Essay 82

宇宙を動かす高次元時間の謎

和戸川の関連書籍「無から湧き出る宇宙
2023年1月3日
和戸川 純

某所で時間に関する講演を行いました。私が強調したのは次の3点でした。

  • 私たちは、時間と重力を日常的に感じている。存在することに疑いを持たない。しかし、これらの現象を生み出す実体は、物理的に観測できず、数学的に表現もできない。
  • 高次元要素が強く反映されているならば、私たちの宇宙の物理学と数学では、実証できないことは明白だ。
  • 宇宙が、高次元時空へ開放されているという前提に立つと、時間と重力の謎が氷解する。

原子などの実証済みのエネルギーは、宇宙全体のエネルギーの4%余りしか占めていません。残りの95%余りのエネルギーの実体は不明です。拙著「無から湧き出る宇宙」において、時空を自由に飛び回る重力子が、宇宙の構造を決定する基本的なエネルギーであることを、論証しました。
宇宙を高次元時空への開放系と仮定すれば、感覚的に1次元の流れとして捉えている時間についても、実体の解明が容易になります。

以下に、講演で使用した主要なスライドを示します。

日常生活で感じる時間
図1

誰でも、自分の時間(一生)が有限であることを知っています。けれども、その時間がどのようにして生じているのかについては、物理的に大きな謎なのです。

図2

上図に示した、古代ギリシア人の時間理解は哲学的です。頭の中に1編の小説が存在する、という意味にとらえれば、分かりやすくなります。ストーリーの流れは時間とは無関係で、結末が最初に書かれる場合があります。このような理解は現代哲学の現象学に通じます。

図3

古代エジプトと古代メソポタミアで作られた、最初の暦は太陰暦でした。月の満ち欠けの1周期を1か月にし、12か月で季節がもとに戻るので、12か月を1年にしました。12を基本的な数と考え、昼と夜をそれぞれ12時間にしました。
古代ギリシア人にとって60という数字が神聖だったので、1時間を60分にしました。私たちがつい絶対的と考えてしまう時間ですが、このような主観的判断で時間の単位が作られたのです。

図4

上図は、地球の動きが変わると、時計で測定される時間の長さが変わってしまうことを、示しています。即ち、時計で測定される時間は絶対的ではなく、相対的ということになります。

実体がない多様な時間
図5

一般相対性理論は、重力が時空を歪めると述べています。宇宙の物質が遍在しているので、局所時空(時空座標系)の歪みが多様になります。宇宙には多様な時間が存在し、観測者が測定する時間は、観測者が存在する空間のみに適用される、物理量になります。

図6

時間には構造もエネルギーもありません。実体に触れることも、物理機器で観測することもできません。時計は、既述のように時間の観測機器ではありません。演算子(+、ー、>、//、=など)を使って、時間を数学的に表現することもできません。
既知の物理学や数学では実証できない時間。ここで想像の翼を広げ、時間には高次元要素が反映されている、と考えたいと思います。高次元時空では物理法則も数学公理も破たんしています。以下で、回り道になりますが、重力の時間に与える影響や量子論の視点を導入して、時間の謎に迫ることにします。

宇宙を規定する謎の重力
図7

重力は誰でも実感しています。ところが、重力を生み出す実体はまだ実証されていません。

図8

地表よりも重力が弱い空間を飛ぶGPS衛星の時間は、地表よりも速く進みます。高速飛行物体の時間は遅れ、差し引きで、衛星の時間は1秒間に100億分の4.4秒速く進みます。10年間で0.14秒速くなります。このため、GPS信号は時間差を修正して使われています。

図9

重力場の物理特性から、未実証の重量子の特徴を推理できます。相互作用が極めて弱く、電荷、質量、エネルギーがゼロで、寿命が無限大と予想されます。また、点粒子として数学的に記述できません。このような特徴が、重力子の実体が、私たちの宇宙の物理法則の外に存在していることを示唆します。

宇宙を細切れにするループ量子重力理論
図10

スピンネットワークと呼ばれる宇宙像が、1つの時間量子毎に置き替わります。まるでパラパラ漫画のように宇宙の現象が進行します(スピンフォーム)。その絵の動きが時間の流れに感じられます。

図11

プランク定数は、宇宙の基本物理量をもとにして計算された、基本定数です。1プランク時間よりも短い時間は宇宙に存在しません。図10の1時間量子が1プランク時間に相当します。
1プランク長さよりも小さい物質は、ブラックホールになります。量子にはいろいろなサイズがありますが、主な量子は数プランク長さ程度です。物体から原子、素粒子と続いた、物質の最小構成単位への探求は、ここで終ります。

図12

ループ量子重力理論では、パラパラ漫画の一コマ一コマが順序良く並ばなければ、現象が正常に推移しません。この理論は、一般相対性理論の延長線上で構築されたので、物理法則が破たんする高次元時空を考慮に入れていません。時間量子の連動を規定する高次元時間を、ループ量子重力理論に取り入れなければ、この理論は破たんします。

宇宙の彼方を見る超ひも理論
図13

人類を含む地球上の生物は、3次元の空間と1次元の時間しか、知覚も認識もできません。人間には、縦、横、高さに加わる、4番目以上の空間次元座標を表現する言葉がありません。時間の表現には、過去、現在、未来という言葉しか使われていません。人間の意識は、4次元時空に完全に閉じ込められているのです。
マクロの宇宙の物理理論であるニュートン力学や一般相対性理論。物理法則が破たんする高次元時空との間の境界領域に、量子力学が適用されます。

図14

量子世界では、時間の流れが不定など、マクロの物理学を適用できません。また、量子の物理特性を表す波動関数に、未知の演算子が必要なことが分かっています。このようなことも、量子力学が、高次元時空を反映した理論であることを、示唆しています。

図15

超ひも理論は、高次元時空の存在を前提にしています。最高の次元が10次元(9次元空間+1次元時間)、または11次元(M理論)。時間を1次元にしたのは人間的な都合です。2次元以上にすると最高次元が無限になります。理論構築のための計算が、人間の能力を超えてしまうのです。また、特殊相対性理論が破たんします。

図16

高次元時空の時間を1次元に限定しないとします。多次元方向へ流れる多様な時間が見えてきます。しかし、どの方向へ流れる時間でも、流れるという意味において1次元に帰着します。高次元の時間が3次元空間に投影されて、1次元の時間になることが示唆されます。

高次元時空から宇宙誕生
図17

誕生した瞬間の宇宙では、時間とエネルギーが無限に重なり合い、凍てついた状態にありました。時間の対称性(T対称性)が自発的に破れ、1次元の時間が選択されました。時間が流れ始めてから原始物理場が誕生し、物理法則が適用できるようになりました。

図18

誕生時の宇宙を論じるとき、視点を現在の時空座標系に置くのが、普通です。これは誤解を生みます。一般相対性理論が述べるように(図5)、観測者が測定する時間と空間は、観測者が存在する時空のみに適用される物理量です。誕生時宇宙では時空が無限小になっていました。そこに観測者がいれば、観測者自身も無限小に縮んでいました。誕生時宇宙内の観測者にとって、時間の流れは現在と同じように伸びていて、空間は広大だった可能性があるのです。

誕生時宇宙の混沌エネルギーから、量子、原子へ至るエネルギーの転移は、宇宙を形作る重力場の変貌によって説明が可能です。誕生前の無限重力場に、無限量のエネルギーが流れ込みました。重力の減弱につれて過剰エネルギーが宇宙外へ移動し、混沌エネルギー場が量子場へ変貌しました。67億年前から宇宙の膨張に加速がついていますが、宇宙重力場の減弱が進んでいると考えれば、説明が可能です。

図19

無限次元の時間の流れと空間の広がりから成る、高次元時空。上図で示した高次元時空における認知不能な高次元宇宙の軌跡を、頭に思い描くことはできません。2次元の図は、極端に単純化した2次元への投影像という意味しかありません。

ホログラフィック原理によって高次元宇宙が4次元時空へ投影され、トンネル効果によってエネルギーが4次元時空方向へ移動しました。基本的な流れである1次元の時間が発現し、その流れに沿って認知可能な表象である3次元空間宇宙が誕生しました。
図19で、薄青色の無数の矢印が多様な高次元時間を表現しています。黄色で分断されている濃青色の大きな矢印が、過去から未来へ流れる1次元時間です。これが多次元時間の投影像です。黄色の断片が図12の時間量子に相当します。


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