某所で時間に関する講演を行いました。私が強調したのは次の3点でした。
原子などの実証済みのエネルギーは、宇宙全体のエネルギーの4%余りしか占めていません。残りの95%余りのエネルギーの実体は不明です。拙著の「無から湧き出る宇宙」において、高次元時空を自由に飛び回る重力子が、宇宙の構造を決定する基本的なエネルギーであることを、論証しました。
宇宙を高次元時空への開放系と仮定すれば、感覚的に1次元の流れとして捉えている時間についても、実体の解明が容易になります。
以下に、講演で使用した主要なスライドを示します。
誰でも自分の時間(一生)が有限であることを知っています。けれども、生きている間に流れているように感じられる時間が、どのようにして生じているのかについては、物理的に大きな謎なのです。
図2上図に示した古代ギリシア人の時間理解は、哲学的です。頭の中に1編の小説が存在するという意味に捉えれば、分かりやすくなります。小説に書かれているストーリーの流れは時間とは無関係で、結末が最初に書かれる場合があります。このような理解は現代哲学の現象学に通じます。
図3
古代エジプトと古代メソポタミアで作られた最初の暦は、太陰暦でした。月の満ち欠けの1周期を1か月にし、12か月で季節がもとに戻るので、12か月を1年にしました。12を基本的な数と考え、昼と夜をそれぞれ12時間にしました。
古代ギリシア人にとって60という数字は神聖だったので、1時間を60分にしました。私たちがつい絶対的と考えてしまう時間ですが、このような主観的判断で時間の単位が作られたのです。
上図は、地球の動きが変わると、時計で測定される時間の長さが変わってしまうことを、示しています。即ち、時計で測定される時間は絶対的ではなく、相対的ということになります。
一般相対性理論は、重力が時空を歪めると述べています。宇宙の物質は遍在しているばかりか、一瞬も休むことなく空間を移動しています。局所の時空(時空座標系)の重力が千変万化するので、空間の歪みが無限に多様になります。宇宙には変化し続ける多様な時間が存在し、観測者が測定する時間は、観測者が存在する空間に一瞬だけ適用される、物理量になります。
図6
時間には構造もエネルギーもありません。実体に触れることも、物理機器で観測することもできません。演算子(+、ー、>、//、=など)を使って、数学的に表現することもできません。高次元時空では物理法則も数学公理も破たんしていますから、高次元要素が時間に含まれていれば、実体を実証できないことは当然かもしれません。
以下で、回り道になりますが、重力の時間に与える影響や量子論の視点を導入して、高次元時空との関りから時間の謎に迫ることにします。
重力は誰でも実感しています。ところが、重力を生み出す実体はまだ実証されていません。
図8重力が弱い空間での時間は速く進むのに対して、高速飛行物体の時間は遅れます。地表よりも重力が弱い空間を飛ぶGPS衛星の時間は、差し引きで1秒間に100億分の4.4秒速く進みます。10年間で0.14秒速くなります。このため、GPS信号は時間差を修正して使われています。
図9重力場の物理特性から、重力を媒介する、未実証の重力子の特徴を推理できます。重力子の相互作用は極めて弱く、電荷、質量、エネルギーがゼロで、寿命が無限大と予想されます。また、点粒子として数学的に記述できません。このような特徴が、重力子の実体が、私たちの宇宙の物理法則の外に存在していることを示唆します。拙著の「無から湧き出る宇宙」で、高次元実体である重力子が私たちの宇宙とどのように関わっているのかを、多様な視点から詳細に推理しています。当ウェブサイトでは、 「宇宙を誕生させる謎の重力子」のページで重力子の片鱗を示しています。
宇宙空間に相当するスピンネットワークと呼ばれる宇宙像が、1つひとつの時間量子毎に置き替わります。まるでパラパラ漫画のように宇宙の現象が進行します(スピンフォーム)。その絵の動きが時間の流れに感じられます。
図11
プランク定数は、宇宙の基本物理量をもとにして計算された、基本定数です。1プランク時間よりも短い時間は宇宙に存在しません。図10の1時間量子が1プランク時間に相当します。
1プランク長さよりも小さい物質は、ブラックホールになります。量子にはいろいろなサイズがありますが、主な量子は数プランク長さ程度です。物体から原子、素粒子へと続いた、物質の最小構成単位への探求はここで終ります。
ループ量子重力理論では、パラパラ漫画の一コマ一コマが順序良く並ばなければ、現象が正常に推移しません。この理論は、一般相対性理論の延長線上で構築されたので、物理法則が破たんする高次元時空を考慮に入れていません。時間量子の連動を規定する高次元時間を、ループ量子重力理論に取り入れなければ、この理論は破たんします。
人類を含む地球上の生物は、3次元の空間と1次元の時間しか知覚も認識もできません。人間には、縦、横、高さに加わる、4番目以上の空間次元座標を表現する言葉がありません。時間の表現には、過去、現在、未来という言葉しか使われていません。人間の意識は、4次元時空に完全に閉じ込められているのです。
マクロの宇宙の物理理論であるニュートン力学や一般相対性理論。物理法則が破たんする高次元時空との間の境界領域に、量子力学が適用されます。
量子世界では時間の流れが不定であるなど、マクロの物理学を適用できません。また、量子の物理特性を表す波動関数に、未知の演算子が必要なことが分かっています。このようなことも、量子力学が、高次元時空を反映した理論であることを示唆しています。
図15超ひも理論は、高次元時空の存在を前提にしています。最高の次元が10次元(9次元空間+1次元時間)、または11次元(M理論)とされています。時間を1次元にしたのは人間的な都合です。2次元以上にすると最高次元が無限になります。無限次元の宇宙理論を構築するための計算は、人間の能力を超えてしまうのです。また、目に見える範囲の宇宙に適用される、特殊相対性理論が破たんします。
図16高次元時空の時間を1次元に限定しないとします。多次元方向へ流れる多様な時間が見えてきます。しかし、どの方向へ流れる時間でも、流れるという意味において1次元に帰着します。高次元の時間が3次元空間に投影されて、1次元の時間になることを示唆できます。
誕生した瞬間の宇宙では、多次元の時間とエネルギーが無限に重なり合い、凍てついた状態にありました。時間の対称性(T対称性)が自発的に破れ、1次元の時間が選択されました。時間が流れ始めてから原始物理場が誕生し、物理法則が適用できるようになりました。
図18誕生時の宇宙を論じるとき、視点を現在の時空座標系に置くのが、普通です。これは誤解を生みます。一般相対性理論が述べるように(図5)、観測者が測定する時間と空間は、観測者が存在する時空のみに適用される物理量です。誕生時宇宙では時空が無限小になっていました。そこに観測者がいれば、観測者自身も無限小に縮んでいました。誕生時宇宙内の観測者にとっては、時間の流れは現在と同じように伸びていて、空間は広大だったと思われます。
宇宙誕生直後に、空間が猛烈に膨張するインフレーションがありました。その後、空間の膨張速度は減少し続けました。ところが、67億年前から空間の膨張が再加速に転じたのです。宇宙が高次元時空と一体化している開放系で、高次元時空から入ってくるエネルギーの量に、67億年前から加速がついていることを示唆しています。
図19無限次元の時間の流れと空間の広がりから成る、高次元時空を想定します。図19の高次元宇宙(この高次元宇宙も多様)は、無限に多様な高次元時間の座標軸に沿って移動します。高次元時空における認知不能な高次元宇宙の軌跡を、頭に思い描くことはできません。2次元の上図は、極端に単純化した2次元への投影像という意味しかありません。
ホログラフィック原理が働いて、高次元宇宙が4次元時空へ投影されました。トンネル効果によってエネルギーが4次元時空方向へ移動して、投影像が実体化しました。即ち、量子になるエネルギーが観測可能になったのです。流れるという意味において、最も基本的な1次元の時間が発現しました。その時間の流れに沿って、認知可能な表象である3次元空間宇宙が誕生し、現在まで進化を続けています。
図19で、薄青色の無数の矢印が多様な高次元時間を表現しています。黄色で分断されている右向きの濃青色の大きな矢印が、過去から未来へ流れる1次元の時間です。これが多次元時間の投影像になります。投影像ですから、流れを感じられるとしても、実体として把握することは不可能です。図の黄色の断片は、図12の時間量子に相当します。