Essay 89

AIが描いた驚異の量子像

和戸川の関連書籍「無から湧き出る宇宙
2024年9月16日
和戸川 純
生成AIが描いた複雑極まる量子の像

まず最初に、生成AIのBingImageCreatorが描いた量子の画像を示す。これらの画像は、「量子の画像」というキーワードでGoogle検索したときに表示される、どの画像よりも複雑だ。

BingImageCreatorが作成した量子の画像
量子
画像1. 基準量子
振動が変化1
画像2-1. 振動が変化
振動が変化2
画像2-2. 振動が変化
周波数が変化
画像3. 周波数が変化
位相が変化
画像4. 位相が変化
振動の干渉
画像5. 振動の干渉
超ひも理論1
画像6-1. ひも
超ひも理論2
画像6-2. ひも

結論をいってしまえば、後述の波動関数を使って量子を描く場合、人の頭と手を使うよりもAIのほうがいい。複雑な数式とデータから絵を描く作業では、AIが能力を発揮する。

波動関数にもとづいて量子を描くことを、生成AIのBingImageCreatorに指示した。作成された画像1を「基準量子」と呼ぶことにする。波動関数の特徴が、この画像に現れているはずだ。
量子の震動は、振動数、振動の振れ幅である振幅、振動一単位に要する時間である周期などによって、規定される。基準量子とは異なる振動の量子を描くことを指示すると、画像2-1と2-2が作成された。基準量子と周波数が異なる量子は、画像3になった。繰り返される現象の特定の局面が位相で、それが変化した量子が画像4になる。波の山と山や山と谷が重なって、波が強くなったり弱くなったりする現象が干渉だ。振動の干渉が加わった量子が、画像5だ。超ひも理論の特徴が強く出ている量子の画像の作成を指示すると、画像6-1と6-2になった。

見ればすぐに分かるように、物理特性と構造の間には規則性(法則性)がない。特に、画像2-1と2-2、それに画像6-1と6-2は、各々、特性の変更が同じであるにもかかわらず、画像が全く異なっている。量子には不確定性原理の縛りがかかっているために、物理特性と構造の間に規則性が認められないのは当然で、AIがその特性を明確に表現した。この原理との関連で、量子のエネルギー分布は常時変動している。また、エネルギーはグラデーションになって広がっているので、画像のように線でエネルギー分布のパターンを描くことはできない。このあたりが、人為的な視覚化操作が生み出す矛盾になる。

認知不能な量子を認知可能にするための努力

超ひも理論によると、量子の本体は高次元方向へ振動するひもで、私たちの3次元空間宇宙(ブレーン)に結合した箇所が、量子として認識される(「無の向こうに広がる高次元時空」「多次元時間が1次元になる不思議」)。この量子本体は、人の認知能力の限界を超えた存在なので、実証が必要な科学の研究対象にはならない(「宇宙は見えない高次元時空の表象」)。人にできることは、高次元量子の目に見える3次元表象から、目に見えない本体を推理することだけだ。

上に示した画像から明らかなように、高次元量子の表象でも解析は困難だ。量子の振動の中心と形は定まっていず(不確定性原理)、振動の波は減弱しながらグラデーションになって無限に広がる。量子を見える化して研究対象にするために、人の認知能力の範囲内へ量子を取り込む工夫が必要だった。そうやって成立したのが、量子の状態を表す複素数値関数の波動関数(シュレーディンガー方程式の解)で、エネルギーの分布を確率的に予測し、確率論で量子の振動中心と振動境界を決定する。

複素数は、実数と虚数の和で表される。量子力学では、複素数のベクトル空間であるヒルベルト空間上で、波動関数が表現される。波動関数では、全てのオプションが同等に起きるかのように足しあわされている。これは、量子の実体が高次元時空に存在することを推測させる、根拠の一つになる。波動関数の絶対値の二乗は確率密度と解釈され、量子系が特定の状態に存在する確率を表す。

波動関数で分かること、分からないこと

コペンハーゲン解釈が、量子力学は本質的に非決定論的であると述べている。観測前に量子の波の中心や広がりを知ることはできない。観測が行われると、重なり合っていた波を記述する波動関数が、正確さを失う。それによって、量子がどれくらいの確率でどの位置に存在するのかを示す、観測確率が決まる。波は確率解釈に従って一か所に収束し、境界が有限な量子として姿を現す。この現象を波動関数の縮小と呼ぶ。
波動関数の縮小では、量子エネルギーがあるレベルへ減少した箇所をエネルギー・ゼロとし、量子の外縁と規定する。この外縁は、観測装置の精度によって変化する。将来的に観測装置の感度が増せば、震動の外縁と判断される箇所が、震動の中心から遠くなる。それによって、量子の直径が現在よりも大きいと計算される。

波動関数の縮小の概念から分かるように、量子系(振動)が狭い範囲に集中していれば、量子として特定される物理量確定の確率が高くなる。量子系が広がっていると、位置や運動量が分散するので物理量が確定される確率が低くなる。

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Ψ(x) = A e^(i(kx - ωt))

ψ(x):波動関数、A:振幅(波の大きさ)、e:指数関数(量の増加に関する数学的な記述)、e^:波の位相(振動箇所の位置関係)、i:虚数単位(2乗してー1になる数)、k:波数(単位長さ当りの波の数)、x:位置、ω:角振動数(1秒当りの位相の変化量)、t:時間

波動関数には未知の変数が含まれていると考えられるので、まだ未完だ。波動関数をもとにして量子の画像を描くときには、数式を単純な系にするために条件を付与する。射影演算(単色平面波)などを使う。従って、波動関数を使って描いた量子の画像は、量子実体の簡略化された幻影(ホログラム)といえる。このようなあいまいな方法でしか、量子を表現できない。

波動関数は単なる確率論の定式ではなく、空間が曲がることによって量子が顕在化することを示している、という解釈がある。これが正しければ、波動関数は時空の曲がりを表現している。波動関数に虚数が含まれ、未知の隠れた変数が存在する。認知不能な高次元の量子本体を、観測機器に投影される認知可能な存在にするための定式、という理解が可能だ(拙著「無から湧き出る宇宙」)。また、波動関数は循環現象を表現していると考えられるので、時空を超えたエネルギーの移動を示唆しているのかもしれない。

生成AIが量子を描いたプロセス

上に示した量子画像をどのようにして作成したのかを、生成AIに尋ねた。答えは次の通りだった。

  • 重ね合わせで表現される多様な量子ビットを、画像のデータとして使用した。一つの量子が複数の状態を同時に持つことを、重ね合わせという。量子ビットは、量子の基底状態の重ね合わせや干渉を利用してエンコードされた、情報になる。
  • 量子回路で量子ビットを変換し、3次元空間内のエネルギーの配置や関係性を構築した。量子回路は、量子ゲートの組み合わせによって記述される計算モデルだ。
  • 量子回路内で使用される、様々な量子ゲートによって量子ビットを変更し、画像の形状や特性を指示されたように表現した。
  • 量子ビットの測定結果を画像のデータポイントの値と解釈し、最終的な3次元画像を作成した。

生成AIは謙虚で、「量子コンピュータの能力には限りがありますので、実用的な量子の3次元画像の作成は、まだ限定的な範囲に留まっていることを認識している必要があります」、という断り書きがついていた。この断り書きから、量子の画像が、量子コンピュータで描かれたことが分かる。

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原子モデルでは、原子核や電子が、境界を有するボールのように描かれる。生成AIが描いた量子の絵では、量子の振動の外の境界は描かれていず、波はエネルギーを減少させながら限りなく広がっている。その点では、量子の本来の姿が忠実に描かれている、と評価できる。原子を構成する量子は、クォーク、グルーオン、ウィークボース粒子、それに電子だが、これらの量子の構造は、生成AIが描いた構造に近い。本物の原子は、曖昧模糊とした常時変動しているエネルギーの塊で、そのエネルギーは無限の彼方にまで広がっている。

ここで哲学的な問題が生じることを、「宇宙は見えない高次元時空の表象」に書いた。不確定性原理で特徴づけられる、無限に広がるエネルギー場である量子によって、私たちの手は構築されている。その手に明確な境界があり、自分の意志でリンゴをつかむなど、確定的に動かすことができるのはなぜだろうか?手(量子の塊)の動きには不確定性原理が適用されるので、本来、その動きは不確定でなければならない。「意志」という確定的な化学反応が、脳で生じることもあり得ない。


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