種により強く残されている、と理解することができる。
2才の秋深いある日のことだった。家から2キロのところにあるビーチへ出かけた。ビーチにカラスが何羽かいた。ラッキーをリードからはずすと、それまでラッキーを無視していたカラスが、ラッキーに関心を示した。ラッキーが走って私たち夫婦から離れた。数羽のカラスがラッキーの周辺へ飛んで来て、ビーチに降りた。ラッキーは、最初はカラスを気にして追いかけた。けれどもカラスの逃げ足は速い。つかまえることは不可能だ。ラッキーはカラスへの興味を失ってしまった。
そのうちに、周辺に広がって飛んでいた50羽ほどのカラスが、次々とラッキーに向かって飛んで来た。ビーチに舞い降りたカラスの中で、ラッキーに最も近いカラスは、1メートルほどしか離れていなかった。カラス軍団がラッキーを取り囲み、全てのカラスが中心のラッキーに顔を向けた。
私たちから見ると、「猛禽に包囲されたラッキーが危ない」となるが、ラッキーはビーチに転がっている何かに注意を向けたままだった。無視されたカラス軍団は、失望したのではないだろうか?私は、猛禽からの攻撃よりも、ラッキーが変な物を食べるのを恐れて、ラッキーへ向かって走った。カラスがいっせいに逃げた。ラッキーは腐った魚を食べようとしていた。それを止めることができた。
チャチャもビーチで同じ経験をした。チャチャはラッキーよりも弱虫だ。飛んで来るカラス軍団をとても怖がり、飼い主を置き去りにして逃げてしまった、と飼い主が話した。
ガールフレンドのフィッツとの遊び方が変化した。ラッキーが小さい頃は、フィッツがしばしば甘がみをしたり、威嚇のために吠えたりした。自分をラッキーと同等か、それよりも上のランクに置いていた。
ところが、
オスとしてボスの風格を備えるようなったラッキーに、フィッツがこびを売るようになった。近づくときには尾を振り、上目づかいにラッキーを見上げる。甘がみどころか、遠慮がちに女っぽくじゃれる。優位にあるラッキーは、フィッツと遊ぶのも無視するのも、自分が決めるという態度を取るようになった。メス(女性)は状況の変化を敏感に察知し、新環境に順応する高い能力を持っている。
ラッキーは、とても生意気だった女の子時代のフィッツのほうが、好みに合っていたようだ。今では、走るときの共同作業がうまくいかない。フィッツが走っているときに、ラッキーがフィッツを無視してしまう。ラッキーが走っているときに、フィッツが立ち止まっている。気持ちがすれ違う。ただし、フィッツがラッキーを誘うことのほうが多い。
ラッキーが、じゃれあいの甘がみ以上に強くかまれたことが、3~4回あった。青葉の森公園で遊んでいたときに、イタリアングレーハウンドのペックに耳をかまれた。ラッキーの大きな耳には毛が少ないので、傷が深くなってしまった。血がかなり出た。耳は薄い上に血管がたくさん走っている。傷には要注意だ。耳はチャチャにもかまれたが、傷は小さかった。
2年8ヶ月令のときに、近くの公園で柴のメス犬フウカに左わき腹をかまれた。フウカは、他の犬が近づくと「ガウ、ガウ」と激しく威嚇する。けれども、散歩の途中でしばしば出会うフウカを、ラッキーは全く怖がらない。フウカの「ガウ」を単なる挨拶と心得ていて、周囲を走りながらフウカを遊びに誘ったりする。
その日も2頭はいつものように行動した。ところが、ラッキーが突然に歯をむき出して、激しい怒りの形相を見せた。その意味が分からないままに帰宅の途についた。家に着いてから驚いた。左わき腹に穴が開いていた。フウカの一撃必殺を受けたのだ。毛が短く単毛のラッキーの皮膚は傷つきやすい。フウカの犬歯が皮膚の下へ深く食い込んだが、幸いにも太い血管は傷つかなかった。出血はそれほど多くなかった。夕方の散歩中にかまれたので、その日はペットクリニックへ行かず、抗生物質のクリームを傷に塗り込んだだけだった。
翌日、クリニックへ連れて行った。傷が深かったので、獣医はただちに手術することを決めた。手術をおとなしく受け入れるならば、局所麻酔で済む。その日の夕方に手術をできるが、そうでなければ全身麻酔になり、1泊しなければならなかった。
ラッキーが前処置をおとなしく受け入れ、その日のうちに治療の全てが終了した。傷口を洗浄するために周囲の皮膚を広く切開。4針縫うことになった。ラッキーがおとなしかったことを、獣医がとても称賛した。獣医が驚くのは無理がなかった。ラッキーは周囲の状況をよく観察・判断してから、自分の行動を決定する。手術が自分に必要なことをラッキーは理解したのだ。
何か問題が起こっても、問題を解決する途中で小さなうれしいことを経験する。それによって心配や苦労が昇華されることが、人生にはよくある。特に愛するものが関与している場合に、小さな喜びが大きな喜びになる。獣医にほめられたことが、そんな小さいが大きな喜びになった。
この手術の1ヶ月前にペットの医療保険に入っていた。まさに「ラッキー」だった。3万5000円の手術代の自己負担は、2割で済んだ。フウカの飼い主には請求しなかった。遊んでいるときに怪我をするのは仕方がない。フウカの飼い主は申しわけながったが、「これは名誉の負傷です」と私は応えた。
こんなことがあっても、ラッキーにはトラウマが残らなかったばかりか、フウカに対する態度に全く変化がない。心理的にとても強い大人に成長した。飼い主である私も名誉の負傷としか考えなかったので、犬と飼い主の心理が一体化していることになる。
気の強いメス犬フウカは、ラッキーをかむ1週間前にダックスフントの頭をかんだ。傷は小さく出血は少なかったが、ダックスの飼い主の女性が激しく反応し、大げんかになったそうだ。その飼い主は、東京の白金に住んでいたことがあり、ダックスは何十万円もした、と犬のけんかとは関係のないことを言った。けんか別れをしたので、治療費云々の話には至らなかったという。
フウカには、他の犬と遊んだ経験が、小さいときから余りなかったのではないだろうか?両親や兄弟姉妹とじゃれあったりかみあったりしているうちに、甘がみを含む犬の遊び方を身につける。出生後間もなく両親や兄弟姉妹から離されてしまうと、社会性を身につけることができない。
犬には高い学習能力がある。小さいうちからきちんと社会性を身につけさせれば、大きな問題を起こす犬にはならないはずだ。
我が家から一番近いドッグランが、青葉の森公園にある。車で30分。この公園は大きく、サクラ、ウメ、その他の季節の花々、紅葉などが美しい。まず園内を散策してからドッグランへ行くことにしていた。ところが、ドッグランが最後になるこの散策パターン通りに、ドッグランと違う方向へ歩き始めると、最初からドッグランへ行きたくて、「フンフン」とうるさくなるようになった。今では、ラッキーのために散策を最短時間で切り上げている。
ドッグランは市営で、中・大型犬エリアと小型犬エリアに分かれている。大型犬が多く集まり、大型犬が大好きなラッキーにはうれしいドッグランだ。
1年8ヶ月令のときに記念すべきことがあった。それまでは、他の犬にマウンティングをされても自分ではしたことがなかった。ところが何を思ってか、生まれて初めてマウンティングをしたのだ。ラッキーが男になった!
相手は大型犬が大好きなラッキーらしく、ゴールデンレトリバーのメスのニコ。ニコが大き過ぎるので、ラッキーはマウンティングを後からはできず、横からになってしまった。からんでいるうちにラッキーがニコを力で押し倒した。寝技のかけあいでは敏捷なラッキーが有利。ニコは怒り、立ち上がるとラッキーへ猛烈な攻撃を開始した。ニコの怒りを理解したラッキーが、必死になって逃げた。その様子を見ていた人間観客は大笑いだった。
ドッグランで出会うたびに、その後もニコにマウンティングをする。他の犬には決してしない。愛犬に「ニコ」という名前を付けた飼い主はおおらかだ。ラッキーがしつこくマウンティングを続けても、「いいんですよ。ニコはメスにマウンティングされると怒るけれども、オスならば大丈夫です」、とニコニコ笑いながら受け入れてくれる。ニコもラッキーの必死のマウンティングを受け入れるが、度が過ぎると怒った顔をする。
マウンティングは、性的な意味よりも序列を決める意味が大きい。しかし、性的な意味も無視できないとすれば、他の犬種が年2回出産するのに対して、年1回しか出産しないバセンジーの性欲は、弱いのだろうか?ニコにしかマウンティングをしないラッキーを見ると、ついそう思ってしまう。親ばかとしてさらに熟考すると、「ニコにしかマウンティングをしないラッキーは貞淑なのだ」、となる(!)。
別の日に、ボーダーコリー、ダックスフント、柴などとも猛烈にからまりあった。コリーは最初はラッキーを怖がったが、やがて慣れた。すると、ラッキーに追いかけることを要求し、屋根付きベンチの間の狭い空間を縦横に走り回った。次に、ラッキーにマウンティングを繰り返すようになった。そのしつこさにラッキーが怒った。
ダックスはラッキーをとても気に入り、ラッキーだけを追跡した。ラッキーにマウンティングをしようとしたが、ラッキーの背高が低いので、ラッキーの背に乗ることができなかった。ラッキーはダックスの片思いを無視した。
自分からはニコ以外にマウンティングをしないラッキーが、他の犬からはマウンティングをされる理由はなんだろうか?
都営の大きな代々木公園ドッグランへ時々出かける。大都会では犬の散歩をさせるのが難しい。そこにはシティボーイとシティガールが集まる。
2年7ヶ月令の暖かい秋の日のことだった。代々木公園ドッグランに犬がたくさんいたが、なんとなく都会の個人主義が行き渡っているような雰囲気だった。くっつきあったりじゃれあったりする犬は、ほとんどいなかった。ラッキーはそのような状況の判断をしっかりとはできず、他の犬を少し追いかけては止まることを繰り返した。
その日、代々木公園で初めてバセンジーに出会った。メスで色は茶白だったが、鼻に白い線がなかった。サイズはラッキーよりも小さいのに、体重はラッキーと同じ14キロ。ラッキーに興味を示し、尻のにおいをかぎながらラッキーの後に付いて歩いた。けれども、ラッキーが顔を向けて遊びに誘おうとすると「ガウ」。気難しい女の子だ。ラッキーがそれ以上に興味を示すことはなかった。
やがて、大都会の個人主義とは縁遠いラッキーの、虫の居所が悪くなった。「フンフン、フンフン、フンフン」と鼻を鳴らし続けた。通常はうれしいときに鼻を鳴らすが、このときの鳴らし方は、明らかに不機嫌を表明するものだった。ドッグランの中央に立ち止まって動かなくなってしまった。「家へ帰ろうか」と言うと、うれしそうに顔を上げてアイコンタクト。駐車場へ向かって真っ直ぐに走った。
人間と同じように、日によって、犬だって気分がハイになったりローになったりする。それくらいの感情の動きはある。