和戸川の思い(その8)
和戸川 純

363

韓国を甘やかしてしまった日本

2019年7月6日

戦後、韓国の対日本政策は、「言いたい放題」、「やりたい放題」でした。韓国が独断で引いた、海洋境界線の李承晩ラインのおかげで、日本側に多数の死傷者が出ました。断崖絶壁に囲まれた竹島に軍人を常駐させる建造物。島の軍事要塞化は常軌を逸しています。悪趣味な像を世界各地に設置する慰安婦問題、火器使用の前段階である自衛隊機へのレーダー照射、大法院の徴用工賠償判決など、最近も矢継ぎ早に対日攻撃を繰り出しました。

徴用工問題では、文政権は、大法院の判決に日本が従うことを要求しています。国内法と国際法がからんだ判決については、専門家の間で若干の意見の相違があります。しかし、常識的に考えて、日本が韓国の国内法に従わなければならない、などという要求は不条理です。逆に、日本の最高裁が、韓国に不利な判決を下したときに、韓国は日本の判決に従うのでしょうか?従うことは、決してないと思います。

韓国を植民地化したことによる罪悪感から、日本は韓国へ経済協力などの名目で資金を供与し、自動車産業などの勃興を助ける技術供与も行いました(三菱自動車が現代へ)。

日本は今まで、THAAD問題に対する中国のように、激烈な報復を韓国に対して実行することがありませんでした。せいぜい遺憾の意を表明するくらいでした。それが、日本に対しては何をやってもいいのだという、韓国の「常識」を育ててしまったのです。

忍耐に忍耐を重ねた日本が、最後に爆発して、韓国への高機能材料輸出を規制する制裁処置を、実行しました。さらに注目に値するのは、ホワイト国のリストから韓国をはずすことです。友好国と判断される27の国が、ホワイト国に入っていますが、リストからはずされるのは韓国が初めてになります。韓国は要注意国になり、貿易などで、いろいろな分野で制約が広範囲に課されます。今後、日本政府は、韓国への多様な追加制裁処置を、迅速かつ効果的に行うことができます。

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これは、戦後歴史の転換点になると思います。韓国は、もはや「言いたい放題」、「やりたい放題」はできないことを悟ったはずです。

日本が反省しなければならないことは、最後の最後まで我慢しすぎたことです。問題が起こるたびに、制裁を的確に実行してこなければなりませんでした。日本に対する判断を、中国やアメリカに対するのと同じように、慎重に行わなければならないことを、韓国に理解してもらう努力がなされていなかったのです。今までの問題処理が的確だったならば、今回のような劇薬を使うところまで、日韓関係がこじれることはありませんでした。

今回の処置によって、サムスン電子が大きな打撃を受けることが、予想されています。今後は、自動車産業へ打撃を与えるような処置が、考慮されているようです。韓国の産業に大きなダメージを与えれば、はねかえって日本にもダメージが及びます。
日本には、どこで問題を収束させるのかの、戦略的な判断が必要になります。大法院の決定をくつがえさせるのか?文政権の崩壊を目指すのか?韓国の弱体化を目指すのか?どちらにしても、日本との関係を普通にする政治勢力を浮上さなければ、落としどころが見えなくなります。日本政府には、その目論見を成功させる自信があるのでしょうか?

362

人間化した犬の表情

2019年7月1日

攻撃的な肉食動物のイヌが、異なる種であるヒトの伴侶になったことは、進化的には意外なのです。ヒトと戦うよりも行動を共にすることのほうが、生存のために大事であることを理解できる、高度な知能を持っていたことになります。

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最近、イヌの表情に関する研究成果が報告されました。オオカミから進化したイヌですが、ヒトとのコミュニケーションのために、オオカミよりも目をよく使うようになったのです。まぶたの動きが多様になっただけではありません。アイコンタクトで飼い主に問題の解決を頼んだり、飼い主の意図を探ったり、散歩で歩きたい方向を教えたりします。イヌはアイコンタクトを幼児期から学び、チンパンジーよりも巧みになります。

研究は、ヒトとイヌの間のアイコンタクトが、異種動物間の友情を育て、それが人類の文明化に大きな貢献をした、と結論づけています(エッセイ50「サバンナで生まれた人・犬運命共同体」)。

声でもコミュニケーションはできますが、イヌにとっては、鳴き声よりも目を使うほうが、微妙な意思の疎通により有効なのです。アイコンタクトによって、脳内ホルモンのオキシトシンの分泌が高まります。このホルモンは、闘争本能を抑制し、対人関係(対犬関係)において幸福感を生み出す作用をします。

バセンジーは吠えないイヌなので、他の犬よりもアイコンタクトをよりしばしば使います(エッセイ60「これがバセンジーの奇妙な声」)。家の中でも散歩中でも、絶え間なく私の目を見つめます。私もラッキーの目をしっかりと見つめながら、声をかけます。ラッキーのアイコンタクトには特に女性が弱く、ラッキーに見つめられると、オキシトシンが大量に生産されるらしく、女性はカンオチ状態になってしまいます。
オキシトシンは、母と子の愛情を高めるために有効に作用するので、ラッキーに見つめられた女性は、幼児を目の前にしたような反応をしてしまうのです。母と幼児もしっかりと見つめあいます。ラッキーはアイコンタクトの効果をよく心得ていて、食べ物をくれそうな女性に対しては、特にアイコンタクトに注力します。

361

自滅へ向かう中国

2019年6月6日

天安門事件から30年。共産党政権の権力維持が、最大の「核心的利益」になっている中国で、言論弾圧が苛烈さを増しています。

天安門事件後に国家資本主義へ舵を切った中国は、独裁政権の権力維持と引き換えに、豊かになる夢を国民に与えました(エッセイ61「中国の奪取戦略」)。全体主義国家では、政権の方針が確実に経済政策に反映されます。両輪がうまく回転している間は、表向きは繁栄に加速がつきます。しかし、人間が考える政策に完璧はなく、無理のある人為的な発展の裏側で、負の側面が肥大化します。

積み上がった債務(エッセイ62「アメリカの対中国全面攻撃」)は、財政破綻の引き金を引きかねません。加えて、人々の日常生活を直撃する問題が増大しています。 爆買いに気を取られていると失念しがちですが、中国では貧富の差が急激に拡大しています。トップ1%の富裕層が国富の30%を所有し、下層の人口の半分は全体の6%強しか所有していません(ロイター通信)。

国民1人当たりの所得が、平均では増えたといっても、人は周囲の人たちとの比較で、自分が貧しいかどうかを判断します。格差が拡大すれば、貧しい人たちの不満が急速に高まります。
国民全体が豊かになる前に高齢化が始まった中国。2035年までに年金基金が枯渇するのです(ロイター通信)。抑圧の代償として豊かさを与える、という政権と国民の間の暗黙の了解が、崩壊する日がやってきます。

ウイグル族やチベット族への苛烈な弾圧は、国民全体を統制する、手法のための実験になっているはずです。これが奏功すれば、香港や台湾のみならず、一帯一路の被援助国へもこのシステムを応用すると思います。

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今までの歴史が示すように、独裁体制は強力に見えても、足元がゆらげばあっけなく崩壊します。米中貿易戦争が苛烈さを増していますが、中国が敗者になる理由はたくさんあります(エッセイ62「アメリカの対中国全面攻撃」)。

どのような未来が来るのかは、誰にも分りません。無から有を生み出す人がいなければ、社会は停滞します。アメリカの強みは、人種の多様性にあり、激変する社会のリーダーになる人が、多様な人々の中から次々に現れます。中国は、国民一人ひとりの思考まで、独裁政権が決める体制を完成させつつあり、多様性を根絶する方向へ動いています。自ら築いているこの抑圧体制が、中国弱体化への決定的な要因になります。

360

未来の想い出を作る今

2019年5月20日

時の流れに関する想いを今年の年賀状に書き、先日の大学同期会で話しました。これをとても気に入ってくれた方が、3人いました。ここに書いておきます。皆さんの心に少しでも響くならば幸いです。

「今日という日は、想い出が積み上げられた過去と、今日の想い出を懐かしむ未来の間にあります。過去の想い出の延長線上で、未来につながる想い出を日々作ることの大切さを、実感しています」

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日常的な雑感という形で思いを述べていますが、この思いの裏に、現在書いている宇宙論があります。時間は空間よりも物理的な実体をつかみにくいのですが、量子力学を論じたり、高次元時空へ足を踏み出すときに、思考の中心に常に時間を置かなければなりません。

すでに3年以上書き続けている宇宙論。現在、最終段階のイラスト描きに入っています。想像できないことをイラストとして描くことは極めて難しく、試行錯誤が続いています。私の思索をイラストで表現できたときに、幸せを感じます。

359

立山雪の大谷は別世界

2019年5月9日

昨日、立山室堂の雪の大谷へ行ってきました。私の家からは、電車⇨新幹線⇨電車⇨ケーブルカー⇨バスと乗り継ぐ、片道6時間の旅です。日帰りはきついけれども、家が大好きなラッキーに外泊をさせるのがかわいそうなので(エッセイ36「犬の常識に挑戦するバセンジー」)、強行軍になってしまいました。

以前、黒部側から立山へ登るルートを旅したことがありました。そのときは秋でした(エッセイ5「日本の秋」)。今回は富山⇨立山⇨室堂に至る逆のルートです。

2週間前に慎重に計画を立てました。条件は、時間をむだにしないこと、天気がいいこと、人のにぎわいが少ないこと。条件を満たすのが、5月8~10日でした。富山から立山まで電車、立山・室堂間でタクシーを使えば、時間の節約ができます。しかし、立山交通へ電話をして、立山・室堂間は、ケーブルカー⇨バスと乗り継ぐ以外の選択肢がないことを、知りました。

ネットで調べて、7分しか乗らない立山ケーブルカー(立山⇨美女平)が、ネックになることを知りました。発車時刻の40分前に来てチケットを受け取るように、とサイトに書いてあったのです。しかし、どうアレンジしても、出発の15分前にしか立山駅に到着できないのです。すぐにチケットを受け取れるように、ウェブで予約をして覚悟を決めました。スムースにいけば室堂で2時間取れるが、予定のケーブルカーに乗り遅れると、1時間しか室堂に滞在できない。

私の覚悟は無意味でした。チケットをすぐに受け取ろうと、窓口へ走ったけれども、並んでいる人は一人もいませんでした。大混雑は観光会社の過剰宣伝だったようです。

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下界の気温は20度以上でも、標高2400mの室堂は2~3度。銀白の世界は別世界。雪の大谷は見事だったが、道路の雪が消えてコンクリートが丸出しになっていました。私は、裏側のみくりが池周辺を気に入りました(エッセイ5「日本の秋」)。池は雪野原になっていたけれども、観光客が少なく、歩道はちゃんとした雪道でした。強烈な紺碧の空と吹き渡る冷風。冬の高山を満喫しました。

立山駅の構内にツバメの巣がありました。高さ3mほどの看板の上に座ったツバメが、少しからだをゆすりながら鳴き続けていたので、最初はロボット・ツバメと思いました。人々が下を歩いても、全く気にしなかったのです。余りにもかわいいのでしばらく見ていると、突然に10mほど先の天井の片隅へ飛びました。そこに巣があったのです。はらばいになると、黙って卵を抱き身動きしませんでした。

私の想像です。親ツバメは、敵の注意を巣から引き離すために、離れたところでわざとにぎやかに鳴き、巣に入ると注意を引かないように黙ってしまう。

358

ホロコーストはあった

2019年4月13日

先月、YAHOO!ニュースに、高須クリニックの高須院長のツイートに反論する、アウシュビッツ記念館のコメントに関する記事が、掲載されていました。高須院長が、2015年に、「南京もアウシュビッツも捏造だと思う」とツイートしたのです。それに対して、日本語での反論が、記念館の公式ツイッターに載ったそうです。
高須院長は、「気軽に」自分の「想像」をツイッターに書いたのだと思います。テレビCMで露出度の高い院長が、この重いテーマについて気軽に書けば、世界からどのような反応があるのかに、全く気づいていなかったのです。

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オーストラリアで、アウシュビッツから生還した人とつきあいました。腕に収容者番号の入れ墨がある、無限にやさしい男性でした(エッセイ38「つきあった外国人の素顔」)。

私は、アウシュビッツへ行ったことがあります。高須院長には、そのような経験がないのだと思います。あのスケールの強制収容所を見れば、とても捏造できるようなものではないことを、理解できます。ドイツ人の若者が、今でも定期的に強制収容所を訪れ、ボランティアで草取りなどをやっています。

現場を見ても捏造の疑いが晴れないならば、ポーランド人の話を聞くことです。アウシュビッツは、ドイツとの国境から離れた、ポーランドの国内深くにあり、強制収容所の建設からその後の活動まで、全てをポーランド人が見ていたのです。

ポーランド人は、一般的にユダヤ人に好印象を持っていません。この反ユダヤ感情は、歴史的に根深いものです。強制収容所が捏造ならば、ポーランド人は、そのことを遠慮会釈なく暴露してしまっています。アウシュビッツ(オシフィエンチム)周辺に住むポーランド人が、ホロコーストを歴史的事実と認めていることの意味の大きさを、理解することが大事です。

357

AIがあなたの人生を判断

2019年4月5日

AIが人々の可能性を判断する、「AIスコア」というサービスがあります。スマホでもパソコンでもアクセスが可能です。みずほ銀行とソフトバンクがタッグを組んだ、フィンテック企業のJ.Scoreが提供しています。
提供企業を信用できても、人生の可能性についてのAIの判断を、信用していいのでしょうか?AIは、過去の多様なデータをもとにして、アルゴリズムで結論を出します。予想の根拠は、人々の平均的な人生になります。あなたが強烈な個性を持ち、他人とは全く違った人生を送っているならば、AIはあなたの可能性を正確には判断できません。

人間には未来を見通せないので、人生の節々で決断が必要なときに、決断できないことが多々あります。そんなときに助けてくれるのが、占い師です。「こうするように」と、他人である占い師に断言してもらえば、決断できないでいた人は、自分が進むべき道を選択できます。
AIは占い師の役割を果たします。占い師の判断には、多様な人々の経験だけではなく、自分の直観が入ります。上のような個性の強いひとには、過去のデータをもとにして結論を割り出すAIよりも、占い師のほうが頼りになるかもしれません。

「AIスコア」では、生年月や職業、現在の世帯状況など、計18個の質問に答えます。それをもとにして、1000点満点でのスコアが出ます。ライフスタイルや性格などについての情報を変更するたびに、スコアが変化するので、経時的に使用すれば、自分の人生を改善するのに役立つというのが、売り文句です。

科学を装っているので、現代人には、人間の占いよりもAIの占いのほうが、感覚的にピッタリくるかもしれません。しかし、人々の人生のスコアリングは、すぐに中国の悪夢へつながってしまいます。

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中国政府が、2014年から、全国民を対象にした社会信用システムを、構築しています。個人の日々の行動や会社での業務などが、評価対象になります。NGOなどの組織への関与も対象です。

これらの情報を、政府に都合のよい基準で採点します。スコアが低いと、航空券や鉄道のチケットを買えなかったり、ネット利用を制限されたりします。中国では無人店舗が増えているので、反社会的行動を取ってスコアが極めて低くなった人に、食品などを販売しないことが、技術的には可能です。SFの「1984年」を超える超監視社会が、中国で形成されつつあります。

356

偉業に気づかない日本人

2019年3月21日

ロイター・オンライン版に、「英国人が見た平成日本、偉業を誇らない不思議」というタイトルの記事が載っていました。書いたのは、30年近く日本に住んでいるイギリス人ジャーナリストです。

他国でできないことをやっていながら、日本人にとっては当たり前なので、偉業として誇るどころか、偉業と気づいていないことがたくさんあります(エッセイ8「世界は日本化する」エッセイ45「世界が日本人に注目している」)。偉業に気づけば他国民へアピールでき、世界における日本人の立ち位置の強化につながります。
日本人が気づいていない日本の短所もあります(エッセイ56「教育と医療の重大な欠陥」)。日本の生活を改善するためには、まず問題の所在に気づく必要があります。

滞在が長い外国人は、日本の長所も短所もしっかりと把握しています。外国人の目を通すことによって、私たちは日本を客観的に見ることができます。

上記のジャーナリストが最も驚いているのは、世界最先端の日本の公共交通です。異なる鉄道会社が乗り入れている駅や路線における運営が、スムースなことは、個人も企業も自己主張が強いイギリス人にとっては、驚異的なのです。各社毎に異なる技術や時刻表のすり合わせ、運賃の分配、給与の支払いなどの面倒な問題を、どのように解決しているのか、全く想像できないそうです。問題解決の底に他者への譲り合いの精神があり、それは自己主張とは正反対なので、イギリス人にはなかなか理解できません。

このレポートの結論は、日本社会は安定していて、危機への対応力と危機からの回復力を備えている、となっています。

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日本の労働生産性の低さが、識者によって指摘されます。公共機関の運営に見られるように、対価として要求しないところにまで、日本人は心血を注いで仕事をします。これは、労働生産性の評価に反映されません。
車にバンパーがついていた頃、日本人は、見えないバンパーの裏まで磨いていました。見えないところにも細心の注意を払うことで、信頼性の高い製品を生み出せます。バンパーの裏まで磨くコストを、価格に適正に反映させないことが、労働生産性の評価を低める要素になります。労働生産性の問題は、表面を見ただけでは誤解を生みます。

我が家にイタリア製の家具があります。デザインはきれいですが、製造はいい加減で、テーブルが傾いたりします。耐久力も劣ります。

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これからは、モノづくりよりもITを活用した産業だ、とよく言われます。日本人は、そのようなかん言に迷わされる必要がありません。IT企業のトップは、1年で入れ替わるほど栄枯盛衰が激しく、日本人の精神に合いません。

人は、デジタル・データを食べて生きているわけではなく、モノが不要になることはありません。ITは、モノづくりを完璧にするための道具で、それ自体を産業の目的にするのは危険です。イタリアを超えるデザイン制作のためにITを使い、製造の現場では、ITを使って、日本人が得意なモノづくりに磨きをかけることが、大事です。

355

6人に1人が貧困層の日本

2019年3月2日

日本人には耐える文化があるだけではなく、自分が貧困であることを恥じる心理があります。以前、生活保護を受けるよりも死を選んだ老人がいました。

エッセイ56「教育と医療の重大な欠陥」に書いたように、国民所得が世界第17位に低下した日本。6人に1人が貧困層に沈んでいますが、貧困問題はなかなか大きな議論にはなりません。

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問題が特に深刻なのはシングル・マザーです。母親の生活が大変なだけではなく、貧困が、子供の成長に大きな悪影響を及ぼしています。親による、子供への虐待につながることもあります。
貧困家庭への経済的・社会的な支援が必要なことは、明らかです。特に、シングル・マザーが働けるようになるための支援があれば、不足している労働力の確保や、子供の教育改善に大きく貢献します。教育の無償化と保育園・幼稚園の充実が、大事な一歩になるのは確かです。

日本の出生率は低いとは言っても1.43で、中国の1.1~1.2や韓国の0.98を上回っています。子育て世代を援助しなければ、韓国並みに出生率が下がり、労働力不足がさらに深刻になります。

高齢化で余り注意されない問題に、女性の平均寿命が長いために、単身女性高齢者が貧困に陥りやすい、という問題があります。単身高齢者世帯の7割が女性なので、夫が亡くなったあとの年金などの収入の激減が、多くの女性の生活を直撃します。

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エッセイ56で指摘したように、日本の国民負担率は、既にイギリス並みになっています。これから消費税を上げて、社会保障がイギリス以上になれば、救われる人たちがいますが、そうなるのでしょうか?

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貨幣が消える未来

2019年3月2日

かつて、人々は物々交換で生活の糧を得ていました。自分が持っている物と、他人が持っている物を交換するには、重い物を互いに持ち寄らなければならず、労力が大変でした。貨幣は、その労力の多くを省いただけではなく、どのような必需品にでも使えるために、時期を選ばない効率的な物の入手が可能になりました。

銀行は、誰かの余裕資金を集め、資金が必要な人に資金を貸し出すことによって、手数料収入を得る方向で発展しました。

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ネットの発展が、貨幣経済を直撃しています。クラウド・ファンディングやプラットフォーマーの台頭、仮想通貨を介した送金などによって、銀行の主要業務が侵食されています。
エッセイ47「AIがもたらす近未来の現実」に書いた、近未来の少し先に、銀行どころか貨幣が不要になる世界があります。そんな未来世界について、哲学仲間の会合で話しました。

野菜が手元に届くまでの過程を考えてみます。耕作機械で土地を耕し、種をまき、肥料を施し、水をやり、野菜を育てます。収穫した野菜を箱に詰め、消費者へ届けます。現在の技術でも、この過程の大部分をロボットに任せることができます。耕作機械や肥料を製品として仕上げるには、鉱山での掘削や工場での製品化が必要になりますが、これもロボットができます。
鉱山掘削から必需品の消費者配送までの全ての過程を、中央のサーバーが管理できるばかりか、コンピューターが、人出を借りずにプログラムを改良するようになります。

全過程に人が関わらなければ、物々交換も貨幣もない世界が到来します。コンピューター・ネットワークが高度になるにつれ、種々の無料か低コストのサービスが広がり、既に貨幣が消える未来が見えています。

353

陽光中毒のバセンジー

2019年2月10日

ステーキになってしまうのもいとわずに、真夏の直射日光が当たるバルコニーで、昼寝をするラッキー(エッセイ60「これがバセンジーの奇妙な声」)。そんな真夏のラッキーは、バセンジーとしては面目躍如です。

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寒波が襲来しているために、今日の最高気温は7度でした。昨日は雪が降り、外にはまだ雪が残っています。アフリカで誕生したバセンジーのラッキーには、寒さでふるえる上がるような気温です。

太陽が出た今日の昼下がりのことでした。ラッキーがガラス戸をたたいて、バルコニーへ出る意思表示をしました。冬の間は服を着せていますが、かゆがっていたために、今日は服を着せませんでした。まさか、「裸」でバルコニーで昼寝をするとは思っていませんでしたが、何度もガラス戸をたたくので、戸を開けました。

実は、真冬でもラッキーはバルコニーで昼寝をします。太陽の光の魅力は、寒さを上回っています。アフリカのサバンナで誕生した先祖の血が、太陽の光を見ると騒ぎ、居てもたってもいられなくなるのです(エッセイ50「サバンナで生まれた人・犬運命共同体」)。

2~3日ぶりに出た陽光の魅力にさからえずに、「裸」のままでバルコニーへ出ましたが、寒さには抵抗しきれず、10分ほどで部屋へ戻りました。それでも、直射日光の下で寝ころがったので大満足。その後は、窓際に敷いた毛布の上に寝そべって、ガラス戸越しの陽光を受けながら、スヤスヤスヤスヤ。

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中国の軍門に下ったドイツ

2019年2月5日

一昨年まで、ドイツは、露骨なジャパン・パッシング政策を取っていました。中国のご機嫌伺いに必死になっていたのです。ドイツにとっては、中国が世界最大の貿易相手国です。自動車などの、最も重要な産業の輸出先になっています。

ところが、最先端のロボット製造企業が、中国の企業に買われたり、ドイツの情報機関が、中国の脅威を厳しく警告するようになりました(No.323)。アメリカが、対中全面攻撃を開始したこともあって、グローバルな産業ネットワークの中心に中国を置くことが、ドイツにとっては危険になりました。

メルケル政権は、昨年中ごろから、日本へ秋波を送るようになりました。議会でのメルケルの証言、「ロシアの両側に位置するドイツと日本は、経済や外交で協力しあうことで、両国とも大きな利益を得ることができる」。

中国へのフォルクスワーゲンなどの輸出が、莫大とはいっても、中国企業の技術が、ドイツのレベルに達すれば、同一品質の車をより安い価格で製造・販売するようになり、ドイツ企業を駆逐してしまいます。そのいい例が、スマホのサムソンやアップルです。

中国は、先進国の先端技術を入手するために、巨大市場というニンジンを目の前にぶらさげています(エッセイ61「中国の覇権奪取戦略」)。

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己の利益のためならば、ジャパン・パッシングでもジャパン・アクセプティングでも、何でも構わないメルケル。まだ中国に未練たらたらで、来日中にこんなことを言いました。
「ファーウェイが、国にデータを渡さないようにするために、中国政府と協議することが大事です。ドイツで事業を展開したいのであれば、セキュリティーは重要な問題になるので、中国政府が、中国製品のデータに一切アクセスしないことを、明確にする必要があります」

メルケルは、自国の情報機関に教えを請うたほうが、いいようです。もっとも、スノーデンの告白で明らかになったように、アメリカのNSAが、メルケルのスマホを10年間も盗聴していたので、ドイツの情報機関の能力は、大したことがないようです。

通信機器を製造している会社は、不正プログラムでも不正チップでも、自社製品へ自由に埋め込むことができます(No.351)。これらのバックドアは、発見される可能性がありますが、ソースコードのロックを解除するための暗号を、情報当局へ教えれば、バックドアが発見される危険を冒すことなく、情報機関は、いつでも自由に通信機器へアクセスできます。

国の最高権力機関は、強権を使って、いつでも通信機器へ侵入できるのです。メルケルが問うべきは、「中国政府には、極秘情報の収集や、ネットを介して、他国のインフラや軍事施設を攻撃する意図があるのかどうか」、ということです。中国政府がやっている、他国へのサイバー攻撃、自国民の監視や情報操作、法律無視の逮捕・拘禁を見れば、中国政府は、違法行為を大々的に実行していて、120%の確信犯であることが分かります。習近平にとって、寝ぼけたことを言っているメルケルは、赤子のようなものです。

351

死闘ファーウェイ

2019年1月23日

米中覇権戦争の第1章で、ファーウェイを巡る争いが山場になります。
昨年4月に、米政府が、中国の通信機器大手ZTEに制裁を科しました(エッセイ59「中国をつぶすアメリカの戦略」)。米企業が、チップセットなどを、ZTEへ販売することを禁じたのです。効果は、米政府の予想をはるかに超えていました。中国政府と一体になっているZTEが、突然に破産状態になり、あわてた習近平がトランプに直訴しました。米政府の要求を受け入れることを条件に、この制裁は解除されました。

味を占めたアメリカが、次の標的としてファーウェイを選んだのは、自然の成り行きでした。ファーウェイは、世界最大の通信機器サプライヤーで、スマホ製造では世界第2位。次世代高速通信技術5Gでは、世界のトップを走っています。この企業が、中国が覇権を握るための「中国製造2025」構想で、中心的な役割を担っています。

10年間もファーウェイを探っていた米情報機関が、ファーウェイ製品からバックドアを発見した、と報道されました。それは、ソースコードに埋め込まれた不正プログラムや、基盤に埋め込まれた米粒のように小さいチップでした。バックドアを通して、ユーザーが知らないうちに、通信機器が乗っ取られてしまいます。

ファーウェイは、バックドアがあるという証拠を開示するように、と言っています。証拠を開示すれば、ファーウェイはすぐに修正してしまいます。また、バックドアを逆手に取って、米情報機関が、ファーウェイから中国情報機関へ侵入することが可能なので、証拠をつかんでいても、米情報機関が開示するとは思えません。
バックッドアがなくても、ファーウェイが、中国当局へロック解除のための暗号を教えれば、当局は、自由に通信機器へ入り込めます。ネットの戦争は、魑魅魍魎の世界です(拙著「サイバー戦争の深い闇」)。

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米司法省の要請を受けて、昨年12月1日に、カナダ当局が、ファーウェイ創業者の娘の副社長を、逮捕しました(No.342)。その後の中国側の対応は国家ぐるみで、基幹企業のファーウェイが、政府と一体化していることを、自らさらけだしてしまいました。

中国政府関係者が、繰り返し不当逮捕という声明を出すと同時に、今まで認めていなかった、トランプの娘の会社の5つの登録商標を、承認しました。
カナダ人数人が拘束されただけではなく、麻薬密輸罪で、カナダ人被告が受けていた懲役14年の判決が、突然に死刑に変更されました。副社長が米当局に引き渡されると、ファーウェイ内部の闇がアメリカに知られる恐れがあり、中国は露骨な脅しに出たのです。強いアメリカではなく、弱いカナダに最大限の圧力をかけるという、いつものやり方です。

ファーウェイ創業者が、「トランプは偉大な大統領です」と、お世辞のコメントを出しました。初めてメディアの前に現れ、「私は共産党員で中国の愛国者です。社員には党員が大勢います」と言いながら、「政府との不適切な関係は一切なく、情報提供を要請されたこともありません」と言い切りました。

国民を監視・統制するための、巨大なネットワークを構築した中国政府が、ファーウェイだけを規制の外に置いている、という声明を信じるひとがいるとは、思えません。中国の国家情報法は、企業や市民に、国の情報活動に協力することを、義務づけています。違反には罰があります。

350

米空母撃沈で中国勝利?

2019年1月6日

中国関連で、穏やかではないニュースが続いています(No.347から続く)。

1月2日に、アメリカのマティス国防長官の辞任を受けて就任した、シャナハン国防長官代行が、国防当局幹部の臨時会合で、基本方針を述べました。中国への軍事的な対抗を、最優先の課題にする意向が、示されました。
「中国、中国、中国。軍事作戦を実行する際には、中国のことを忘れてはならない」

1月4日に、中国の最高軍事機関(中央軍事委員会)で、習近平が訓辞を行いました。
「予測可能・不可能な危険と困難が増している。軍事闘争の準備をしっかりと行え」

この声明に先立つ12月20日に、人民解放軍元将軍の羅援(ラエン)が、軍事貿易会議で演説しました。
「アメリカが最も怖がっているのは、戦死者が出ることだ。アメリカに勝利する最も簡単な方法は、原子力空母2艘を沈め、1万人以上の死者を出すこと。アメリカは恐怖に震えるだろう」

現代の海戦では、空母が、強力な兵器というよりも格好の標的になる、という脆弱性を持っていることは、専門家の間では常識になっています。ミサイルを数十発も発射すれば、2艘の空母を撃沈できます。中国近海に展開した空母を撃沈するのは、羅援の言うように、容易なことは間違いありません。

羅援の判断が間違っているのは、その後のアメリカの反応です。アメリカは、第2次世界大戦後、ほとんど休みなく戦っていて、国が戦争マシンになっています。普通のハワイクルーズで、軍人に感謝するセレモニーがあったりします(エッセイ49「ハワイ楽園4島めぐりクルーズ」)。

米軍の死者数は、ベトナム6万人、イラク4800人、アフガニスタン2400人になっています。アメリカの覇権に挑戦し、太平洋の西半分を、自国の支配下に置くことを目論んでいる中国が、空母2艘を撃沈したならば、アメリカは降参して中国の軍門に下る、と判断するのは、決定的に間違っている(ベトナム、イラク、アフガニスタンは、アメリカの覇権に挑戦しなかった)。中国は判断を間違えないように。。。。。

349

日本的な男を愛した「ロリータ」

2019年1月5日

キューブリックの映画を見ています。「ロリータ」は1962年の作品で、ロリコンという言葉が、この映画から生まれました。コメディタッチなので、キューブリックの他の多くの作品のように、額にしわを寄せて理解する努力をする必要は、ありません。

中年の教授が、下宿先の若いロリータに、心底から惚れこんでしまいます。ストーリーは単純なので、ここには書きません。

全体を通して、キューブリックは、生きるということに対する、女性のしたたかさを描いていると思います。このしたたかさは、子を産んで育てなければならない、メスの生物学的な本能から出ています。オスには、このようなメスを守る本能が備わっているので、教授のような行動を取ってしまいます。この映画のように、男が女にほんろうされるのは、「自然」なのです。

最後に、ロリータは教授から逃げてしまい、貧乏な男と結婚します。ロリータは、教授に金の工面をお願いする手紙を書きます。2人の家を訪れた教授は、妊娠しているロリータを、無理矢理に連れ出そうとします。拒否するロリータに、教授が大金を渡します。
金をもらって大喜びするロリータと、ロリータを手に入れることができず、失意のどん底に沈む教授が、対照的です。キューブリックは、誰が見ても誤解のしようがないほど明確に、自分の女性観を表現しています。

出会いの最後のシーンで、ロリータは、自分がなぜ夫を愛しているのかを述べます。「素敵な日本的な東洋的人生哲学を持っている」ので、深く愛してしまったというのです。原作を読んでいないので分かりませんが、ナボコフがこのように書いているのかもしれません。どちらにしても、キューブリックがロリータにこのように言わせたことから、彼が日本的な精神に憧れを持っていたことは、確かです。ヨーロッパ系の人たちの心のどこかに、このような思いが連綿と受け継がれていることを、日本人としては意識していたいと思います(エッセイ45「世界が日本人に注目している」)。

348

AIは人間になれるか?

2019年1月4日

プライム・ビデオで映画「A.I.」を見ました。「2001年宇宙の旅」を監督したキューブリックが企画しましたが、存命中に制作できませんでした。彼の死後に、スピルバーグがこの作品を完成しました。ストーリーは次の通りです。

人間そっくりな少年型ロボットが、不治の病に苦しむ息子がいる、若い夫婦のもとへ送られました。人間そっくりなロボットに、妻は最初は怖がります。ロボットは、持ち主の女性を母として愛するように作られていたので、女性のあとを追い続けます。

機械に過ぎないロボットの愛とは何か?ロボットに向き合う、人間である女性のロボットへの愛とは何か?物語りは、ロボットと人間の壁を越えた、愛の物語になっています。最後に、人類が死に絶えた地球で、愛によって昇華された、ロボットと女性の死の情景が描かれます。

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まだ原始的ですが、すでにAIは私たちの生活に入り込んでいます。AIに学ばせれば、人間の表情や声音、会話、態度から、人間の感情を読み取ることが、可能になります。そのような研究が進んでいます。人間の感情を読み取って、AIが、人間の喜怒哀楽に相当する表現をすることも、可能になります。

その場合、AIは感情を持っていると言えるのでしょうか?科学的に突き放した言い方をすると、人間の感情は、脳内の化学反応に過ぎません。AIの場合は、コンピューターの電気信号が、化学反応に取って代わっているだけです。
AIを疑似人間にすることは、可能です。ただし、人間が想像できる範囲内で。

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AIを生物のように進化させることはできません。ハードなAIに比べて、生物はソフトそのものです。物体としては、極端に脆弱でもろい。ところが、この脆弱性が生物の強みで、環境に合わせてからだをどんどん変えることができます。生物は、脆弱であるがために、個体や種が容易に死亡し絶滅します。生物の進化にとって、これが決定的に重要な意味を持っています(エッセイ2「絶滅をバネに進化する生物」)。

生物が誕生してから38億年。地球の環境が繰り返し激変しても、生物はしたたかに生き抜きました。多種多様な激変に耐える能力を、生物は38億年の間に獲得しました。この能力は、遺伝子、細胞から個体や種まで、全てのレベルで機能しています。AIにはこれがありません。

数万年か数十万年に1回の、すさまじい太陽バーストがあれば、莫大な量の電磁波・粒子線・粒子が、地球へ降り注ぎます。ハードなからだを持ち、電気信号で生きるAIは、この太陽バーストによって死に絶えてしまいます。太陽系の近くで超新星爆発があっても、降り注ぐ放射線に耐えきれずに、AIの生体機能が停止します。

347

波乱の幕開け

2019年1月4日

日本以外の株式市場では、1月2日に取り引きが開始されました。上海市場は、暮れの最後の取引に比べて、開始時にはプラス圏にありましたが、ナイアガラ瀑布のように急落。1時間でー1%を超えました。他の市場も同様で、香港市場の下げはー2%を超えました。

中国の経済鈍化を理由に、2日に、アップルが売上高予想を大きく引き下げました。中国でのアップル関連の人員削減は、10万人になると予想されています。このニュースで、ニューヨ-ク市場が3%も下げました。その流れを引き継いで、最初の取引になる4日の東京市場でも、3%ほど下げています。

この波乱の幕開けが、今年が激動の年になることを示唆しています(No.345)。

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年頭のニュースに、株式市場よりももっと気になる報道がありました。12月31日に、アメリカで「アジア再保証推進法」が成立しました。この法律は、明らかに中国と対決するための法律です。かなりな数の類似の法律が、すでに成立しました(エッセイ62「アメリカの対中国全面攻撃」)。
今回の法律の特徴は、アジア各国、特にASEANを安保と経済の両面から支援することを、明示しているところにあります。特に、経済のみならず軍事でも、台湾に具体的な支援をすることを、目論んでいます。防衛装備品の定期的な売却や、米政府高官の交流促進を掲げています。中国が最もいやがる政策を打ち出したのです。

これに対して、1月2日に、習近平が台湾問題についての演説を行いました。
「台湾は中国の一部であり、いかなる勢力も変えることはできない。平和統一を目指すのが基本だが、外部の干渉や台湾独立勢力に対して、武力行使を放棄することはない。台湾問題を先送りすることはできない」

今年は、習もトランプも、国内での立ち位置が今までよりも危うくなります。国内問題から国民の目をそらすために、対外的な紛争を起こすことを、権力者はしばしばやります。台湾海峡や南シナ海で軍事衝突が発生することは、夢想ではない、と心得ているほうが良さそうです。

346

夢と現実

2018年12月21日

スタニスワフ・レムの小説「ソラリスの陽のもとに」に、次のような1節があります(要約)。

『空も、大地も、天井も、床も、壁もない奇妙な空間の中で、非常に近い距離にあるものが、不自然なほどおそろしくはっきりと見えた。私は、目を覚ますたびに、夢こそが本当の現実であって、私が目を開いて見ている世界は、生気を失った何かの影ではないだろうか、という錯覚におちいるのだった

哲学仲間との話し合いで、私は次のようなことを言いました。

私たちは、今夢の中にいるかもしれないけれども、これが夢ということの証明は不可能です。あるいは、これは現実だと思っても、現実ということを証明するのも不可能です

夢であることが証明されるのは、夢から覚めたときです。現実であることの証明は、夢の中へ入らなければできません。ただし、哲学的に厳密な思索展開をすると、この2つの証明法は成立しないことが分かります。

夢から覚めたと思っている状態が、夢である可能性があります。現実から夢に入ったと思っても、その現実が夢だった可能性を否定できません。すると、理解とは逆に、夢から現実に入ったことになります。こういうややこしい議論をするのが、哲学です。

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当サイトのタイトルが「夢と現実」になっています。私たちの宇宙が、高次元時空の1つの構成要素であることを受け入れると、夢と現実を見分けることができなくなる、という意味を含めています。
もっと現実的には、客観的な生活環境が1つであるにもかかわらず、個々人の判断が異なるので、何が現実で何が夢なのかを知ることは誰にもできない、というような意味も含めています。

345

変わらない中国

2018年12月21日

3日前に中国の改革開放40周年式典があり、習近平が演説をしました。アメリカの圧力から逃げるために、国家戦略の軌道修正をするかどうかが、事前に注目されていました。私は、軌道修正などはあり得ないと予想していましたが、結果は予想通りでした。共産党への権力集中が強調される、強気一点張りの演説でした。

習は、2012年に「中華民族の偉大な復興」宣言をしてから、「一帯一路」、「中国製造2025」、「社会主義現代化強国」などの国家目標をぶち上げると同時に、腐敗撲滅運動で政敵を抹殺してきました(「中国の覇権奪取戦略」)。アメリカの圧力によって後退すれば、偉大な指導者というイメージが打撃を受けます。抑圧され沈黙させられている政敵は、習が弱みを見せれば反撃を開始します。
習には、これまでに敷いたレールの上を走る以外の選択肢は、ありません。

* * * * * * * *

アメリカも同様です。ここ2年ほど、中国と対決するために、国の骨格が変わるほどの、大規模な組織、戦略、予算の再構築を行ってきました(「アメリカの対中国全面攻撃」)。万全の体制を整えてから戦端を開いたので、移り気なトランプがツイッターで何かをつぶやいても、アメリカの前進が止まることはありません。

2018年は開戦が宣言された年ですが、2019年は戦いが目に見えて広がる年になります。両国の追加関税の経済への影響が、さらに具体的かつ深刻になります。まず注目すべきは、中国からの2000億ドル分の輸入にアメリカがかけている、10%の関税が、中国が抜本的な譲歩をしない限り、25%に上げられることです。中国にとっては、アメリカが要求するような譲歩をすることは不可能なので、この関税の上乗せが、3月に開始されると思います。

344

スパイ映画のような中国VIPの逮捕

2018年12月10日

ファーウェイ副会長の逮捕は、虚々実々、まるでスパイ映画です(No.342)。彼女は、中国名の本名以外に、英語の名前を2つ持っています。パスポートは、中国や香港で発行されたものを、少なくとも7つ保有しているようです。身分を隠しながら世界で活動する(暗躍する?)、彼女の姿が見えてきます。

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米当局が捜査していることを知っていたらしく、10代後半の息子がボストンの学校に通っているにもかかわらず、昨年からアメリカへの入国を避けていました。ちなみに、バンクーバーに自宅が2つあり、家族も住んでいるそうです(副会長の弁護士による)。

副会長が、香港からバンクーバー乗り継ぎでメキシコへ行くことを知った米当局が、数日前にカナダ当局へ逮捕の要請をしました。米当局の動きが察知されれば、副会長がメキシコ行きを断念することは明らかでした。作戦は極秘に進められ、トランプにも知らされていなかったのです。

アメリカのこの情報戦での勝利は、違法行為をした中国企業トップの逮捕というだけでは、済みません。「一私企業」の副会長の逮捕に、中国政府が激しく反発したことからも分かるように、米中対決におけるコーナー・ストーンになります(No.342)。

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報復として、中国政府が、中国に滞在するアメリカなどの企業の幹部を、「違法行為」で逮捕する可能性があることを、メディアが指摘しています。しかし、このような逮捕は、窮地にある中国をさらに追い込むことになり、自暴自棄にでもならない限り、実行は難しい。報復するとすれば、報復と明確には言わない、グレー・ゾーンにおける報復になると思います。しかし、報復であることは、誰にでも分かるようにするはずです。

343

クリスマスに息子を待ち続けた犬

2018年12月10日

毎年、クリスマスの前になると、戻らない息子を玄関で待ち続けたモンタのことを、ここに書いています(エッセイ15「最後まで大きく燃やした命の炎」)。その2週間後に永眠したモンタがふびんで、待ち続けるモンタの姿が、記憶に鮮烈によみがえるのです。

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今年は、この時期に、私のエッセイを読んだ方(Hさんとします)から、モンタとの関連で温かいメッセージをいただきました。Hさんは、とても甘えん坊で、人間として生きているように見える犬を飼っています。それで、モンタに強い共感を持ったのです。

モンタの一生を3つのエッセイに書きました(エッセイ111415)。全部を読んでから、Hさんは、エッセイ15の付録の「豊かな犬の表情」のページを開きました。そのページに、撮りためたモンタの顔写真の全てが載っています。

モンタの感情が直接に出ている写真を見て、Hさんの涙が止まらなくなったそうです。今まで気づかなかったことに気づいたそうです。Hさん、メールを読んで私も感動しました。ありがとうございます。

342

中国最大民営企業をつぶすアメリカ

2018年12月7日

ファーウェイは中国最大の民営企業で、輸出が中国最大です。通信基地局の製造・販売で世界一、スマホの出荷台数で2位です。民営企業とはいっても、中国の大企業は政府と一体化しています。また、ファーウェイの創業者は人民解放軍出身です。

米司法省の要請を受けたカナダ当局が、ファーウェイの副会長をバンクーバーで逮捕しました。副会長はファーウェイ創業者の娘。逮捕日は今月の1日で、米中首脳会談が行われた日です。報道によると、協議の火種になることを恐れた米司法当局が、トランプには事前に計画を知らせていなかったようです。何でもしゃべってしまう(ツイッターを含めて)トランプへの警戒感が、当局にあるのは確かです。

対中国政策で、日和見主義者のトランプはずしが進んでいることに、注意が必要です。エッセイ61「中国の覇権奪取戦略」エッセイ62「アメリカの対中国全面攻撃」を参照してください。

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4月に、イランや北朝鮮へ違法に通信機器を輸出したZTEに、制裁が下されました。米政府が、チップセットを売ることを米企業に禁じたおかげで、ZTEは倒産の憂き目にあいました。しかし、「親友・習」に頼まれたトランプが、制裁を解除してしまいました。
ファーウェイは、対イラン制裁に違反しただけではなく、資金洗浄にも関与したようです。逮捕された副社長は財務責任者です。

米当局は、知的財産権搾取の疑いで、2016年頃からファーウェイを捜査していました。ZTEよりもずっと大きいだけではなく、「罪状」がZTEよりも深刻になるファーウェイの副会長の逮捕は、米中対決への米政権の本気度をあらためて示しました。
アメリカは、「中国製造2025」の中心になる企業をたたきつぶそうとしています。日米貿易摩擦で、日本のエレクトロニクス産業に大打撃を与えたライトハイザーが、中国企業つぶしで先頭に立っています。

米当局は、中国企業の通信機器を経由して、中国が軍事情報などを盗み出している、と判断しています。2020年から、中国ハイテク企業の製品を使用している企業(社内使用だけでも)に対して、米政府とのいかなる取引も禁止します。
すでに、オーストラリアとニュージーランドが、次世代通信ネットワーク(5G)構築から、ファーウェイとZTEを締め出しました。英通信大手は、5Gだけではなく、基幹ネットワーク全体からファーウェイをはずします。日本政府も、ファーウェイとZTEの製品を中央省庁などから排除する予定です。

341

外国企業吸収のフランス手法、日産

2018年11月22日

ゴーンが逮捕され、日産がメディアの注目を集めています。日産とルノーの提携関係に暗雲が垂れ込めた、と言われます。現状では、日産株の43%をルノーが保有し、ルノー株の15%をフランス政府が保有しています。日産はルノー株の15%を保有。

日産の売上高はルノーの1.5倍ですが、両社合計利益の7割以上を、日産がたたき出しています。
フランス側は、統合によって、高収益体質の日産をフランスの手中に収めることを、考えています。ゴーン逮捕を受けてフランス政府が動いています。

フランス側の筋書き通りに統合が進めば、小が大を呑み込んで、日産は、ルノーの子会社としてフランスの会社になります。日本人にはピンと来ないフランスの野望ですが、非現実的と思うと大きな間違いです。

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ドイツのトップ化学メーカーに、ヘキストという会社がありました。1968年に、フランスのずっと小さい製薬会社ルーセルと資本提携をしました。ルーセルが支配する持ち株会社が、過半数の株を持ったときに、ヘキストがフランスの会社に吸収される道路が、敷かれました。その後、M&Aなどの紆余曲折を経て、最初の資本提携から36年後の2004年に、サノフィ・アベンティスが誕生しました。サノフィはパリに本社を持つフランスの会社です。これによって、フランスの小さい会社による、ドイツの大きい会社の吸収が完了しました。

日産は1999年年にルノーの傘下に入りました。2006年に、ルノーが日産株の44%を得て、日産とルノーが連結会社になりました。その後、三菱などとアライアンスを結びました。

報道によると、フランス政府などの要請で、ゴーンが、昨年にも日産とルノーを統合する可能性があったそうです。ゴーンが失脚しなければ(失脚しても)、フランス側からの統合の圧力は、今後も続きそうです。

日産がルノーの傘下に入ってから19年。稼ぎ頭の日産を、完全にフランスの手中に収めたいフランス側。フランスには、ヘキストを手に入れたサクセス・ストリーがあるので、野望が消えることはないと思います。日産を日本の会社にしておきたい関係者は、ヘキスト吸収の歴史をよく学ぶ必要がありそうです。

340

見えてきたペンスの立ち位置

2018年11月18日

現在、ASEAN首脳会議が開かれています。習近平などの各国トップ首脳が参加しているにも関わらず、アメリカからはトランプではなくペンス副大統領が参加しています。多くのメディアが、米政権のアジアへの関与が本気かどうか疑わしい、と述べています。

これらのジャーナリストの見方は表層的過ぎます。1つひとつのニュースを把握し、全体を組み上げると真実が浮かび上がってくるのですが、その作業をやらないジャーナリストがかなりいます。私は、トランプではなくペンスが参加したことに、とても大きな意味があると判断しています。

エッセイ62「アメリカの対中国全面攻撃」と、作者の思い337「ペンス演説のミステリー」を読んでください。10月4日に、中国に対する事実上の宣戦布告演説を行ったのが、ペンスでした。この演説を、今年の最も重要なできごとと判断するジャーナリストがいますから、全てのジャーナリストが寝ぼけているわけではありません。

今月末にトランプ・習会談が予定されていて、それに向けた対策として、貿易摩擦関連のアメリカの要求に応える膨大なリストを、中国が提出しました。「Trump First」で日和見主義者のトランプは、中国ととても良いディール(取り引き)ができると喜んでいます。中国にとってトランプは扱いやすい子供です。

リストの内容は公表されていませんが、例によって、最も重要な問題で具体的な約束をしない、逃げの対応であることは容易に想像できます。

米政権の対中強硬派(ナバロ、ライトハイザー、ペンスなど)は、中国の目くらましにはだまされず、リストに対しても、トランプよりももっと強硬な発言をしています。

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この関連で、昨日のオンライン版ニューヨーク・タイムズに載った、2つの記事を見逃すことができません。

世界最強の軍事大国アメリカにおける軍隊の影響力には、軍事独裁国家に近い側面があります。普通のクルーズでも、軍人の国家への貢献が賞賛されるセレモニーがあります(エッセイ49「ハワイ楽園4島めぐりクルーズ」)。記事の1つは、米軍の中で、トランプへの不信感が増大していることを、指摘しています。ちなみに、大統領は米軍の最高司令官です。

もう1つの記事は、トランプがペンスの忠誠心に確信を持てず、ペンスの忠誠心を側近に度々確認するというものです。この記事で、ペンスが、共和党の中核的な人たちからとても強い信任を得ていることが、述べられています。

慎重なペンスの言動が次第に大胆になり、トランプと異なる声明を出すことも躊躇しなくなったことの意味は、とても大きいのです。日本は、ペンスとの相互理解を深めることが大事です。

339

外国人クルーに大人気のラーメン店

2018年11月13日

JR成田駅に近い成田山表参道に、「ラーメンばやし」という名のラーメン店があります。成田空港に近いこともあって、海外航空会社のクルーが詰めかける店として有名です。

人一倍好奇心が旺盛な私と妻は、パイロットやキャビン・アテンダントが好む、ラーメンの味を知りたくてラーメンばやしへ行ってきました。ラーメンが海外で人気を博すようになる前から、欧米の人には、生魚をのせた寿司よりも、ラーメンのほうが口に合うのではないか、という思いが私にはありました。ただし、欧米の料理に比べて、ラーメンは余りにも塩気が強すぎることが、気になりました。それに、ヨーロッパ系の妻も同意しました。

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店には日本人よりも外国人のほうが多く、彼らの態度はまさしく常連のクルーでした。その日は特にメキシコ人が多く、店の中で自由奔放にふるまっていました。

私は、外国人の好みを知るために、一番人気の四川麺を注文し、妻はおいしそうに見えるということで、ねぎ味噌チャーシューを注文しました。四川麺には肉がなく、具は野菜だけ。それがまず意外でした。スープの味は味噌がベースで、豚骨ラーメンのように欧米人好みの重い味です。チャーシューはもっと軽い味で、日本人好みです。麺の太さが微妙に違い、気配りしていることが分かりました。

期待に反して塩気は強く、普通のラーメンと同じです。妻を除いて、欧米の人たちも、塩気の強いラーメンを好きなことが分かりました。それどころか、1人で来ていた外国人男性(国籍不明)は、ラーメンに醤油を注いで、塩気の強いラーメンの塩気をさらに強くしていました。その男性は、私の先入観を壊してくれました。

1人で来ていたメキシコ人女性は、ラーメン・ライスを注文し、ボリューム一杯の昼食を楽しんでいました。断っておきますが、ラーメンばやしのどんぶりは、昔のどんぶりのように底が丸く広がっていて、麺もスープもたくさん入ります。

カップルで来ていたメキシコ人男性が、奇妙な食べ方をしていました。枝豆3人前とラーメンを注文し、スープを飲みながら枝豆をきれいに食べたのです。けれども、なぜか麺を残しました。女性は普通の食べ方をしていました。

いろいろと観察できて、有意義な時間を過ごしました。

338

不法移民が増えるトランプの政策

2018年11月6日

貧困と暴力にあえぐ中米のエルサルバドルなどから、数千人の移民が、千数百キロの道のりを徒歩でアメリカへ向かっています。1日に50キロも歩き、少なくとも1か月はかかると思われます。現在はメキシコを歩いていて、着の身着のままの移民に食料を与えるなどの活動を、メキシコ人がやっています。

トランプはメキシコ国境へ1万5千人の兵士を派遣し、必要ならば発砲させると言っています。移民が集団で北上し始めたのは、トランプの政策が影響しています。単独では途中で暴力をふるわれたり、アメリカ入国時に容易に追い返される可能性があります。集団ならば、安全にアメリカへ入れると踏んだのです。

集団移民に怒ったトランプは、中南米諸国に経済的制裁をかける、と言っています。トランプの判断は矛盾に満ちています。自分が生まれた国に仕事があり、安心して生活ができるならば、わざわざ苦しい思いをして他国へ移住する人は、多くはありません。トランプは、貧しい国をさらに貧しくすることによって、生きるためにアメリカへ向かう移民を増やしているのです。

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NAFTAのおかげで、メキシコで製造した製品をアメリカへ安く輸出でき、日本企業などがメキシコに工場を建設しました。そうやってメキシコが豊かになれば、アメリカへ移住するメキシコ人が確実に減ったのです。キューバも、オバマが関係改善を目指したおかげで、海外からの観光客が増えることを予想し、外国資本がホテルなどの建設に乗り出しました。ところが、トランプが時計の針を逆回転させ、対決姿勢を鮮明にしました。キューバを今までのように貧しいままにすれば、今までと同じように、キューバからアメリカへ不法移民が渡ります。

不法移民を抑える最善の策は、国境に壁を築くことではなく、近隣諸国を豊かにすることであるのは、誰にでも分ります。近隣諸国が豊かになれば、スターバックスでコーヒーを飲む人ばかりか、アメリカ製品をアマゾンから購入する人が増えます。トランプ・ホテルを作れば、トランプの会社が儲かります。

トランプは、なぜ不法移民を増やす政策を取るのでしょうか?トランプの支持基盤である南部の農家は、安い不法移民を使って事業を行っています。若い人は、年寄りにはできない困難を乗り越えられるので、不法移民は若く、それがアメリカの高齢化を遅らせることにつながっています。トランプの本音は不法移民をほしいのでは?

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ペンス演説のミステリー

2018年11月6日

アメリカの副大統領は、通常は大統領の陰に隠れています。不慮の事故などで大統領が職務を遂行できない場合に、大統領代行として表に出ます。ペンス副大統領はとても慎重で、常にトランプを前面に押し出していました。メディアの前で発言することはほとんどありませんでした。

ペンスが、10月4日に行った演説は異例なものでした。演説のタイトルは「政権の対中政策」。本来ならば、大統領がやらなければならない、中国に対する宣戦布告のように思われる、米政権の包括的な対中戦略を述べたのです。この演説には大きな意味があり、エッセイ62「アメリカの対中国全面攻撃」で触れました。

ペンス演説が米政権の公式な演説だったことは、演説台に、ワシのシンボルと「VICE PRESIDENT OF THE UNITED STATES」の文字が書かれた、副大統領の紋章があったことからも分かります。

日本の多くのメディアは、演説直後にはその意味を理解できなかったらしく、報道はとても控え目でした。10月末にはやっと重要性に気づいたらしく、新聞や雑誌が大きく取り上げるようになりました。

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トランプではなく、ペンスがこの演説を行ったことの意味は、現時点ではまだはっきりしません。ナバロなどのタカ派(全面的な覇権戦争を主張)と、財務長官ムニューシンなどのハト派(対中経済関係を重視)の戦いが背後にあり、この演説をちゅうちょしたトランプに代わって、タカ派が支持するペンスが行った、という評論家の指摘があります。この理解は単純すぎます。

頭が切れて慎重なペンスが、面と向かってトランプに挑戦する状況を受け入れるとは、思えません。次期大統領を狙っているから、トランプの前にしゃしゃり出たと指摘が続きます。トランプは、2020年の次の大統領選挙にも出馬しますから、この推察もあり得ない。ペンス演説はトランプの了承のもとに行われたのです。ペンスに野心があれば、トランプは全力をあげてペンスをつぶすので、このように大事な演説を任せるはずがありません。

本来ならば、激烈に反応するはずの中国がとても控え目です。トランプを甘く見ている習が、11月1日にトランプに電話をかけ、ろうらくすることを狙いました。早速効果が出て、トランプが、中国との貿易合意文書の作成を関係閣僚に求めたようです。トランプによると、貿易協議はとてもうまくいっているそうです。朝令暮改のトランプのこと。今日は習の親友でも、状況が変われば明日は敵になります。

トランプの性格を知り尽くしているタカ派が、後戻りできないように釘をさしたのが、ペンス演説だったのかもしれません。ペンスも政治家ですから、自分が置かれている種々の状況を注意深く考慮して、あのように出しゃばった演説をしたはずです。トランプよりもペンスの判断のほうが確かと思われます。日和見主義者のトランプにはどうにもできない流れが、確実にあると思います。

336

チラシを使ったサイバー攻撃に注意

2018年10月19日

今朝、マンションの掲示板に、郵便受けに投函されたチラシに注意するようにとの、警告のポスターが貼ってありました。郵便受けに入っていたチラシの内容は、次の通りです。

悪用厳禁!
思い通りにあやつる!
もしかして無料?
http://bit.ly/〇〇〇(URLの最後をあえて隠します)
ラインのコードリーダーでも読み込めます!
(ここにバーコード)

マンションにセキュリティに詳しい居住者がいて、管理室へ警告したのだと思います。上のURLは短縮サイトと呼ばれ、サイバー攻撃によく使われます。アクセスすると、パソコンやスマホに悪意のあるコードが仕込まれる可能性があります。

上のURLをなりすましメールに載せて送り、攻撃サイトへ誘導するのが、ハッカーには一番簡単なやり方です。チラシは、私のマンションの全戸へ配られたようです。周囲にマンションがたくさんあるので、他のマンションでもチラシが投函されたと思います。これだけの労力を注ぐからには、単独犯ではなくグループで活動しているに違いありません。チラシ作戦に効果があるならば、他の地域でも同様のチラシが投函されていると思います。うっかりアクセスする人の割合が小さくても、投函数が多ければ、元手を取れるだけの人をだますことができます。

URLへのアクセスやバーコードの読み取りは、決してやらないでください。

335

米中覇権戦争

2018年10月11日

今月、某所で米中対決に関するプレゼンをします。同時に、現在まとめている評論をこのサイトにアップします。予告編として、プレゼン用レジュメをここに書いておきます。エッセイ59「中国をつぶすアメリカの戦略」は前編になります。

1.日米貿易摩擦との比較

類似点:日米貿易摩擦は1950年代の繊維から始まり、1980年代の半導体まで約40年に渡った。米中貿易戦争は1990年代の食品・繊維から始まり、約30年が経過した。日本のGDPが世界第2位になったのは摩擦開始から10数年後で、中国も同様の年数で第2位に到達した。1980年代中後半に日本がバブルになり、日本型現代資本主義の優位性がうたわれた。中国は2010年代中後半にバブルになり、中国式国家資本主義の優位性がうたわれた。日本のバブル時に、ライトハイザーが通商代表部(USTR)次席に就任し、日本つぶしで活躍した。彼は中国バブルの時期にUSTR代表に就任し、中国に対して厳しい交渉を展開している。

相違点:米中対決は、市場・資源・外交だけではなく軍事にまで拡大中。日米貿易摩擦では、同盟関係にある日米に軍事対決が生じなかった。米中対決は、太平洋戦争と日米貿易摩擦を足した様相を呈し始めている。覇権戦争が開始された。

* * * * * * * *

2.米中対決の展開

2008年のリーマンショックは、西側世界を金融・経済危機におとしいれた。ところが、中国は約60兆円の景気刺激策を実行し、世界を奈落の底から救うのに貢献。中国は急速に自信を深め、2012年に習近平の「偉大な復興宣言(中国の夢)」。続いて「一帯一路」構想が提言され、南シナ海人工島の建設が始まった。2015年に、ハイテクで世界制覇を目指す「中国製造2025 」が提言された。

中国へのアメリカの敵対意識が鮮明になったのは、2017年にトランプ政権が誕生してからだった。学者で対中強硬原理主義者のナバロが、トランプ政権の誕生時に国家通商会議代表に就任。ナバロの理念が、トランプ政権の経済・外交戦略の基礎になっている。2017年に、米政権は中国を「修正主義勢力」と規定し、対決の指針を示した「米国家安全保障戦略」を成立させた。2018年に、具体的な戦術を述べた「米国家防衛戦略」が成立。第1 回米中通商協議で、アメリカは中国に対して無法な要求を提出し、貿易戦争の宣戦布告を行った。続いて、矢継ぎ早に中国からの輸入品に追加関税を課した。

中国は、最初はトランプ政権のレトリックをハッタリと判断したが、通商協議と追加関税からアメリカの本気度を疑わなくなった。アメリカの攻撃のスピードとスケールが、中国の想定には入っていなかった。中国は現在立ちすくんだ状態になっている。

* * * * * * * *

3.米中覇権戦争

米中対決の最初の頃は、中国の膨大な貿易黒字にメディアの注意が注がれた。中国政府もアメリカの最大の懸念はそこにあると判断した。けれども、ナバロの強硬な対中原理主義がトランプ政権の柱になる前から、米国防総省は中国の軍事的な動きを警戒していた。世界覇権に挑戦する意思を明確にした中国に対して、国防総省ばかりか、米議会・政府や国民の心理は、覇権戦争へ大きく傾いていたのだ。

2017年後半から、トランプ政権は、サイバー空間を含めたあらゆる分野での全面対決を明確にした。2029年にはGDPで米中が逆転するという予想が、IMFなどから出ていた。けれども、日米貿易摩擦の軌跡をたどる米中対決が現実になって、この予想ははずれる可能性が高い。アメリカは中国の弱体化が明確になるまで、軍事対決もいとわないと思われる。

貿易戦争の政治や経済への負の影響は、中国国内ですでに明確になっている。政経一体の中央集権体制では、経済のほころびが政治へ及び、政治のほころびが経済へ及ぶ。最大限の強権で国民や政敵の不満を抑えている習政権。中国を恐れないアメリカの全面攻撃に耐えられるとは思えない。

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バクテリアが原因の高コレステロール

2018年9月14日

脂肪分の少ない食事を取っているのに、なぜコレステロール値が高いのだろうか、という疑問を持っている方が多いと思います。私の妻がその仲間に入ります。私にもその気があります。
コレステロールの7~8割が体内で作られ、体外から入るコレステロールは相対的に少ないという事実から、この疑問が生じるのは当然なのです。食事制限では、高コレステロールは簡単には治りません。

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歯周病菌が作る脂質が、心疾患を引き起こすことが知られています。この患者の動脈の内膜にドロドロとした脂質がたまって、動脈硬化を引き起こすのです。ここからヒントを得たコネチカット大学の研究グループが、腸内細菌が作り出す脂質と血中コレステロールの相関を研究しました。腸内細菌の数は100兆個に近く、歯周菌数を大きく上回っていることが、この研究の大事なポイントになります。

代表的な腸内細菌であるバクテロイデスが、脂質を効率的に合成します。この細菌が作る脂質の構造は、動物が作り出す脂質の構造とは異なります。この脂質が、腸管壁を通過して血管に入り、血管壁に付着するのが問題なだけではありません。私たちの免疫系が、細菌の脂質を敵と判断して攻撃し、血管壁に炎症を起こすことが、動脈硬化を悪化させると思われます。

私たちの体細胞の数は60兆個なので、腸内細菌の数の大きさに驚かされます。これらの腸内細菌が、免疫系、神経系、ホルモン系などの多くの体機能に、直接的に影響を与えます。生きるためには、腸内細菌との共存共栄がとても大事です(エッセイ27「驚異の生存メカニズム」)。

333

日本人・大阪なおみ

2018年9月12日

大阪なおみがUSオープンで優勝しました。欧米のメディアの注目が、なおみではなく、テニスの女王セリーナ・ウイリアムズの「驚愕の言動」に向いてしまったのは、致し方ありません。

セリーナが興奮した理由を考えてみます。まず、事前の予想に反して、ゲームの出だしからなおみがセリーナを圧倒していたこと。そこで、客席のコーチが、もっとネットの近くでリターンすることを、身振り手振りでセリーナに命じました。試合中のコーチの指示はルール違反で、セリーナに警告が出ました。これが、セリーナが大荒れになったきっかけでした。そのあとの荒れ方には多分に演技が入っていた、と私は感じました。

ラケットをたたき壊したことなどに対して、ペナルティが課されました。セリーナは、同じルール違反をしても、男性ならばペナルティを与えられないので、女性差別だと審判にどなりました。男性が悪いことをやっていて許されるならば、女性も悪いことをやっていいのですか?他の選手が悪いことをやっているならば、自分はそれをやらないというのが、人間である選手のけじめではありませんか?あなたは、テニスの女王と言われる女性ですよ。

普通にやればなおみに勝てないことが分かり、なおみを動揺させてミスを連発させることを、セリーナは意図したと思います。あのような大舞台に初めて立った20才のなおみ。セリーナを勝たせたい観客の大ブーイングと合わせて、試合の雰囲気がしっちゃかめっちゃかになれば、まともなテニスができなくなるだろうということくらいは、百戦錬磨のセリーナに分からないはずがありません。

ところが、なおみの精神の強靭さは予想を超えていました。動揺が全く表面に表れず、ポイントが加算されなくても勝ったことは明白です。

世界のメディアと個人のネット世論は、なおみに魅了されたことの告白であふれました。勝利者が、表彰式で対戦相手や観客に敬意を示すだけではなく、謝罪するなどということは、欧米の激烈な闘争社会ではあり得ません。自分のいろいろな思いを我慢と忍耐で押し殺し、相手を思いやる気持ちを表現できるのは、自己犠牲に裏打ちされた精神を持つ、日本人以外には余りいません。ただし、勝負では勝ちしか目指さないと断言し、なおみは、相手への敬意で勝負を捨てることがないのを明確にしました。柔道や空手の精神に通じます。

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日本人女性のやさしさと強靭さが入り混じったなおみの言動が、世界の常識からかけ離れていたことが、まず世界を驚かせました。次に、その精神のすばらしさが称賛されました。相手を蹴落とすことしか考えない世界の人たちに、日本人が持つ精神が、驚愕とともに受け入れられることを、なおみが実践で示してくれたのです。

3才からアメリカに住み、ハイチ人を父に持つなおみの肌の色は褐色で、日本語をうまく話せません。なおみを日本人とは思わない、という意見があります。私は、日本人の精神を体現しているなおみを、日本人と思うだけではありません。なおみを日本人にしてくれた両親と、日本人になってくれたなおみ本人に、「日本人になってくれてありがとう」と言いたい。これからも「日本人」でいてください。試合のたびに、やさしさと強さを兼ね備えた日本人女性像を、世界に示してください。戦いに疲れた世界に、なおみの小さな光が当たることには、大きな意味があります。

332

現在保有しているアメリカ株・ETF

2018年8月31日

アメリカ経済が好調なことに加えて、米中貿易戦争ではアメリカが有利(エッセイ59「中国をつぶすアメリカの戦略」)、という評価が固まってきて、アメリカのマーケットが好調です。けれども、中国の痛みが、アメリカにも波及するのは確かな上に、ロシア・ゲートの捜査が、トランプを包囲する形で終了に近づいているので、今後、何が起こってもおかしくありません。

このような状況を踏まえて、私が現在アメリカの証券口座に保有している、株とETFをご紹介します(エッセイ19「アメリカに口座を開いて世界へ投資」)。興味のある方は参考にしてください。

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銘柄選択で、最初にかけたスクリーニングでは、リーマン・ショックの影響を考慮しました。世界の金融と経済に打撃を与えたショックに、少しでも耐性を示した銘柄に、安心感があるからです。リーマン・ショックで80%も値下がりし、10年経った現在でも、まだショック前の価格に回復していない銘柄がかなりあるので、このスクリーニングは重要です。

スクリーニングにトップでパスした銘柄は、次のとおりです。最初が銘柄コード。

◎ NFLX (ネットフリックス、動画提供):ショック時の値下がり率33%、ショック前の価格に戻るのにかかった期間1年
◎ AAPL (アップル、スマホ):40%、1年10か月
◎ IGV (アメリカのソフト関連企業のETF):44%、1年6か月
◎ CHDN(チャーチヒル・ダウンズ、競馬運営企業):44%、2年9か月
◎ IGM(北米テクノロジー企業のETF):47%、1年7か月
◎ FDN(アメリカのインターネット関連企業のETF):48%、1年

5年以上の長期チャートが、素直な右肩上がりになっている銘柄。

◎ IGV、FDN、IGM、MSFT(マイクロソフト、OSとクラウド)、IYW(アメリカのテクノロジー企業のETF)、IXN(世界のテクノロジー企業のETF)

上のリストから、IGVとFDNをまず選びました。私が特に推薦したいのは、マイクロソフト(MSFT)です。FANG(フェイスブック、アマゾン、ネットフリックス、グーグル)の陰に隠れているけれども、チャートは、ボラティリティの低いきれいな右肩上がり。OSで企業に入り込んでいたが、最近は、クラウド・サービスでトップのアマゾンを猛追しています。すでに企業に入り込んでいたことが、クラウド・サービスで有利になっていますす。

アマゾンも主要な保有銘柄の1つです。小売りなどの地についたサービスを提供していることで、収益に安定感があります(エッセイ57「アマゾンの野望」)。

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アップルは、世界的に落ち込み始めたスマホの販売に頼り、グーグルは、情報寡占で世界的に規制をかけられ始めているので、常時保有というわけにはいきません。エヌビディアは、自動運転車の頭脳を提供するので、評価が高い。けれども、中国ビジネスに大きく依存しているところが、要注意です。ネットフリックスは、ディズニーやアマゾンなどの競合企業との競争が激しくなっているので、これも要注意。

一般的にいえば、流行りすたりで、業績の変動が激しい企業に投資するのは、危険です。最近急に伸びた企業は、いつ没落してもおかしくありません。中国のアリババ(BABA)やテンセント(TCEHY)には、投資していません。

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謎の犬仲間男性の死

2018年8月22日

その男性は40歳代。名前を仮にAとし、飼い犬の名前をBとします。Aさんは、私に次のように自己紹介しました。

職業は漫画家だけれども、表向きは女流。女性の名前で漫画を描いている。男性であることが世間に知られるとまずいので、本名もペンネームも教えることはできない。妹がオーストラリアに滞在していたときに、犬を飼った。その妹が亡くなったので、犬を日本へ送った。妹の形見のBを大事にしている。

Aさんの話し方や物腰は、女性よりももっと女性のようでした。両性の感覚を理解しているので、デリケートな漫画を創ることができるに違いない、という感想を私は持ちました。

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しばらくAさんを見かけないので、何気なくAさんのブログにアクセスしました。最後の記事は3月29日に投稿され、パソコンの内臓HDDが「逝ってしまった」ので、しばらく更新できなかった、と書かれていました。Aさんの記事には「」はついていず、私がここでつけました。

Aさんの犬仲間のブログを見て驚きました。Aさんは、4月10日に、心筋梗塞で天国へ「逝ってしまった」のです。Bが死んだら、どうやって生きていけばいいのか分からない、と生前に言っていたそうです。ところが、犬よりもAさんのほうが先に亡くなりました。

Aさんは、Bの犬種のオフ会を主催していたので、Aさんを知っているひとがかなりいました。ちなみに、Bはバセンジーではありません。Aさんに触れているブログをいくつか検索してみると、Aさんの訃報を書いているブロガーは、女性だけでした。Aさんを、ナイーブで繊細なひとだったとか、穏やかでやさしい兄さんでした、などと書いています。100%の男性ではないことが、知り合った女性に、安心感を与えていたように感じます。

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検索していて謎が浮かび上がり、Aさんにとても興味を持ちました。Bを、自分の飼い犬の妹と、ブログに書いている女性がいました。AさんとBに会ったときのことを、詳細に書いていました。Bがオーストラリアの犬というのは、嘘だったのです。

また、2チャンネルに、妹というのは、Aさん自身だと書かれていました。この「妹」が、がんで余命を宣告されてから、Bと暮らす日々を書きつづった本が、出版されていました。この本は、Aさん自身が書いたそうです。それが事実ならば、この本では、男と女の間で揺れ動く、Aさんの女性の部分が前面に出ていることになります。女性として漫画を描いているというAさんの言葉から、ネットの噂を信じたくなります。

Aさんが、女性と犬3頭を連れて歩いているところを、何度か見かけたことがあります。Aさんのブログを読むと女性は登場せず、Aさんは独身だったと思います。けれども、Aさんの死後もBは元気にやっているというので、誰か面倒を見ているひとがいます。

ひとはそれぞれ、自分の中に謎を秘めて生きています。精一杯生きているひとの謎は、深くなる傾向があると思います。

追悼。

330

女性差別で社会にダメージ

2018年8月8日

大学入試試験場の、数階建てのビルの壁をよじ登る人たち。窓から、答えを書いた紙を受験者に投げます。試験会場で、腕時計型、あるいはそれより小さいウエアラブル・デバイスを、こっそりと操作している受験生。外にいる「先生」から、答えを教えてもらっています。
インドや中国の試験会場の風景で、時々テレビで報道されます。それを見た日本人は、「開発途上国だな。この人たちは、ルールをわきまえていない」という感想を持ち、先進国の人間として若干の優越感に浸ると思います。
ところが、日本はもっとひどかった。上の光景は、個人のバカげた行為で済む話です。日本では、組織が長年に渡って、システム化されたルール違反を堂々とやっていたのです。

東京医科大学は、努力した個人に入学という形で報い、卒業後は社会で貢献したもらうために必要な、教育システムの根幹を自ら破壊しました。

衝撃的だったのは、女子の入学者数を制限するための、コンピュータ・プログラムまで使った、高度な差別システムを作り上げたことです。女性だけではなく、浪人歴の長い受験生まで差別の対象でした。「差別」の意味を全く理解できない人たちが、教育機関の運営・管理を行っていたのです。

この大学の運営者は、外国人、身体障碍者、低所得家庭の受験生まで、差別していたのではないでしょうか?差別は社会正義に反する、という理念面の問題だけではありません。多様性を否定すれば、大局的には、社会の動的な進歩を止めることにつながります。

運営者は、病院勤務がきついので、女医を少なくするために合格者を操作した、という訳の分からないことを言っています。これは、大学入試とは全く別の問題です。大学病院は、勤務条件に同意した医師を採用すれば、済むことです。

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患者である人間の半分は、女性です。私の妻は、女医のいる病院へ行きたがります。マーケット的にも、女医がいることは病院にプラスです。
女性どうしのほうが、互いに理解しやすいことが、治療結果にまで反映されます。アメリカの研究論文で、心臓発作で搬入された女性患者の死亡率が、女医に担当されたほうが低くなる、という研究結果が報告されました。

かつて、ヨーロッパの社会主義国では、女性の社会進出を国が全面的にサポートしました。すると、医師と教師が、女性の職業になってしまったのです。選別が男女公平ならば、優秀な女子は、医師や教師になりたがり、競争に勝ってしまいます。私の出身学部は女子にとても人気があり、今では女子学生が圧倒的に多くなっています。

投資では、ファンド運営者が女性のほうが、長期的には成績の良いことが知られています。

329

正論に恐怖する中国政府

2018年8月7日

中国山東大学の元教授・孫文広(80歳代)が、アメリカのボイス・オブ・アメリカの電話インタビュー中に、自宅で治安当局者によって逮捕されました。孫は、中国によるアフリカでのバラマキ外交に批判的で、公開書簡を発表したのです。貧しい人が多い中国が、こんな形で金を浪費するのは、社会にとって無益である、と主張しました。

高齢者の孫の過激でも何でもない主張に、最大限の強権で反応する中国政府。孫は特別な事例ではなく、似たような例が他にたくさんあります。

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「中国をつぶすアメリカの戦略」に書きましたが、中国政府のこの自信のなさは、国内に深刻な問題を抱えていることの、明確な証拠です。アリの一穴から堤防が崩壊することを、極端に恐れているのです。中国の堤防は、やわらかい土で作られた堤防です。水位は、すでに危険なレベルにまで上昇しています。

孫と私の意見は、基本的に一致しています。私の上のエッセイ評論で、中国のバラマキ外交は、中国を崩壊させる引き金になる可能性があることを、指摘しました。

中国は、ソ連の歴史から何も学んでいないようです。冷戦時代に、ソ連は、軍事・経済・外交でアメリカと真正面から対決しました。ソ連圏を世界へ広げるために、弱小開発途上国を中心にして、バラマキ外交を行いました。特に、アメリカの足元の国・キューバには力を入れました。リターンのない投資。ソ連ばかりか、キューバなどの開発途上国にもダメージを与えたことは、歴史家ではなくても知っています。 中国は、ソ連と同じようなことをやっています。経済的に困窮している開発途上国を中心に、バラマキ外交を展開しています。実質的なリターンのない投資が、中国を弱体化させます(「中国をつぶすアメリカの戦略」を読んでください)。

アメリカとの軍拡競争も、中国の弱体化に拍車をかけます。これもソ連が経験したことです。中国政府が極端に神経質になって、やっと抑えている国内の根深い問題が、アリの穴から一気に噴出します。それが、体制を崩壊させる可能性が極めて大きいことに、隣国としては注意が必要です。

328

スマホ・麻薬中毒の共通性

2018年7月29日

昨日、BBCテレビで、生理学と心理学の視点から、スマホと麻薬の中毒に共通性があることを指摘した、ドキュメンタリーをやっていました。

スマホの着信音が鳴ると、ストレスを高める副腎皮質ホルモンの血中濃度が、顕著に上昇します。これは麻薬の禁断症状に似ていて、SNSを見る以外のことをする、心の余裕がなくなります。「いいね」を見ると、脳で快楽物質のドーパミンが産生されるので、快楽を得るために、「いいね」をもらうことに全力をあげるようになります。麻薬を使うのと同じ状態です。

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フェイスブックなどのSNS提供企業は、心理・行動学から、色、絵文字、文字数、スクロール範囲などを決めています。赤いボタンがあれば、クリックしなければ不安になります。下から何が出てくるのか、期待を高めながらスクロールします。BBCの評価は、ユーザーをSNS中毒にするために、これらの企業は全力をあげている...です。

SNS企業は、自分たちの仕事の影響力を、よく理解しています。企業の幹部には、自分たちの子供にスマホの使用を禁じている人が、多いそうです。インタビューを受けた企業の技術者は、私用のスマホの画面を白黒に設定しています。色の強烈な効果で、自らが中毒になることを恐れているのです。

フェイスブックは、6~12歳向けのSNSを計画しています。BBCだけではなく、私もこのような計画には反対です。

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こんなことを書くと、皆さんは、突拍子もないと思うかもしれませんが、スマホ中毒は、生物としての人間の本能の奥底から生じる、根深いものです。

私たちのからだは、60兆個の細胞(各々が基本的には単細胞と同じ)の協調によって、機能しています。単細胞生物だった祖先が、10数億年に多細胞生物になりました。生存のための選択でした。からだの細胞の1つひとつが、生存のためにはコミュニケートが必要なことを、知っています(エッセイ2「絶滅をバネに進化する生物」)
人間を含む生物は、個体間の協調がなければ、今を生きることが不自由になるだけではなく、子孫を残すことができません。人間は、特に高度な社会的動物で、他人とコミュニケートすることへの本能の現れ方が、技術の進歩とともに変わっていきます。SNSによって、1日24時間どこにいても、コミュニケートが可能になりました。それが成功すれば、本能の奥底から噴出する快感の頻度が、劇的に高まります。逆に、うまくいかないと、1日24時間強いストレスが生じ、自殺にまで追いつめられる例があります。

私は、スマホを最低限の目的にしか使いません。金融機関が送るワンタイム・パスワードの受信と、最低限の通信だけです。ネット関連の活動の大部分を、パソコンでやっているので、パソコンから離れれば、ネット空間から完全に切り離されます。周囲に全く注意を向けず、デジタル画面に埋没している歩きスマホの人を見ると、スマホを今以上に使う気にはなりません。

327

思春期に戻る中学同級会

2018年7月22日

中学校の同級会へ行ってきました。子供だった小学時代、大学受験で忙しかった高校時代、おとなへ踏み込んだ大学時代。中学時代は、人生の中でも特異な輝きを放っています。夢と希望が複雑に入り乱れ、思春期の情緒的な不安定さに、自らが翻弄されてしまいます。

というわけで、初恋の女性のエリコに会うのが楽しみでした。ネコのように輝く目を持った、控えめで口数の少ない女の子でした。その目の力に圧倒されて、私は話しかけることもできませんでした。そんな彼女が、今は迫力のある立派なオバサン。目は、好奇心に満ちたオバサンの目になっていました。

がっかりすると同時に何となく安心し、気楽にエリコと話すことができました。エリコが初恋の人だったことを彼女に話すと、ちょっとだけはにかんだ様子を見せたので、一瞬中学生になることができました。

「ジュンちゃんが、私に好きって告白したことがあるわ」と、その会に来なかったサトコが、他の同級の女性に言ったそうです。サトコの家は近かったので、生き帰りに一緒だったことはあっても、本命はエリコでした。

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自然の真っただ中にあった実家。隣の悪ガキと一緒に遊びまわる毎日でした。その悪ガキが、自ら建設会社を興して大成功。「ベンツのスポーツカーを持っていたけど、レクサスのほうがずっと快適なんで、そのスポーツカーを兄貴にタダであげちゃった」そうです。

中学同級会では、今の現実からはるかに離れた過去へ、タイムトリップしてしまいます。その間に存在する時間がすっぽりと抜け落ちてしまうので、共通の人生経験を持たない人たちと、会話をすることになります。
中学時代の思い出話だけでは、1泊の同級会で間が持ちません。特に、私は高校時代から地元を離れ、世界中で仕事をしてきたので、地元を中心の人生を送ってきた同級生との間で、共通のトピックを探すのに苦労します。その点では、大学の同級会のほうが楽です。

と、いろいろありますが、今では中学時代は遠く離れた夢の世界。現実からちょっと離れた時間を持てるのは、楽しいものです。

326

超監視国家・中国

2018年7月11日

アメリカが、中国の先端技術開発に、強い警戒感を抱いています。ところが、中国が、アメリカに追いついただけではなく、すでに差をつけてしまった分野があります。

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超監視国家・中国は、オーウェルの「1984年」を超えてしまいます。中国では、先端監視技術を黒科技(ブラック・テクノロジ―)と呼びます。「携帯電話捜査官」と呼ばれる機器は、スマホのパスワードを数秒で破り、通話などの個人情報を盗んでしまいます。データを消去しても、回復されてしまうのです。

中国の顔認識技術は世界のトップで、至るところに存在する、監視カメラ、ロボット、ドローン、スマート眼鏡などの種々の端末が集めた情報が、AIで解析されます。DNA分析機のデータまで、解析の対象になっています。人々の日常生活が、国家権力によって完全に把握されるのです。

中国が行っているのは単なる監視ではなく、国民を支配するための、信賞必罰システムが確立されつつあります。一人ひとりの信用度を査定する、社会信用システムが始動しました。

信用度が数値化され、信用度によってローン金利に差をつけられたり、病院で優遇・冷遇されたりします。信用度が低ければ、交通機関の使用まで制限されます(ゲートはスマホでパス)。中国では、AIによって管理された無人スーパーが増えています(スマホで支払い)。国の政策に反対する国民は、スーパーの買い物まで不可能になる未来が、予想されます。造反する国民を、公の手続きを経ずに、社会から効率的に抹殺することが、可能になります。

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監視され、管理されるのは必ずしも不快ではなく、多くの国民が、国による監視を受け入れているようです。中国人だけではなく、日本人にも監視を歓迎する人がいます。私のマンションの理事会で、敷地内の至るところに、監視カメラをつけることを、主張する人がいます。現在、マンションの出入り口は勿論、ゴミ集積所、エレベーター内にまで、監視カメラがついています。この人は、各戸の玄関を監視できるように、通路にまでカメラをつけることを主張しています。

私は、全ての権力者が、愛と倫理をかねそなえた、人々のプライバシーを大事にする善人とは思えないので、監視国家には反対です。

325

米中が引き起こす大暴落への準備

2018年6月30日

市場が大暴落する確率が高まっていることを、市場関係者が指摘しています。西側だけではなく、習近平に近い中国政府の研究者までもが、極めて高い確率で金融恐慌が起こる可能性がある、とする報告書を提出しました。中国では、株安と元安が同時進行しています。

人間心理が市場の動向に強く影響するので、関係者が危機到来を予測すると、その予測が危機の具体化を速めます(エッセイ4「セリング・クライマックス」)。危機が現実になると、リーマン・ショックで見られたように、経済のあらゆる分野へ負の影響が広がります。リーマン・ブラザースという投資会社の破綻に続いた、世界経済の落ち込み。回復するまでに10年もかかりました。

現在、危機の中心にあるのは勿論米中です(エッセイ59「中国をつぶすアメリカの戦略」)。中国内部には、膨大な債務のマグマが溜まっています。一帯一路での海外進出や、他国の企業買収などが、コントロール不能な不良債権の爆発を引き起こす可能性は、前からありました。肉を切らせて骨を切るアメリカの対中攻撃が、突然にフル・スケールで始まったことによって、中国が崩壊する可能性が大きくなりました。

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リーマン・ショック以上の激震に備えるために、私がやっていることを、ここに書いておきます。
基本的には、リーマン・ショック前後の株、ETF、投信などの値動きを参考にして、投資先を選びます。落ち込みが比較的小さかった上に、ショック前の水準へ回復するまでの期間が、短かった銘柄を選びます。リーマン・ショックで80%も下落した銘柄や、アメリカやオーストラリアのREITのように、10年経った今でも、ショック前まで回復していない(配当金を除いた価格だけ)銘柄があるので、この検討は極めて重要です。

情報収集には注意が必要です。リーマン・ショック時の値動きを知るには、できれば2006年からのチャートが必要です。ショック前の価格の天井は2007年前後でした。日本版YAHOO!ファイナンスでは10年間のチャートしか表示しないので、今は、2008年後半以降の値動きしか、見ることができません。米国版YAHOO!FINANCEでは、20年でも30年でも、上場以来の値動きを見ることができます。

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次のショックは、米中という2大国の経済を直撃するので、リーマン・ショック以上の衝撃を世界に与えることは、間違いありません。回復までに10年以上かかると思います。その間に、日本の財政が破綻する可能性が大きく、日本の庶民としては、最悪の状況に対する準備が必要です。

324

中国がアメリカの決意を誤算

2018年6月26日

対外的な問題が生じた場合、中国政府は、主に2つの戦術を取ります。

1.表と裏を完全に使い分ける。北朝鮮への貿易制裁を支持する、と公言しながら、裏のルートで交易を続けた。貿易で他国へ厳しい制限をかけていながら、中国は自由貿易のリーダーだと言う。

2.他国へ10倍返しをする。尖閣問題で、日本からの輸入品の検査に時間をかけたり、レアアースの輸出を止めただけではなく、暴徒に日系企業を襲わせるようなことまでやった。THAAD問題では、韓国に対して同じように攻撃。

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アメリカは、宣戦布告(エッセイ59「中国をつぶすアメリカの戦略」)で、中国を全面的に攻撃し、弱体化させる意図を明確にしました。不思議なことに、10倍返しが得意な中国が、とても抑制された反応しかしていません。私は、上の評論で、その理由を推測しました。アメリカの攻撃が想定外だっただけではなく、正面衝突をすれば、中国が負けることを知っているために、抑制的な態度を取っているのだと思います。

それにしても、中国の誤算は、不思議と言っていい範疇に入ります。日米貿易摩擦では、日本が、アメリカを経済的に凌駕することしかやりませんでした。中国は、経済的に世界覇権を握るだけではなく、軍事覇権への野望まで明確にしました。自身への過大評価とアメリカへの過小評価が、中国の判断を誤らせたとしか考えられません。このような究極の挑戦を受けたアメリカには、全面攻撃の選択しかあり得ません。アメリカの対応は、日米貿易摩擦をはるかに超えるものになります。

もっとも、間違えたのは中国人だけではありません。日本の元外交官が、アメリカの最後通告を「ハッタリ」と評しました(No.320「はったりではないアメリカ」)。アメリカをよく研究していたはずの日本人も、判断を誤るほど、アメリカの決意は、覇権維持の本能から直接的にほとばしり出たのです。

事態は急転していて、中国国内でも、政府がアメリカの判断を見誤ったことを、認める論調が出ています(オンライン版ロイター6月26日「中国指導部の対米貿易方針、国内で疑問視」)。公に政府批判をすると、厳しい処罰が待っている中国で、このような批判が表に出るのは異例です。批判は、アメリカと正面衝突をしても、中国には勝ち目がないことを認めています。

日米貿易摩擦は、摩擦が明確になってから日本が弱体化するまで、20年以上かかりました。米中貿易不均衡がはっきりしてから今までに、10年余りかかっています。日本が前例ならば、中国の弱体化がはっきりするまで、あと10年ほどかかるかもしれません。日本に勝利したことで確信を持っているライトハウザーは、その程度の時間はかかると考えているはずです。中国とは、経済だけではなく軍拡競争も含むので、それ以上の時間を予想している可能性さえもあります。

323

米中貿易協議決裂、全面戦争へ

2018年6月22日

5月初めから1か月の間に、3回に渡って行われた米中貿易協議が決裂し、今後の協議予定がなくなりました。そもそも、アメリカには「協議」する意思は全くなく、自分たちの要求を中国に完全に呑ませるのが目的だったので、協議が決裂するのは当然でした(エッセイ59「中国をつぶすアメリカの戦略」)。

その結果、アメリカの制裁がさらにエスカレートしました。トランプは、最初は、モノの対中貿易赤字3750億ドル分のうちの、2000億ドルを対象にして制裁関税をかける、と言っていました。今は、中国がアメリカの要求(恫喝)に完全に応じないならば、赤字額ではなく、中国の対米輸出総額5000億ドル(55兆円)に制裁関税をかける、と言っています。

それだけではなく、中国の対米投資を厳しく制限する方針を、打ち出しました。中国からの対米投資は、すでに激減しています。さらに、スマホなどの通信機器を生産する、中国の巨大メーカー・ファーウェイに標的を絞りました。ファーウェイとAIなどで戦略的提携をしているグーグルを、与野党の議員がそろって厳しく批判しました。提携解消を要求しています。

中国攻撃は全面戦争の様相を帯びていて、アメリカに30万人以上いる中国人留学生にも、攻撃の矛先が向いています。これらの留学生が、大学の研究者と接触したり、卒業後に国内の企業へ入社し、種々の情報を中国当局へ流すスパイの役割を果たしている、というのです。アメリカ政府は、ビザの規制や、疑わしい大学院生の追放などを検討しています。

* * * * * * * *

対中摩擦は、日独関係にも飛び火しています。ドイツにとっては、EUの外では中国が最大の貿易相手。自動車などの重要な輸出先になっています。最近、中国の企業が、経営がおかしくなったドイツ銀行の大株主になりました。ドイツが主導するインダストリー4.0で、中心的な役割を担うドイツのロボット製造会社が、中国の企業に買収されました。

このような事態に、ドイツの情報機関が厳しい警告を発したのです。ドイツにとって、日本は大きな市場ではないこともあって、メルケルの日本への態度は今までは冷たいものでした。ところが、中国の脅威とアメリカとの貿易摩擦で困っているメルケルが、日本へラブコールを送りました。
「ロシアの両側に存在するドイツと日本は、経済や外交で協力しあうことで、両国とも大きな利益を得ることができる」、と議会で証言したのです。 対中国・対米問題を考えると、ドイツが親日になるのは、日本にとってプラスです。

322

自分のためにする忖度

2018年6月22日

森友・加計問題で、野党・マスコミ・元官僚の一部からの政府攻撃に、やっとウンザリという声が出始めました。忖度がどうこうという終わりのない議論が続き、単純な事実が見えなくなっていたので、ここで整理してみます。

「誰のために忖度をするのか?」。勿論、官僚自身のためです。どの組織でも、組織の上層部が、日常的な業務活動の全てを部下に指示できるはずがないので、トップの方針をブレークダウンし、自分のレベルの業務に、その方針を反映させなければなりません。会社ならば、社長の経営方針を社員が忖度し、自分のレベルの業務に反映させます。

この忖度をうまくやれる組織の構成員が、組織全体の業績をあげるのに貢献し、その構成員は、上司や部下から高い評価を受けます。それが、その構成員の昇給や昇進につながります。忖度が自分自身のためになるので、自分のために忖度をすることは、誰でも知っています。

官僚組織の業務は、典型的なチームでやる仕事になります。自分の昇進は、自分が所属する部局内の、自分に対する評価に左右されます。その部局の評価は、部局が所属する省庁への評価から、影響を受けます。省庁を評価するのは行政のトップの政府なので、政府の方針を業務に反映させる、すなわち政治家の方針や意向を忖度するのは、当たり前というだけではなく、義務です。

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問題は忖度の有無ではなく、自分の評価を上げるための、文書の書き換えなどの違法行為です。このような違法行為は、忖度とは次元が違う問題なので、忖度から切り離さなければならないことは、当然です。あるいは、籠池のような「悪者」が、官僚の忖度意識を巧妙にあやつって、自己の利益を最大限に上げるような現実があることに、当の官僚が気づかなければなりません。

321

教育無償化は当然

2018年6月15日

政府が、不完全ながらも、教育無償化へ向けての取り組みを始めました。「教育が無償になると、生徒・学生のやる気が失われ、学力が低下する」という反対意見があります。けれども、日本の現状を考えると、こんな「ぜいたくなこと」を言っている余裕はありません。

日本の実情が見えてくる以下のデータは、エッセイ56「教育と医療の恐ろしい現実」から持ってきました。

1.低い所得水準:1人当り国民所得はOECD33か国中第17位
2.高い国民貧困率:16%の国民が貧困ライン以下でOECD第7位
3.少ない教育予算:公的支出割合はOECD32か国中第32位(最下位!!!)
4.高い私費負担率:高等教育私費負担率は59%でOECD第3位
5.低い大学進学率:51%でOECD第22位

他国に比べて、日本の教育予算の少なさが目につきます。親が、多額の負担を受け入れているのです。給与水準が高かったときには、国に代わって、親が子の教育費を負担することに、余り問題はありませんでした。ところが、時代は大きく変わってしまいました。

時々ニュースになりますが、増え続けるシングル・マザ-には、生活が特に困窮している人が多く、子供の食べ物にも事を欠いています。義務教育さえも重荷になっている家庭が存在することを、無視することはできません。

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教育は、研究・技術水準を高め、国に経済的な繁栄をもたらすだけではありません。伝統や文化の維持に貢献するので、国民に精神的な支えを与えます(エッセイ6「人間は教育によって人間になる」)。日本という国に生きるために、この支えは極めて重要です。伝統や文化の維持は、回りまわって、海外からの観光客の増加につながるので、実益に直結します。

膨大な負債を抱える政府に、教育予算の大幅な増額はできない、という意見があります。税と社会保障負担金の合計を国民所得で割った、国民負担率は、他の先進国の平均並みになっています。税などの収入の上からは、国が、イギリス並みの教育費負担をすることは、可能なはずです。
それができないとすれば、問題は予算編成にあります。 教育に重点的に配分するような、将来を見据えた予算編成にしなければ、消費税をいくら増額しても、ザルに入れた水のように、税は意味もなく垂れ流されます(エッセイ56「教育と医療の恐ろしい現実」)。

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はったりではないアメリカ

2018年6月4日

先日、元外交官と、米中貿易摩擦について話し合う機会がありました。元外交官は、エッセイ59「中国をつぶすアメリカの戦略」に書いた、「枠組みの草案」を知りませんでした。私が説明すると、「それはブラフ(はったり)だ」という感想を述べました。外交にブラフはつきものという常識からの判断ですが、個々の案件に常識が常に通用するわけではない、という単純な事実を分かっていないようです。

米中の国力の差はまだ大きく、アメリカははったりで中国を脅す必要はありません。「枠組みの草案」に書いた中国に対する侮蔑的な要求を、そのまま実行することを望んでいる、と理解するのが現実的です。
中国の南シナ海への進出が、ブラフではなかったことを忘れてはなりません。 中国と周辺国の力の差が大きいので、普通ならばブラフと考えられるようなことまで、中国は簡単に実行してしまいます。

元外交官は、日米貿易摩擦のことも忘れていたようです。日本側からはブラフと理解したかったアメリカの要求が、ブラフなどではなく、日本への強制になったという現実がありました。

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米中対立の進展は速く、「枠組みの草案」が中国に突きつけられた、5月3~4日の第1回米中通商協議の1か月後の6月3日に、3回目の協議が終わりました。中国が、輸入額を増やすという小手先の対応で済ませたいのに対して、アメリカは、中国の経済構造を弱体化させることを、望んでいます。日米貿易摩擦で、日本弱体化に成功した戦略です。

中国は必死ですが、アメリカが長期的な展望に立って、中国弱体化を進めている様子は、協議参加者のリストに表れています。3回目の協議に、ライトハイザーもムニューシンも参加しませんでした。ライトハイザーは、日米貿易摩擦で日本と対峙した、通商代表部(USTR)に所属しています。現在はその代表になっています。中国との対決の最前線に立っている人です。「枠組みの草案」で中国へ要求を突きつけたので、協議をすることはもはや重要ではなく、中国に要求を実行させるだけ、というアメリカの態度が見え見えです。

319

生きるための生物学

2018年5月26日

地球の大気にも水にも土にも、実に多種多様な原子、分子、物質が含まれています(「ビッグバンから始まった生物の進化」)。この環境で誕生した生物が、38億年も進化を続けました。この間に、地球の物理学的・化学的・生物学的な環境が、一瞬も休むことなく変化し続けました(「絶滅をバネに進化する生物」)。
生物のからだは、地球環境を反映したものになっています。環境の一部なのです。従って、からだはあらゆる栄養素を必要とし、変動する自然に逐一反応することによって、体機能が最大限に高まります(「驚異の生存メカニズム」)。

これが、生物の基本的な生理です。これを理解するために、進化論を知識として学ぶだけではなく、自分のからだを詳しく観察し、からだの感覚を意識することが、大事になります。周囲の植物や動物の生きざまを見、それらに触れることも必要です。

からだは、栄養素を必要としているだけではなく、生きるために100兆個もの腸内細菌と共生しています。ウイルスでさえも、からだを生かすための協力者になっています。

生物であるからだの理解が十分になれば、生存を危うくする潔癖主義、売らんかなの美容・健康食品、テレビの瞬間体改造番組に、惑わされることがなくなります。それは、日常生活におけるストレスからの解消につながります。
むやみやたらに手を洗い、ウイルス・バクテリア殺菌剤を空中へスプレーし、空気清浄機なるものをガンガンかけ、美容と健康のために野菜と果物のジュースしか取らず、5分間のストレッチでからだの構造を変えるなどいうことは、無駄であると同時に、からだへ負の影響を与えることが分かります。

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からだをより健康にすることは可能です。それは、上のような安易な方法ではできません。環境に存在するあらゆる栄養素を食べ物で取り込み、長期に渡る運動を行うことで、からだは次第に変化します。生物が持っている環境変化への高度の柔軟性が、それを保証します。

特に脳の活性化が大事で、皮膚にコラーゲンを塗るよりも、頭を常に創造的に使っていれば、若返りは可能です。脳は、からだの全ての機能をコントロールすると同時に、体内・対外から伝えられる各種の刺激情報によって、活性化されます。神経系、ホルモン系、免疫系、循環系、筋肉、腸などが、脳との間で高度なフィードバックを行っているのです。

学校では、生物学は、大事な授業として扱われていません。自分のからだを正しく知ることが、生きるための基本になります。子供の頃から生物を知ることの重要性に、おとなが気づく必要があります。

318

凄惨な孤独死

2018年5月16日

凄惨な話を嫌いな方は、ここを読まないでください。

モンタが永眠してから8年の間、遺骨を居間に置いていました(エッセイ15「最後まで大きく燃やした命の炎」)。先日、ペット可の墓地に遺骨を納骨しました。

ラッキーは、起床したあとに、スフィンクスの姿勢を取っていることが、しばしばあります。今までは、遺骨の前で伏せていました。ところが、納骨してから伏せる場所が変わってしまったのです。現在は、スフィンクスの姿勢を取ることがあっても、場所が決まらなくなりました。

私の理解は次の通りです。納骨前は、私と妻が、モンタの骨壺を見るときの気持ちを感じ取って、骨壺の前に伏せた。納骨後は、私たちの注意が部屋の1カ所に向かなくなったので、どこにでも伏せるようになった。
イヌは飼い主の気持ちに敏感に反応します。特に、古代犬バセンジーのラッキーには、その傾向が強く認められます。

上の経験をしてから、No.317に書いた、日本人の死の状況をここに書くことにしました。

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日本領事館から男性の母への電話によると、息子の顔は、判別不能になっているとのことでした。冬でしたが、腐敗が進んでいたのです。腐臭を感じた周囲の住民の通報で、死亡が確認されました。死後、かなりな時間が経っていたことは、間違いありません。
社長ならば、そこまでの時間が経過する前に、社員が自宅を訪れているはずです。その男性が、経営者だったとは思えません。
領事館の説明はさらに凄惨で、 飼い猫が顔などを食べたことも、判別不能になった理由とのことでした。

姉である知人が弟の部屋を訪れたとき、遺体は病院へ移されていましたが、ネコはそのまま部屋に放置されていました。ネコの顔や体下部には、血が黒くこびりついていました。知人はそれを写真に撮り、帰国してから私の妻に見せました。やせ細ったネコの表情は、茫然自失そのものだったそうです。

第三者がこの話を聞くとゾッとしますが、飼い主には救いになったと思います。孤独をいやしてくれた唯一の存在が、自分の死後に自分の肉を食べ、身内が来るまで生き延びることができたのです。ただし、男性の姉は、ネコを飼うことはできませんでした。

317

上海で孤独死した日本人

2018年5月10日

妻の知人(女性)の弟は40歳代でした。10年ほど前に日本の会社を退職し、中国へ行きました。中国では会社を経営しているということでしたが、帰国することは一度もなく、家族が中国を訪れることもありませんでした。知人の父は亡くなり母は病弱でしたが、息子の生活が苦しいということで、知人の母は、時々生活費を息子へ送っていたのです。

その男性が上海で急死しました。病院から日本領事館へ伝えられた死亡原因は、脳溢血でした。母が病弱で中国へ行けないので、妻の知人が上海へ行きました。

弟のマンションを見て知人は驚きました。汚い安アパートだったのです。弟は一人暮らしをしていたようで、餌をもらえずにやせ細ったネコだけが、部屋にいました。弟の孤独をなぐさめたネコですが、日本へ連れ帰ることはできず、近所の公園へ放したそうです。

知人は、最初は遺体を日本へ運ぶつもりでしたが、移送は難しく、上海で火葬を行い、灰を持ち帰りました。弟が身につけていた、動いていない古い腕時計も持ち帰りました。
ところが、 四十九日を過ぎた日に、腕時計がチクタクと正常に動き始めたのです。その話を聞いた妻は、鳥肌を立てました。

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以前、妻と一緒に、私の両親の墓参りに行ったことがあります。実家には誰も住んでいないので、家の周囲を歩いて両親の思い出に浸りました。閉じられたままの門の前に立ったときに、妻が奇妙な仕草をしました。私は妻の後にいました。妻が、右手で首の後に触れながら、門にぶつかるところまで歩いたのです。その歩き方が普通ではなく、自分の意思に反しているように見えました。
妻が後を振り向いて言いました。「誰かが背中を押したわ」

後には私しかいず、私は妻に触れませんでした。

妻は、それまでは超常現象を信じませんでしたが、実家での経験をしてから、「何かある」と感じるようになったのです。それが、腕時計の話を聞いて鳥肌を立てた理由です。

私の父よりも早く、母が病院で亡くなりました。自宅にいた父が、居間にかけてあった母が描いた子犬の絵が、落ちるのを見ました。日本画を描くことが、母の趣味だったのです。絵が落ちた直後に病院から父に連絡があり、父は、母が亡くなったことを知りました。その子犬の絵を今は私が持っています。

私は、私の妻以上に「何かある」と信じていい状況にありますが、以上のできごとを、確率と心理学で説明することが可能なので、超常現象は信じていません。

316

便秘にスピルリナ(クロレラ)

2018年5月4日

恥ずかしながら、便秘の話です。このところ便秘に悩まされていたので、便秘薬をいくつか使ってみました。オイル系は効果が弱く、漢方系は腹部に痛みを感じさせました。また、ガス(一般的な表現ではオナラ)抜きもできませんでした。

アマゾンで検索して、スピルリナが便秘に使われていることを知りました。スピルリナは、クロレラと同じ仲間の単細胞藻類で、約30億年前に地球上に誕生しました。光合成で酸素を放出するようになった、最初の藻類シアノバクテリア(エッセイ2「絶滅をバネに進化する生物」)と同系統の生物です。

一般的には栄養補助食品として使われています。スピルリナには、クロロフィルと水溶性の食物繊維が豊富に含まれていて、これらが便秘に効果を示します。クロロフィルは老廃物や有害物質を吸収し、水溶性食物繊維には整腸作用がある、と言われています。

苦しいときの神頼みで、2000粒入りで2100円のスピルリナを1袋購入しました。アマゾンらしく翌日にこの商品が到着。1袋に2000粒も入っている理由は、栄養補助に使う場合は、1日40錠も呑むためです。私は便秘改善に使うので、晩にコップ1杯の水で10錠を呑みました。
その効果に驚きました。翌朝快便があったばかりか、しつこかったガス生産が止まったのです。作用機序が上記の通りかどうかはともかく、スピルリナは私の体質にピッタリと合いました。

薬にしろサプリメントにしろ、体質的に合う人と合わない人がいます。スピルリナの副作用は少ないと思われますが、人によっては副作用が出る可能性があります。ネット情報では、便秘改善ではなく逆に便秘を誘導したり、ガス抜きではなくオナラを誘発させたりすることが、あるようです。

315

エスカレートが止まらない米中対決

2018年4月29日

米中貿易摩擦には楽観的な見方があります。貿易戦争は両国にダメージを与えるので、交渉で落としどころを探ることになる、というものです。実際に、アメリカは交渉すると言っています。

日本のメディアは余り報道しませんが、アメリカの報道をフォローしていれば、上記の楽観論は、現実離れしていることが分かります。アメリカが意味する交渉は、落としどころを探るのではなく、自分たちの言い分を中国に完全に呑ませることを、意味します。
アメリカの目的は中国の弱体化で、交渉よりも中国たたきの政策がどんどん打ち出されています。中国が、他国に有無を言わせずに、南シナ海の要塞化を進めているのと同じやり方を、アメリカは貿易で中国にやっています。

この対決は、短期的にはアメリカにも被害をもたらします。けれどもアメリカの戦略は、肉を切らせて骨を切るです。中国の弱体化に成功すれば、アメリカの覇権が維持され、アメリカの国益増大に長期に渡って貢献します。

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米メディアの先月の報道から、アメリカの決意が垣間見えます。

ハイテク製品など、1300品目の中国製品へ25%の追加関税。知的財産権侵害で中国をWTOへ提訴。
スマホとテレコムデバイスで中国トップのZTEとファーウェイへの攻撃。イラン制裁違反で、 アメリカからZTEへの部品供給停止(アンドロイドを使えなくなる)。米政府機関が、ZTEから機器を調達することを禁止。この措置は7年間にも及ぶ。
検察がファーウェイも捜査中で、ZTEと同じ措置になる予定。対象は両社だけではなく、両社と取引のある企業を含む広範なもの。明らかに中国先端企業の息の根を止めようとしている。

3月に、自衛隊護衛艦を含む米原子力空母艦隊が、南シナ海北部で軍事訓練。4月に、B52爆撃機2機とF15戦闘機数機が、南沙諸島中国施設の間の空域を飛行。

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中国は、昨年11月に国賓以上の待遇でトランプをもてなしました。4月のアジアフォーラムでは、習近平が、中国が自由貿易のリーダーであると述べました。けれども、中国の戦術は成功していません。

中国は、アメリカの決意を理解し、現実的な対策を取り始めました。この過程で、日米貿易摩擦の歴史を学んだはずです。
中国経済全体で、影の銀行などの巨大な債務が膨れ上がっています。 貿易戦争になれば経済危機に陥る可能性が大きく、金融に流動性を持たせる対策を取り始めました。負債圧縮よりも経済活性化を優先することになります。減税の検討も始めました。

アメリカの最大の敵は中国なので、日本を自陣営に引き付けておくのが、アメリカには得策です。鉄鋼関税などで日本を中国と同一視すれば、中国は日本へ切り込みます。アメリカを信用できない日本は、中国の秋波に応えることになります。

314

アメリカの理不尽な対日攻撃

2018年4月20日

トランプだけではなくオバマも、日本の自動車輸出を批判していました。いわく、「アメリカの至る所で日本の車が走っている。けれども、東京でアメリカの車を見ることはない」。

小さな島国に人が大勢住んでいる日本。広大なアメリカ。車を走らせる自然と社会の環境が全く異なることを、2人の大統領は忘れているようです。日本人とアメリカ人では、体格まで異なります。車の性能やデザインへの要求が、両国で異なるのは当たり前です。
日本で走っている車をアメリカへ持って行っても売れず、その逆もまた真です。日本企業は、アメリカ向けにデザインした車を輸出するばかりか、輸出するよりも多くの車を、米国内で製造しています。アメリカが日本で車を売りたければ、日本人が買いたい車を作らなければなりません。左ハンドルの、小回りが効かない大型車を購入する日本人が少ないのは、当然です。買ってもらう努力を一切せずに、買わないことを責める感覚を信じられません。

ドイツは、日本人が買いたい車を製造しているので、日本人は喜んで購入するのです。日本が、ドイツとアメリカを規制で差別している訳ではありません。
そもそも、 日本は米車に関税をかけていないのに対して、アメリカは日本車に2.5%の関税をかけています。不公平なのはアメリカです。関税の撤廃を。

韓国政府は、輸入台数をアメリカに約束しましたが、車を買うのは一般国民です。政府が約束しても、売れない車は売れないのです。

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モノの貿易では、日本の黒字が、確かに7兆円ほどになります。けれども、国際間の取引はモノだけではありません。アメリカは、グーグル、マイクロソフト、アマゾンなどのIT企業が圧倒的に強く、日本で高収益を上げています。金融・証券会社も強く、多くの日本人が、モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックス、ブラックロックなどの投信を、購入しています。

映画・音楽では、アメリカが圧倒的な黒字を確保しています。ソニーは、アメリカの映画・音楽産業に貢献しています。旅行収支は、間違いなくアメリカが大きな黒字になっています。さらに、日本は米軍駐留費を負担しています。

日米間の交易収支の合計がどれくらいになるのかは、モノ以外の収支が分からないので、明確には言えません。ただし、両国民の収入を比較することによって、ある程度の推測が可能です。昨年の平均年収は、日本の429万円に対して、アメリカが645万円です。日米間で、賃金にこれだけの差が出る要因は多々ありますが、対日本を含めて、アメリカの国際収支が、大きなプラスになっていることは間違いありません。

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トランプは、日本が円安誘導をしていると批判しますが、為替の長期チャートを見れば、一目瞭然です。長期に渡って円高トレンドが維持されており、特に2007年に124円で天井を打ってから、そのトレンドが明確になっています。

日本政府は、データをもとに対米交渉を進めてください。

313

長期化する米中覇権争い

2018年4月14日

トランプ政権の混乱にはニュース価値があり、アメリカのメディアは、張り切って報道しています。シリア攻撃、ロシアゲート、米朝首脳会談、米中貿易摩擦、対日攻撃、エトセトラ。ツイッターに書く文字の1つ1つが注目されるので、トランプは朝令暮改のつぶやきを書きまくっています。
「中国へ報復関税をかける」で世界の株価が下がり、「両国にプラスになる方向で協議をできる」で株価が上がる。 「シリアへのミサイル攻撃をすぐに実行する」で株価が下がり、「攻撃はまだ未定」で株価が上がる。本日(14日土曜日)、ミサイル攻撃を開始したので、来週は株価が下がります。

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アメリカにとっては、覇権争いをする能力のない北朝鮮やロシアは、長期的にはどうでもいい相手です。

ニューカレドニアの東方に位置する、南太平洋の島国バヌアツ。バヌアツ政府も中国政府も否定していますが、恒久的な中国の軍事施設を構築する協議が、密かに行われているそうです。オーストラリアとアメリカが、警戒を募らせています。

かつてソ連がキューバを囲い込んだように、中国は、アメリカの足元のカリブ海周辺へも手を伸ばしています。カリブの島国のほとんどが、インフラ整備のための巨額な拠出を、中国から受けています。太平洋と大西洋を結ぶパナマ運河の隣に、世界最長のニカラグア運河の建設が計画されています。この建設に携わるのは中国系資本です。

中国の戦略は単純です。一帯一路計画を含めて、経済的に困窮している小国を中心にして、金で言うことをきかせます。少額の投資で地政学的な覇権を握ることができ、短期的には投資効率が良さそうに見えます。
ただし、 1つひとつの投資が少額でも、合計は巨額になります。権益を取得した土地の維持経費が、長期負担になります。投資先は主に開発途上国なので、投資に見合ったリターンは保証されません。腐敗した政権が、浪費する可能性があります。

アメリカに対峙できる軍事力を持つには、追いつくために、アメリカ以上に国富を軍備に注がなければならず、これが中国を疲弊させます。かつて、ソ連は、アメリカとの軍拡消耗戦で負けました。

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私の知人に、中国が覇権を握ることを確実視している人がいて、世界最先端の科学技術都市になると信じている深′wでを、計画しています。Good luck!。

日米貿易摩擦でアメリカの勝利が確実になるまで、10年ほどかかりました。米中対決にも、少なくともそれくらいの時間がかかると思います。覇権に挑戦する敵を叩き潰そうとする、覇権国家の本能が、トランプ以降の大統領も動かします。

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